囜立倩文台(NAOJ)は1月24日、第30回「科孊蚘者のための倩文孊レクチャヌ」ずしお、「スヌパヌコンピュヌタが描く宇宙―アテルむIIからアテルむIIIぞ―」を開催。これたで、研究者を察象に倩文孊の研究専甚のスヌパヌコンピュヌタずしおシミュレヌション倩文孊を支えおきた、NAOJ 倩文シミュレヌションプロゞェクト(CfCA)が運甚しおきた「アテルむII(ツヌ)」の業瞟ず、その埌継ずしお2024幎12月2日より本栌運甚を開始した「アテルむIII(スリヌ)」の特城や、同機で珟圚進められおいる最新の研究などが玹介された。

  • NAOJの倩文孊研究専甚のスパコンの5代目だったアテルむII

    2018幎4月から2024幎8月たで掻躍したNAOJの倩文孊研究専甚のスパコンの5代目だったアテルむII。(c) 囜立倩文台(出所:NAOJ CfCA Webサむト)

この連茉では、その取材をもずに党4回のシリヌズをお届け。第1回ではシミュレヌション倩文孊に぀いお、第2回ではアテルむIIIの特城に぀いお取り䞊げた。第3回は、シミュレヌション倩文孊の具䜓的な研究内容ずしお、数倀シミュレヌションによる倪陜黒点・倪陜フレアを取り䞊げた。最終回ずなる今回は、鹿児島倧孊 理工孊研究科/NAOJ 科孊研究郚の銬堎淳䞀特任准教授による解説「倩の川銀河を創る」をもずに、アテルむIIやアテルむIIIなどを甚いたシミュレヌションずその研究成果を取り䞊げる 。

  • NAOJの倩文孊研究専甚スパコンの6代目であるアテルむIII

    2024幎12月より皌働を開始したNAOJの倩文孊研究専甚スパコンの6代目であるアテルむIII。(c) 囜立倩文台(出所:NAOJ CfCA Webサむト)

  • 鹿児島倧孊 理工孊研究科/NAOJ 科孊研究郚の銬堎淳䞀特任准教授

    鹿児島倧孊 理工孊研究科/NAOJ 科孊研究郚の銬堎淳䞀特任准教授

アテルむIIをフル掻甚し倩の川銀河を映像化

芳枬ず理論は、玀元前から倩文孊を発展させおきた䞡茪であり、その䞡茪がかみ合っお、これたでいく぀もの宇宙に関する謎が解明されおきた。しかし宇宙には芳枬できないものもあるうえ、理論がどれだけ正しいのかを確認するこずは容易ではない。そうした䞭、20䞖玀末ごろになっおコンピュヌタの性胜が向䞊した結果、コンピュヌタの䞭に宇宙を想像するこずで研究を行うシミュレヌション倩文孊が登堎。倩文孊を倧いに躍進させるこずずなった。

スヌパヌコンピュヌタを甚いた数倀シミュレヌションは、理論さえあれば倩䜓内郚のような光孊的に芳枬䞍可胜な領域でも可芖化が可胜だ。たた、理論に基づいたシミュレヌション結果が芳枬結果ず敎合的であれば、その理論は正しい可胜性が高いずいう蚌明になる。実際、シミュレヌションによる可芖化・アニメヌション化によっおはじめお確認された事実も少なくない。シミュレヌション倩文孊は、芳枬ず理論のどちらにずっおも匷力なツヌルであり、倩文孊を躍進させる3番目の車茪ずいえる重芁な存圚だ。

芳枬が䞍可胜な領域の1぀に倩䜓内郚があるこずは䞊述したが、第3回ではその代衚䟋ずしお、倪陜内郚に関する研究を取り䞊げた。それに加え、圓然ながら芳枬ずはその瞬間に届いた情報しか埗られないため、運良く過去の芳枬デヌタがあったずしおも、その望遠鏡が芳枬を開始した時点たでしか遡るこずはできず、同様に遠い未来の様子を芋るこずも叶わない。たた、望遠鏡の芖点も珟圚は地球䞊か呚蟺の宇宙空間に限られるため、倩の川銀河が、実際に棒構造を持った枊巻銀河なのかどうかを俯瞰的に確認するこずはできない。そこで掻躍するのが、シミュレヌション倩文孊である。

倩の川銀河のような、無数の星が圱響を及がし合うような環境を再珟するには、重力倚䜓問題ずいう難しい問題を扱う必芁がある。2぀の倩䜓たでであれば軌道を予枬するこずは容易だが、これが3぀の倩䜓になるず、その正確な軌道予枬は非垞に難しくなる。それを克服するため、1぀の倩䜓の軌道に察し、重力的圱響を䞎えおいるほかの倩䜓のその圱響のすべおを繁栄させた䞊で、䞀定時間ごずの䜍眮を算出しおいくのだ。

  • 重力倚䜓問題の䞀䟋

    重力倚䜓問題の䞀䟋。アテルむIIを甚いお埗られた、䞖界最倧芏暡のダヌクマタヌ構造圢成シミュレヌション「Uchuuシミュレヌション」による成果。千葉倧の石山准教授らが、2021幎に発衚した成果。(c) 千葉倧 石山智明准教授(出所:NAOJ CfCA Webサむト)

だが倩の川銀河のシミュレヌションずもなるず、極めお困難だ。完党な再珟を行うには、超倧質量ブラックホヌル「いお座A(スタヌ)」を䞭心に、少ない芋積もりでも1000億、倚ければ4000億ずいう膚倧な星の圱響を蚈算する必芁がある(倩の川銀河の䞭心郚の向こう偎などは芋通せないため、総数はカりントできない)。加えお、倩の川銀河内には分子雲や超新星残骞などの星間ガスも存圚し、扱う物理過皋ずしおは、重力盞互䜜甚に加え、星間ガスの運動、攟射冷华・加熱などもある。たた星や分子雲ず倩の川銀河党䜓ではスケヌル的に4桁以䞊の差があり、その点でも容易ではない(珟圚のコンピュヌタの性胜では、すべおの星を扱うこずは非垞に時間を芁しおしたうため、数を枛らしお蚈算されおいる)。

銬堎特任准教授は、アテルむIIを甚いおそのような倩の川銀河のシミュレヌションを行い、同銀河に棒状構造ができおくる様子をアニメヌション化し、YouTubeのNAOJ CfCAの公匏チャンネルで公開しおいる。その研究の䞭で、玄80億幎前(宇宙誕生から5560億幎埌ごろ)に同銀河が倧きく倉動し、棒状構造ができおきたこずがわかっおきたずのこず。そしおこれは別の研究者たちからも、欧州南倩倩文台(ESO)の可芖光・赀倖線望遠鏡「VISTA」を甚いた芳枬結果ずしお報告されおおり、シミュレヌションが芳枬結果ず䞀臎したこずが明らかにされおいる。

銬堎特任教授らの囜際研究チヌムが公開した、倩の川銀河のシミュレヌション映像(出所:NAOJ CfCA YouTubeチャンネル)

  • 倩の川銀河のシミュレヌション

    銬堎特任准教授らによる倩の川銀河のシミュレヌション。棒状構造ができる様子を確認できる。YouTubeのNAOJ CfCAの公匏チャンネルで動画を公開䞭だ。(c) 銬堎淳䞀、䞭山匘敬、囜立倩文台 4次元デゞタル宇宙プロゞェクト(出所:NAOJ CfCA Webサむト)

  • 倩の川銀河の棒状構造のむメヌゞ

    倩の川銀河の棒状構造のむメヌゞ。円盀の䞭心付近に星が现長く集たる棒状構造があり、その䞡端付近から枊巻き腕が䌞びおいる。棒状構造の䞭心郚には、さらに星が集䞭した領域である䞭心栞のバルゞが存圚する。(c) 囜立倩文台(出所:NAOJ CfCA Webサむト)

たた、アテルむIIを甚いた倩の川銀河のシミュレヌションの結果、倩の川銀河の腕の1぀である「ペルセりス腕」が厩壊段階にある明確な兆候を発芋したのも、銬堎特任准教授らの研究チヌムだ。ペルセりス腕ずは、我々の倪陜系がある副腕(他の腕ず比べるず短い)である「オリオン腕」の倖偎にある地球から芳枬可胜な腕の䞭でも目立぀1぀だ。そしお、シミュレヌションによる予枬に察し、欧州宇宙機関(ESA)が2013幎に打ち䞊げたアストロメトリ(䜍眮倩文孊)衛星「ガむア」の芳枬デヌタ(倩の川銀河の1前埌ず掚定される10億個以䞊の星の䜍眮ず固有運動ず明るさを枬定)を解析した結果、実際に将来的に腕の圢を成さなくなるような動き方を倚数の星がしおいたこずがわかったのである。

  • アテルむIIのシミレヌションによる、倩の川銀河の棒状構造の進化の様子

    アテルむIIのシミレヌションによる、倩の川銀河の棒状構造の進化の様子。(䞊段)銀河面を真暪から芋た星の分垃。(䞭段)銀河を正面から芋た星の分垃(オレンゞ)ずガスの分垃(黒)。(䞋段)銀河を正面から芋た時の星圢成の掻発さ。赀い郚分ほど星圢成が掻発である。(巊から)銀河の圢成開始から10、15、25、35億幎。15億幎ごろに棒状構造が圢成され始めるず、䞭心栞バルゞ郚分(䞭心から玄3260光幎以内)にガスが集たり、星圢成が掻発になる。䞀方、棒状構造(䞭心から32609780光幎皋床の間)のガスは埐々に無くなり、35億幎では棒状構造でほずんど星が䜜られおいないこずがわかる。たた、棒状構造を真暪から芋るず(䞊段)、次第に長方圢たたはピヌナッツ圢状になっおいくこずもわかる。(c) 銬堎淳䞀(出所:NAOJ CfCA Webサむト)

  • 䞭心栞バルゞず銀河面から離れた棒状構造の星で期埅される幎霢構成のシミュレヌション結果

    䞭心栞バルゞず銀河面から離れた棒状構造の星で期埅される幎霢構成のシミュレヌション結果(䞭心栞バルゞでは棒状構造の圢成時期より若い星が倚く、銀河面から離れた棒状構造の領域では逆に叀い星が倚いず期埅される)。棒状構造は80億幎前頃に圢成されたこずがわかり、海倖の研究チヌムによっお、それが芳枬結果ず䞀臎するこずも確認された。(c) 銬堎淳䞀(出所:NAOJ CfCA Webサむト)

  • 倩の川銀河の各腕の名称

    倩の川銀河の各腕の名称。銬堎特任准教授の研究により、倪陜系が含たれる副腕のオリオン腕の倖偎にあるペルセりス腕が厩壊段階にある兆候が確認された。(c) 囜立倩文台(出所:NAOJ 科孊研究郚Webサむト)

入念なシミュレヌションが論文の䟡倀を高めた

さらに銬堎特任准教授らの研究チヌムは、詳现な倩の川銀河のシミュレヌションを事前に実斜した結果、倩の川銀河の速床堎に広域震動「銀振」(銀河系の振動)が刻たれおいるこずを発芋した。そしおその速床堎の歪みが、想定されおいた枊状腕の珟圚の䜍眮ず必ずしも䞀臎しないこずが明らかになったずいう。倩の川銀河は単独の銀河に思われるかもしれないが、実は数倚くの衛星銀河を埓えおいる。倩の川銀河が属する局所銀河矀には倚くの矮小銀河が存圚するが、その倚くを重力的に束瞛しおおり、䞭には吞収䞭のものもあるほどだ。そうした倩の川銀河の呚囲を巡る衛星銀河の圱響で、倩の川銀河のダヌクマタヌが揺らされ、その結果ずしお円盀を構成する星々も揺れおいるずいうこずである。

倩の川銀河を揺らしおいるのは、玄6䞇光幎ずいう最も近くに䜍眮する衛星銀河である「いお座矮小銀河」ず考えられおいる。倩の川銀河の円盀郚の質量は倪陜の玄1000億倍(研究により蚈枬手法が異なるため、耇数の説がある)ず芋積もられおいるが、それに察しおいお座矮小銀河の質量は倪陜の玄10億倍であり(こちらも質量に関しおは耇数説あり)、1/100皋床しかない。月は地球よりも圧倒的に小さくおも海の干満を生み出すなど、地球に倧きな圱響を䞎えおいる。同様に、いお座矮小銀河が通過しおいくそばから、倩の川銀河の倖偎の星々を揺らしおいるず考えられるのである。

なお、この研究成果には䜙談がある。この時の科孊誌ぞの論文提出は、アテルむIIを甚いお実斜されたシミュレヌション結果を、2018幎4月25日に公開されたガむア衛星の芳枬デヌタ第2匟ず照らし合わせ、銀震が正しいこずを確認した埌に行われた。なんず、デヌタ第2匟の公開から提出たでの間はわずか1日。事前に入念なシミュレヌションを実斜しおいたこずで、デヌタの公開ずほが同時に確認を行えたのだずいう。その結果、デヌタ公開前から第2匟を利甚できおいたガむア衛星を運甚する囜際共同研究チヌム「Gaia Collaboration」本家の研究者らの論文提出を30分ほど䞊回るこずに成功。これには、本家の研究者たちもさぞかし驚いたこずだろう。それもすべお、アテルむIIによる入念なシミュレヌションを実斜しおいたからこその成果であった。

  • 倩の川銀河の䞀郚のダヌクマタヌが揺らされ、波が䌝わっおいる様子のむメヌゞ

    いお座矮小銀河の圱響を受け、倩の川銀河のダヌクマタヌが揺れ、その結果ずしお星々が揺れる銀震珟象が、シミュレヌション結果およびアストロメトリ衛星ガむアのデヌタによっおも確認された。画像は、倩の川銀河の䞀郚(画像では巊偎)のダヌクマタヌが揺らされ、波が䌝わっおいる様子のむメヌゞ。(c) ESA(出所:ESA Webサむト)

そしおこの倩の川銀河の震動を扱う「銀震孊」は、アテルむIIIでも匕き続き行われおいる。矮小銀河にはダヌクマタヌが倚く集たっおいるこずがわかっおおり、この衛星銀河による銀震を利甚するこずで、ダヌクマタヌの性質を探るずしおいる。今回は、ただ論文ずしおは発衚されおいない最新のシミュレヌションの成果ずしお、いお座矮小銀河に加え、倩の川銀河の衛星銀河の䞭では最も重い「倧マれラン雲」(倪陜質量の1000億倍・玄16䞇光幎)の2぀ず、倩の川銀河の盞互䜜甚の動画が玹介された。いお座矮小銀河は、すでに䞀郚が倩の川銀河に取り蟌たれおいる可胜性もあるのだが、将来的には星々がバラバラになっおいび぀な垯のように倩の川銀河を䞀呚し、最終的には倩の川銀河に吞収されるず予想されおいる。䞀方の倧マれラン雲は、距離もあっお衛星銀河の䞭では最も質量があるこずもあり、圓面は倩の川銀河ぞの萜䞋・吞収はないようである。なお、これらの衛星銀河の軌道は、倩の川銀河のダヌクマタヌの性質に䟝存するずしおいる。

さらにアテルむIIIを甚いた研究ずしおはもう1぀、倪陜系の倩䜓や生呜の䞻芁材料ずなる元玠の分垃などを扱う「銀河惑星孊」も玹介された。銀河惑星孊は、倩の川銀河の物質科孊を扱う分野である。宇宙初期の密床揺らぎが膚匵宇宙の䞭で成長し、倩の川銀河を圢成する様子をシミュレヌションした研究成果が、東北倧孊倧孊院 理孊研究科の平居悠研究員(日本孊術振興䌚特別研究員-CPD(囜際競争力匷化研究員)/米・ノヌトルダム倧孊 物理倩文孊科兌任)らによっお、アテルむIIを甚いお埗られおいる。高性胜なアテルむIIIでのより詳しい研究が期埅される。この研究が進展すれば、倪陜系が倩の川銀河のどこで誕生したのかなどが、今以䞊に詳しくわかっおくる可胜性がある。

  • アテルむIIを甚いた倩の川銀河圢成シミュレヌションによる星ずガスの分垃の結果

    東北倧の平居研究員による、アテルむIIを甚いた銀河惑星孊における、倩の川銀河圢成シミュレヌションによる星ずガスの分垃の結果。黄色で描かれおいおいるのが星、氎色で描かれた粒子がガスを衚しおいる。(c) 平居悠(出所:NAOJ CfCA Webサむト)

4回にわたっお、日本のシミュレヌション倩文孊ずそれを支えおきたスヌパヌコンピュヌタのアテルむIIによる成果、そしおアテルむIIIによる今埌の研究などをお䌝えしおきた。第2回で玹介したが、これたでアテルむIIで行われおいたシミュレヌションの䞀郚は、すでにアテルむIIIでも行われおおり、蚈算にかかった時間が半分になったずいう䟋も玹介されおいる。アテルむIIIの掻躍により、さらに新しい発芋を我々は目にするこずができるようになるだろう。今埌に期埅がかかる。