前回は、先日に取材した日本貨物航空(NCA)の747-8Fを紹介したが、今回は「航空機とセンサー」のテーマに戻り、主として戦闘機のお話をお届けする。戦闘機が備えるセンサーというと、機首に搭載する射撃管制レーダーが真っ先に想起されるだろうが、それだけではない。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照。
レーダー電波の逆探知
ベトナム戦争の頃から一般的になったのが、レーダー警報受信機(RWR : Radar Warning Receiver)。その名の通り、レーダー電波を逆探知して、発信源の方位と種類(レーダーの機種)を識別する。こんなメカが必要になったのは、自機が地対空ミサイルや対空砲の射撃管制レーダーで照射されていることを知るため。それができれば、妨害や囮などの対抗策を講じたり、回避行動をとったりできる。
発信源となるレーダーの種類を知るには、事前に電波の特性に関する情報、いわゆるELINT(Electronic Intelligence)を収集しておかなければならない。その話になると、本連載よりも別連載「軍事とIT」の領域になってしまうので、ここでは割愛することとして。
方位情報、つまり発信源となる電波の入射方位は、どのようにして調べるか。無指向性のアンテナを一つ用意する方法でも逆探知はできるが、それでは電波を照射されていることしか分からない。
そこで、複数のアンテナを用意して全周をカバーするとともに、アンテナ相互間で受信タイミングの差を検出する。それが分かれば、発信源の方位は幾何学的に計算できる理屈となる。送信元となる敵レーダーに近い側のアンテナと、遠い側のアンテナとでは、受信するタイミングに微小なズレが生じるはずだからだ。
電波の正確な受信はアンテナの設置場所がカギ
すると、アンテナの設置場所が問題になる。受信するタイミングの微妙なズレを明確に検出しようと思ったら、個々のアンテナはできるだけ大きな間隔をとって設置する方がいい。間隔が近いと、受信タイミングの差異も小さなものになってしまう。
しかも、胴体など、他の何かに遮られて死角ができるような場所では困ってしまう。4個のアンテナを左右対称に設置するとした場合、「前方右半分」「前方左半分」「後方右半分」「後方左半分」の各空間を分担するのが理想である。
そうした事情から、RWRのアンテナは翼端に設置する事例が多い。分かりやすいのは翼端の前後だが、後ろ側は操縦翼面が取り付いていることが多いため、やむを得ず(?)胴体の尾部に設置することも多いようだ。
そういう観点からすると、例えばF-104やMiG-21みたいに翼幅が狭い戦闘機は、アンテナ間隔を広くとる観点からすると不利かも知れない。当節の戦闘機なら、そんなことはないが。
F-15のように高い垂直尾翼を2枚立てている機体なら、その垂直尾翼の先端に後方向きのアンテナを設置する手もある。前方向きのアンテナを垂直尾翼の先端に設置すると、胴体や主翼に邪魔されて前下方に死角ができてしまうので、前方向きのアンテナは主翼端に設置する方が好ましい。その様子は前掲の写真で分かる。
妨害装置のアンテナは?
RWRはパッシブな探知手段だが、敵の射撃管制レーダー、あるいは飛来するミサイルが備える誘導レーダーを妨害する手段も欲しい。いわゆるECM(Electronic Countermeasures)あるいはEA(Electronic Attack)である。
こちらも全周をカバーする方が望ましいのは同じだが、対空ミサイルが後方から追いかけてくる場面を考えると、脅威は基本的に後方にいると考えても良いかもしれない。すると、まずは後方向きに、広い視界を確保できる位置にECM/EAのアンテナを設置する、という話になりそうではある。
あとは、他の電子機器との干渉を回避しつつ前方・側方の脅威に対処できるように、前方向きや側面向きのアンテナを設置するという話になろうか。
航空自衛隊のF-15J近代化改修機を見ると、胴体の左右両側面、空気取入口の後方に電子戦装置のアンテナが付いている様子を確認できる。これは前半分の左右をカバーするためのもので、後方向きのアンテナは水平尾翼を支えているアウトリガーの後端に付いている。
後方向きアンテナの設置要領は、米空軍のF-15Eも同じ。電子戦装置の本体のアンテナがない機体ではアウトリガーの先端が尖っているが、アンテナが付いた機体ではアウトリガーの先端がアンテナの分だけ膨らんで、丸みを帯びている。
電子戦装置のモデルによっては、アウトリガーの先端に取り付けたアンテナ・フェアリングが二段積みになっている。たとえば、F-15EXイーグルIIが搭載するAN/ALQ-250 EPAWSS(Eagle Passive/Active Warning Survivability System)がそれ。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。