前回に取り上げたHIFR(Helicopter In-Flight Refueling)は、水上戦闘艦から、飛行中のヘリコプターに燃料を送り込む手法。それに対して今回取り上げるのは、FARP(Forward Arming and Refueling Point)オペレーション。このとき、飛行機から飛行機に対して給油することがあるが、空中給油ではなく、地上でやる。何のために? 連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • 2020年1月30日にアラスカのエルメンドルフ-リチャードソン統合基地で行われた演習の一幕。MC-130JコマンドーIIからF-22Aラプターに、燃料を補給している 写真:USAF

遠征作戦ではインフラを期待できない

第329回で取り上げた、フィンランドやスウェーデンのような「道路上からの戦闘機の発着」は、自国の国土防衛任務に際して用いる手法。おそらく、道路を利用する分散離着陸場に常設の燃料タンクなんてものはないから、給油トラックを現場に急行させることになる。

自国の防衛ならそういう手法が通用するが、他国に出張る遠征作戦になれば、話は別。都合のいいところに飛行場があって分捕れるという保証はないし、あったとしても、そこに燃料があるかどうか分からない。

よしんば、敵地で分捕った飛行場に燃料があったとしても、自国の機体に適合する燃料かどうか、そして燃料の品質に問題はないか。そういう課題もある。そもそも、交戦して飛行場を分捕った後で、燃料補給のための施設や機材が、使える状態で残っているかどうか。 また、敵地に侵攻したときに穴開き鉄板などを持ち込んで、飛行場を仮設することもある。そうなれば当然ながら、インフラは何もない前提である。飛行場がないところに飛行場をでっち上げるのだから。

と考えると、遠征作戦では「必要なものは一切合切、自前で持ち込む」のが現実的となる。そこで考え出されたのがFARP(Forward Arming and Refueling Point) オペレーション。具体的には何をするのか。

FARPとは

FARPを逐語訳すると、「前線で(航空機に対する)再武装と燃料補給を行うための場所」となる。本拠地からは離れた、恒久的なインフラが整っていない場所で実施する前提である。作戦空域となる前線に近いところで迅速に燃料と兵装を補給すれば、航空支援を提供しやすくなるという理屈。

2020年2月に米海兵隊が、アリゾナ州のユマ(プロ野球の海外キャンプ地としておなじみの場所だ)でFARPの演習を実施したことがある。このときにはTAGRS(Tactical Aviation Ground Refueling System)を使い、F-35B・1機につき5分間で給油を実施したという。TAGRSは空輸可能な小型燃料ポンプ装置で、本連載の第327回で取り上げたで取り上げたことがある。

その前線補給拠点が根拠地と地続きであれば、そこまで燃料を載せたトラックを走らせる手もある。ただし時間がかかるし、給油トラックが敵に襲われる可能性も考えなければならない。また、地続きで移動できるとは限らない。

そこで、第327回でも少し触れたように、航空機で燃料を運び込んでしまえという話も出てくる。ただし現地に燃料タンクがあるという前提にはできないから、燃料を積んできた航空機から他の航空機に対して、直に燃料を補給する。

普通、航空機は燃料を受け取るようにはできているが、送り出すようにはできていない。例外は空中給油機ぐらいのものだ。しかし、輸送機の貨物室に燃料タンクとポンプとホースを積み込んでいけば、出先で燃料補給ができる理屈となる。

  • 冒頭の写真と同じ演習。着陸したMC-130Jの貨物室から給油ホースを引き出して、これを給油対象となるF-22Aの給油口に接続する 写真:USAF

米空軍におけるFARPの具体例

話はいささか旧聞に属するが、2017年6月にイギリスで行われた米空軍の演習 “Rapid Eagle” で、これが実際に行われた。第67特殊作戦飛行隊所属のMC-130特殊作戦輸送機が、まずF-15C飛行隊のホームベースであるレイクンヒース基地に飛んで、整備員や補充用の兵装を搭載。

それからFARP実施場所に見立てたミルデンホール基地に移動して、そこで4機のF-15Cに燃料補給を実施するとの内容だった。なお、給油機材は、同じミルデンホールをホームベースとする第100空中給油航空団が用意したものだそうだ。

このほか、F-15CではなくF-22AやF-35Aを対象としてFARPオペレーションを演練した事例もある。それが冒頭の写真。

この方法のいいところは、現地で燃料補給用のインフラを建設する工事が要らないこと。必要なものをすべて輸送機に搭載して持ち込み、補給を行い、用が済んだらとっとと立ち去る。立つ鳥跡を濁さず。

また、空中給油は所要の装備を備えた機体同士でなければ行えないが、FARPは地上で行うものだから、給油相手の機種を問わない。ホット・リフュエリングが可能な機体であれば、給油のためにいちいちエンジンを止める必要がないから、さらに迅速な再補給ができる。

そして、空中給油では燃料しか送り込めないが、FARPなら燃料に加えて兵装搭載もできるし、代わりがいればパイロットの交代もできる。結果として、ターンアラウンドタイムの短縮やオプテンポの引き上げを期待できる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。