ここまで、機体とセンサーの関わりについていろいろ取り上げてきたが、センサー機材はただ単にポン付けするだけで動作するものではない。動作の源となる電力を供給してやらなければならないし、動作させれば発熱するから冷やしてやらないといけない。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

電気製品が増えたら発電機の増強は不可欠

電源の種類が1種類で済めば話はシンプルになるが、実際にはそうとは限らない。機器によって、直流を必要とすることもあれば、交流を必要とすることもある。電圧や、(交流の場合には)周波数も、一種類とは限らない。

だからといって、個別に発電機を用意するのではスペースも動力源も余分に必要とするから、発電機は一種類にまとめて、そこから変換する方が現実的ではあろう。例えば、交流発電機を用意して、直流は整流器を介して取り出すわけだ。

ドンガラ(機体)よりもアンコ(各種ミッション機材)が主役となる機体ではたいてい、センサー機器やコンピュータ機器の電力所要が増える。だから、発電機を増強しなければならない場合がある。その極めつけが、大形で探知距離が長いレーダーと、コンピュータやコンソールを満載する早期警戒機。

ボーイング767と航空自衛隊のE-767

例えば。ボーイング767が左右のエンジンにそれぞれ出力90kVAの発電機を取り付けていたところ、その767をベースとする航空自衛隊のE-767では、150kVAの発電機を2台ずつとした。つまり180kVAから600kVAへと3.3倍もの増強である。早期警戒機がいかに「電気食い」なのかが分かる。

  • 民間型767の発電機は90kVA×2 撮影:井上孝司

  • 対して、E-767の発電機は150kVA×4 撮影:井上孝司

場合によっては、センサー機器の更新や増強に際して、最初に搭載していた発電機では容量不足になった、なんていう話があっても不思議はない。また、電気製品の数が増えれば、発電機と個々の機器を結ぶ配線が増える。飛行機でも鉄道車両でも、電気配線は数が多いだけに意外と重量を増やす。

AN/ALQ-99電子戦ポッド

そこで面白いことをしているのが、EA-6Bプラウラー電子戦機やEA-18Gグラウラー電子戦機が使用しているAN/ALQ-99電子戦ポッド。写真を御覧いただくとお分かりの通り、ポッドの先端部に回転する羽根が付いている。いわゆるRAT(Ram Air Turbine)で、飛んでいるときにはこれが回転して発電機を回す。つまり自家発電している。

  • EA-6Bの翼下に吊るされたAN/ALQ-99を見ると、先端部にRATが付いているのがわかる 写真:US Navy

強力な妨害電波を出すポッドだから、もちろん電気を食う。そこで機体側の発電機に頼る代わりに、自前で発電の手段を内蔵してしまったのが面白い。ヘリコプターではないから、飛んでいる間は常に前進しており、それによってRATが回る。うまくできている。

冷却の方法はいろいろ

電子機器を動作させれば、否応なしに発熱がある。昔の真空管と比べれば、今の半導体の方がマシという見方もできるが、一方で、半導体は高温にさらされるとあっさり壊れてしまう。なんにしても冷却は必要である。

外気を取り入れて冷やす

分かりやすいのは、外気を取り入れて冷やす方法。機器そのものは水冷あるいは液冷にして、冷却液をラジエータで冷やす方法もあるが、これは間接的には外気で冷やしているといえそうだ。

実際、電子機器を大量に組み込んでいる機体で、外気を取り入れるための空気取入口(エアスクープ)を設けている事例は多い。例えばE-2Dアドバンスト・ホークアイ早期警戒機は、胴体の上面や右側面に大きなエアスクープを設けている。

  • E-2Dアドバンスト・ホークアイ。ロートドームの前方・胴体背面に加えて右側面にも、目立つエアスクープが付いている様子が分かる 写真:USMC

機体だけの話ではなくて、ポッド化したセンサー機器がエアスクープを設けていることもある。例えば、ロッキード・マーティン製のAN/AAQ-33スナイパーやノースロップ・グラマン製のAN/AAQ-28ライトニングといった目標指示ポッドは、ポッド後部に目立つエアスクープを設けている。

  • AN/AAQ-28ライトニング目標指示ポッド。後方の左右にエアスクープをひとつずつ設けている 撮影:井上孝司

放熱板を外部に露出させる

変わったところでは、放熱板を外部に露出させている事例もある。それが、先にも名前が出てきたAN/ALQ-99電子戦ポッド。強力な妨害電波を出すポッドだから、発熱量も相応に大きいのだろう。

さらに調べてみると、機体内部で電子機器を冷却するためのファン、なんていう製品もある。その一例が、サフラン製のAE1819B00。三相交流115V/400Hzで動作する電動式で、毎秒509リットルの流量があるそうだ。

エンジン抽気を冷却に使う

面白いことに、ジェット・エンジンの圧縮機から得た抽気(ブリード・エア)を冷却に利用することもできる。エンジン抽気は圧力だけでなく温度も上がっているはずなのに、それで冷却とは摩訶不思議。

と思って調べてみたところ、ジェット・エンジンの動作原理となる「ブレイトン・サイクル」とは逆の動きをする、「逆ブレイトン・サイクル」が鍵だそうだ。高温の気体を取り込み、熱交換器で熱を奪ってから圧縮機に送り込む形で冷却機能を実現するのだという。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第4弾『軍用レーダー(わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。