米Dell Technologies(以下、デル)は5月20日~23日の4日間、ネバダ州ラスベガスにおいて、年次カンファレンス「Dell Technologies World 2024」を開催している。

初日の基調講演では、デルの創業者兼最高経営責任者(CEO)であるマイケル・デル(Michael Dell)氏をはじめ、ServiceNowのCEOビル・マクダーモット(Bill McDermott)氏や、NVIDIAのCEOジェンスン・フアン(Jensen Huang)氏らが登壇。AI(人工知能)がビジネスや社会にもたらすインパクトが語られるとともに、生成AIの普及で求められるAIワークロードに最適なITプラットフォームとして、「Dell AI Factory」が発表された。

  • 「Dell Technologies World 2024」の開場となった「The Venetian Resort」

AIのGDPインパクトは11兆ドルに……

基調講演の冒頭、デル氏は同社が2024年に創立40周年を迎えることに触れ、「19歳の少年が自宅のガレージで起業した時、現在のような素晴らしいチームメンバー、顧客、パートナーとの出会いがあることは想像もしていなかった」と語り、聴衆に感謝の意を表した。

  • Dell TechnologiesのCEOであるマイケル・デル(Michael Dell)氏。19歳で会社を興したのは有名な話

今回の基調講演でデル氏が強調したのは、IT基盤をAI主導の環境に再定義する必要性である。単にAIアプリケーションを導入して個別の課題を解決するのではなく、ITインフラ全体を見直してAI活用に最適化する必要があると訴えた。

「これまでのITイノベーションの積み重ねが、人類のあらゆる領域での進歩を下支えし、世界の基盤となっている。そして現在のAIの発展で、人々の関心はさらなる知的活動へと移行した。(中略)AIが主導する新しい時代へと向かうには、AIを単に既存プロセスの自動化に利用するのではなく、知的活動をさらに活性化して組織全体を再構築し、ビジネスを加速させる必要がある」(デル氏)

基調講演のゲストとして登壇したServiceNowのCEOであるビル・マクダーモット氏も、「今後3年間でAIが世界経済に与えるGDPインパクトが11兆ドルに達する可能性がある。このチャンスを生かすために、企業は迅速に行動する必要がある」とAIがもたらすインパクトを強調した。そして、ServiceNowがデルのインフラ上で稼働していることや、ServiceNowの大規模な言語モデルのトレーニングにデルのサーバを使用していることを紹介し、両社の強固なパートナーシップを印象づけた。

  • ServiceNowのCEOビル・マクダーモット(Bill McDermott)氏。デルとの強固なパートナーシップを強調した

エッジからデータセンターまで、IT基盤を再構築

今回発表された「Dell AI Factory」は、AIソリューションの開発と導入を支援する包括的なプラットフォームである。デルが擁するITソリューションとエコシステムパートナーによる事前テスト済みの統合ソフトウェアとハードウェアで構成されており、企業に必要となるAIアプリケーションを迅速に構築できるよう設計されている。

具体的には、AI開発に必要なツール、フレームワーク、リソースを包括的に提供することで、企業のAIプロジェクトを支援し、AIアプリケーションの展開を簡素化するという。

さらに、デルはAI導入・運用に特化した「AI Professional Services」を拡張し、AIプラットフォームの構築とAI Copilotの活用に必要なツールとフレームワークも提供する。

Dell AI Factoryを具現化する製品群

基調講演では、Dell AI Factoryを具現化する製品として、構造化データ向け次世代ストレージ「PowerStore Prime」、非構造化データ向けオールフラッシュストレージ「Dell PowerScale F910」、エッジコンピューティング向けに設計された「Dell PowerEdge XE9680」などが紹介された。

Dell PowerEdge XE9680は、Broadcom 400G PCIe Gen 5.0イーサネットアダプタをサポート。「PowerEdge」とBroadcom Tomahawk 5チップセットを搭載した400GbEスイッチの「PowerSwitch Z9864F-ON」の組み合わせで、堅牢なイーサネットファブリックと高いパフォーマンス、拡張性、効率を実現するとしている。

  • Broadcom 400G PCIe Gen 5.0 イーサネット アダプタをサポートする「Dell PowerEdge XE9680」

さらに、デル氏はAIアルゴリズムやモデルを端末デバイス上で直接実行できる機能を搭載した高性能PCも紹介した。Qualcomm製プロセッサ「Snapdragon X Elite」および「Snapdragon X Plus」を搭載し、マイクロソフトのPCの新カテゴリー「Copilot+」にも準拠しているという。

  • Dell AI factoryのエッジデバイスとして紹介された「XPS 13」「Inspiron 14 Plus」「Inspiron 14 」「The Latitude 7455」「The Latitude 5455」

NVIDIAのCEO「AIは新たな産業革命」

基調講演で最も注目されたのが、NVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン氏だ。デルとNVIDIAは長年にわたって協業しており、大規模なAI基盤にはNVIDIAのGPUが不可欠であることから、両社のパートナーシップが注目を集めた。今回の基調講演では「Dell AI Factory with NVIDIA」の拡張が発表された。

  • おなじみの革ジャンスタイルで登壇したNVIDIAのCEOジェンスン・フアン(Jensen Huang)氏

フアン氏は、AIについて「新しい産業革命をもたらしている」と指摘した。「人類は歴史上初めてインテリジェンス(AI)を製造する能力を手に入れた。前回の産業革命はソフトウェアの製造であり、その前は電気の発明だった。(中略)AIを取り巻く産業とそれに伴うビジネスチャンスは目前にある。われわれは(AI活用以前の)前世代のIT活用を目的とした1兆ドル相当のデータセンターを擁している」(同氏)

AIを活用するには既存のデータセンターをAIワークロードに最適な形に再構築する必要があり、それを実現するのが「Dell AI Factory」というのがデルとNVIDIAの戦略だ。

フアン氏は「AI Factoryは大規模なインテリジェンスの製造だ。今後はすべての企業がAI企業となり、インテリジェンスを製造する企業となる。そのためには、最先端の"AIファクトリー"を構築し、大規模言語モデル(LLM)やAPIコールを統合したビジネスアプリケーションを開発する必要がある」と訴えた。

「Dell AI Factory with NVIDIA」を拡張

「Dell AI Factory with NVIDIA」は、AIワークロードに特化した「Dell PowerEdge XE9680L」を採用。同サーバは直接液体冷却(DLC)と最大8基の「NVIDIA Blackwell Tensor コア GPU」のサポートをサポートする。直接液冷システムの採用により、コンパクトな4Uサイズの筐体で、高いパフォーマンスを実現。業界標準ラックにおいて最高のGPU密度を実現し、ラックあたりのGPU搭載数を33%向上している。また、PCIe Gen5スロットを20%増設し、外部ネットワーク接続の帯域を2倍に拡張している。

  • 「NVIDIA Blackwell Tensor コア GPU」を搭載した「Dell PowerEdge XE9680L」

両社は、「Dell AI Factory with NVIDIAは、GPUを大量に使用するAIワークロードで高いパフォーマンスを発揮する。さらに、NVIDIAのAI開発フレームワークやツールがシームレスに統合されており、AI開発を効率化できる」としている。

ただし、AIに特化したデータセンターは、電力消費に留意し、熱効率の高いハードウェア、スマートな電源管理、液冷・空冷など、エネルギー使用量を最小限に抑える必要がある。この点についてデル氏は、「デルはエネルギー排出量を追跡・予測するソフトウェアを提供している。テレメトリーを利用して電力と電源管理を自動化する。また、旧世代のシステムを責任を持って廃棄するために、資産回収とリフレッシュ・リサイクル・プログラムをリードしている」と、エネルギー分野においても効率化を図っていると語った。

さらに、デル氏は「AIの可能性を最大限に引き出すためには、責任ある開発と持続可能な実践が不可欠である」と訴えた。「AIは道徳や法律、人間性に反することがあってはならない」とし、AIがもたらす変革を歓迎する一方で、その開発と活用において、倫理的、社会的な責任を果たすことが必要であることを強調した。