クルマの世界では、何年かに一度、同じ車名のままでフルモデルチェンジして新形に切り替わることが多い。代を重ねて、「○代目△△」の「○」が2桁に達することもある。たとえば、同じ「トヨタ・カローラ」でも、代が変われば中身はまるで違うので、こうやって区別しないと混乱の元。

では、飛行機の業界はどうか?→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

「○代目」という言葉は使われない

第172回で、ボーイング737の初代から最新の737MAXに至る流れを概観したことがあった。実のところ、最初に登場した737-100と、今の最新型である737MAXを比較すると、似ているのは胴体部分の基本的な形状ぐらいのもので、それも長さはずいぶんと伸びている。エンジンや各種システムも新しくなっており、実質的には別物の機体といっていいぐらい。

しかし、胴体断面をはじめとする土台の部分は初代から継承している。そうした事情もあり、737MAXをひと目見れば「あ、737の一族だな」と分かる。ただし、そのことが737MAXの足を引っ張っている部分もあるのではないか、という話は以前に書いた。例えば、胴体断面が変わっていないから、貨物室にコンテナを収容できない難点も引き継いでしまっている。

では、F/A-18E/Fスーパーホーネットはどうだろうか? 見た目はF/A-18A/B/C/D(いわゆるレガシーホーネット。ただしオーストラリアではクラシックホーネットと呼んでいた)と似ているが、機体の規模はスケールアップしているし、ストレーキも大型化した上に形状が違う、エンジンも別モデル。

しかし、基本的なレイアウトはレガシーホーネットから受け継いでいるから、「発展型です」といえば信じてくれる人もいそうだ。

  • オーストラリア空軍のF/A-18Aホーネット(豪式にいうとクラシックホーネット) 撮影:井上孝司

  • こちら、F/A-18Fスーパーホーネット。目立つ外見上の相違点である、拡大されたストレーキと角形の空気取入口が分かりやすい角度 撮影:井上孝司

サーブのグリペンE/FとグリペンC/D

機体をスケールアップしないで済ませているものの、サーブのグリペンE/Fと、前モデルのグリペンC/Dとの関係は、スーパーホーネットとレガシーホーネットの関係に似ているといえるかもしれない。降着装置の取り付け位置が変わっているから、内部構造にはだいぶ違いが出ているはずだ。

  • グリペンE。基本型グリペンは主脚が胴体下面左右の隅に付いているが、グリペンEでは主翼の付け根に移動している 撮影:井上孝司

もっとも、「中身が別物」どころか、エンジンの数まで変わってしまっている事例もあるから笑えない。その一例が、シコルスキーの大形輸送ヘリコプター・H-53シリーズ。なにしろ、双発のモデルと三発のモデルがある。もちろん、トランスミッションも別物だし能力的な差も大きい。しかし、こんな根本的な違いがあっても、同じ「H-53」である。

そして近年、似たようなパターンの機体が多いじゃないか。と思い当たったのが、「名前は同じで中身は別物」というテーマを思いついた理由。つまり、同系列の名前でサブタイプだけ変えているのに、実質的には別の機体に近い。

なぜ、同じ名前を引っ張るのか

なぜそんなことが起きるのか。それは、最初のモデルが登場した後で、性能向上の要求を突きつけられたり、強力なライバルが出現して対抗する必要が生じたり、最初のモデルの老朽代替を同系列の新形でやろうとしたりするから。その際に、基本構成や見た目こそ引き継いでいても、中身の多くが(または大半が)別物に置き換わってしまう。

名前が同じなら「これは改良型です」と言い張って、新形を作るというと反対する人を丸め込めるかもしれない。多少なりとも流用できる要素があれば、開発に際してリスクやコストを抑えられるとの期待を持てるし、パーツや生産設備の一部を流用できる可能性もある。

  • CH-53Eスーパースタリオン。下に吊っているHMMWVが、そもそも小さなクルマではないが、それが小さく見えてしまう。サイズ感がバグる機体だ 撮影:井上孝司

具体的な事例は次回から本格的に取り上げるが、かように「既存モデルの発展型」が続発するようになると、妙なことも起きる。ゼロから新規設計した機体がライバルに対して優位性をアピールするのに、わざわざ「この機体はクリーン・シート・デザインです」と宣伝する場面が出てくるのだ。この場合のクリーン・シートとは「白紙」、つまり “まるごと新設計” の意。

ともあれ、どんな部分に手を入れた結果として「中身が別物」になったのかを知ることは、さまざまな要求に対する技術的解決方法を知ることにつながるのではないか。

なお、名前は同じものを継承しているのに、外観どころか機体の基本レイアウトがコロコロ変わっている事例もある。その典型例が、ダッソー・アビアシオンのミラージュ戦闘機。無尾翼デルタ翼のミラージュIII、一転して普通に主翼と尾翼を備えたミラージュF1、また無尾翼デルタ翼に逆戻りしたミラージュ2000。

みんな「ミラージュ○○」のままである。もっとも、これらはそれぞれ独立したモデルであり、「ミラージュ」は機体の名前ではなく、一つのブランディングといった方が適切だろう。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。