ANAは3月25日に、ボーイング787-10の国内線仕様機を報道公開した(就航は3月27日から)。取材時点で、登録記号JA981AとJA983Aの2機が日本に到着済み。3月と4月にも追加受領を予定しており、最終的には2026年度までに11機がそろう予定となっている。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • フォトセッションでは、取締役 常務執行役員の矢澤潤子氏とともに、客室乗務員、パイロット、整備士も並んだ。こういう場面で客室乗務員が出てくるのは普通だが、さらにパイロットや整備士が加わっているのには、ちゃんと意味がある 撮影:井上孝司

  • 整備格納庫に向けてトーイングカーで牽かれてきたJA983A 撮影:井上孝司

ANAが自ら整備士やパイロットを派遣して機体を検査

新造機の引き渡しに際しては、もちろん、メーカー側で検査や試験飛行を実施している。ところがANAはメーカーに任せきりにしないで、自社の整備士をボーイングの工場に派遣して、独自の検査も併せて実施している。今回の787-10の場合、4カ月ぐらいかけて、さまざまな検査を実施したとのことだ。

といっても、ANAの方がボーイングより厳しい基準で検査している、というわけではない。機体が図面通りに、仕様通りに作られているかどうかを検査するのは同じだが、ANAとしては「実際に運航する立場」から機体を見ることになる。ときには、「このままではお客様を乗せて飛ばすには不十分」と判断して、手直しを求める場面もあるという。

似たような話が他の分野でもある。整備新幹線の新規開業区間では、施設が完成すると、工事の主体である鉄道・運輸機構(JRTT)による監査だけでなく、運行主体となるJR各社による検査も併せて実施している。見る項目は同じだが、JR各社は当然ながら「運行する立場」から施設を見る。それとなんとなく似ている。

また、ANAはパイロットもボーイングの工場に派遣しており、機体や各種システムが問題なく機能するかどうかを確認するための飛行試験を実施している。

787-10の特徴

さて。旅客機の分野では、異なる胴体長を持つ複数のモデルを用意するのは一般的な手法。787の場合、787-8(全長56.7m)、787-9(全長62.8m)、787-10(全長68.3m)の3モデルがある。翼幅はいずれも同じで、60.1m。全高はなぜか微妙な差異があり、-8は16.9m、-9と-10は17m。

-8と-10では全長が11.6m異なるから、概略で、シートピッチ32インチ(812mm)の普通席14列、126名の増分が生じると計算できる。では実際にはどうかということで、ANAが国内線機材として紹介している787の各モデルについて、定員を比較するとこうなる。

コンフィグ プレミアムクラス 普通席 合計
78M(787-8国際線仕様機) 42 198 240
78P(787-8国内線仕様機) 12 323 335
789(787-9国内線仕様機) 18 377 395
78G(787-9国内線仕様機) 28 347 375
78K(787-10国内線仕様機) 28 401 429

つまり、78Kは78Pと比べて定員が94名多い。先の概算ほどには増えていないが、これはプレミアムクラスが増えたためと考えられる。それでも、代替対象となる777-200の392~405席を上回る定員を確保している(ちなみに、777-300の定員は514席)。この定員の多さを活かして、千歳、伊丹、福岡、那覇などといった幹線に投入していくこととなろう。

  • これは国際線仕様の787-10。外見は国内線仕様機と似ているが、もちろん客室設備は違う 撮影:井上孝司

  • 国内線仕様機のエンジンはGEnx-1B。ひとつ前の写真の国際線仕様機はトレント1000を使用している 撮影:井上孝司

  • 主脚は-8や-9と同じ2軸ボギーで、777みたいな3軸ボギーではない 撮影:井上孝司

パイロットが語る2機種のエンジンの違い

787のエンジンは、ロールス・ロイス製のトレント1000とGE製のGEnx-1Bのいずれかを選択できる。ANAは当初、トレント1000を搭載していたが、途中からGEnx-1Bに切り替えた。今回の787-10国内線仕様機もGEnx-1Bを使用している。787-9国内線仕様機のうち、コンフィグ78Gの機体もGEエンジンを搭載している。

パイロットの方にお話を伺ったところ、この2機種のエンジン、案外と違いがあると知った。例えば、エンジンの始動にかかる時間が違うので、始動のタイミング次第ではアイドル運転の時間が長くなり、燃料を余計に使ってしまう(塵も積もれば山となる)。そのことを意識して、エンジン始動のタイミングを考えることが経済的なフライトにつながる。

また、スロットルを操作した時の回転の上がり方にも微妙な違いがあるそうだ。通常はオートスロットルを使うから、操縦する側が差異を意識する必要はない。しかし、オートスロットルが使えない場面に備えて手作業で操作する訓練はしているし、時にはオートスロットル任せにしないで微妙な調整を行うこともある。そういう場面で、トレントとGEnxの差を感じるのだそうだ。

ちなみに、トレントは3スプール、GEnxは2スプールという構造上の違いがある。

では、機体そのものの違いはどうか。787-8と787-10では全長がだいぶ違うから、垂直尾翼に付いている方向舵や水平安定板に付いている昇降舵のモーメントアームも違うはず。しかしその辺は飛行制御コンピュータが差異を吸収してくれるので、-8でも-10でも同じ感覚で操縦できるとのこと。

だからといって、まったく同じにはならない。違いが出る項目の一つが地上でのタキシング。全長が異なる-8と-10では当然ながら、機体の中心位置から、ステアリング操作の対象となる首脚までの距離が違う。

だから、スポット・インのために機体を旋回させるときには、-8と-10では開始点を変えなければならない。展望デッキからスポット・インする機体の動きを観察すると、旋回を始める位置の違いが分かるかもしれない。

  • トーイングカーに牽かれて格納庫に入って来るJA983A 撮影:井上孝司

  • 定位置に停止。格納庫の床には、首脚の停止位置が機種ごとにマーキングされている 撮影:井上孝司

  • 後方を飛んでいる-8と比較すると、手前の-10は主翼から機首までの長さがだいぶ伸びていると分かる。主翼の後方も、もちろん伸びている 撮影:井上孝司