サプライヤーの立場からすれば、手間暇かけて開発した製品を、できるだけ多くの機体に搭載してもらえる方がありがたい。開発費や製造設備に関わる投資を回収しやすくなるし、量産が進めばコストが下がる。すると機体メーカーにとってもありがたい。なにも航空機の搭載機器に限った話ではないが。

多くの機体で採用されている「Pro Line Fusion」

例えば、コリンズ・エアロスペース(旧ロックウェル・コリンズ)の「Pro Line Fusion」というアビオニクス製品がある。これは、三菱スペースジェット(MSJ)も含めて、多数の機体で採用されている。14inのタッチスクリーン式ディスプレイ、統合FMS(Flight Management System)、衛星航法システム、視界不良時に使用する視界補助装置、HUD(Head Up Display)などで構成されている。

旅客機では、MSJ以外ではボンバルディアのCシリーズ(現エアバスA220)、ビジネスジェット機ではボンバルディアのグローバル5000、ガルフストリームG250、エンブラエル・レガシー450/500など。その後、アグスタAW609、ガルフストリームG280、ビーチクラフト・キングエア250と同350、軍用機ではエンブラエルKC-390輸送機、といった具合に採用事例が増えている。

  • 三菱スペースジェット(写真は初飛行時の撮影なので「MRJ」になっている)のアビオニクスは、コリンズ・エアロスペースの「Pro Line Fusion」 撮影:井上孝司

ところが、さまざまな機体に採用されるということは、それだけ要求事項も増えるということ。機体によってコックピットの寸法も形状も違うし、アビオニクス設置スペースも同じではない。求める機能だって、まったく同じとは限らない。そうしたカスタマー側の要求に対応していかなければ、販路を広げることはできない。

多くの要求事項に応える「オープンアーキテクチャ」

「Pro Line Fusion」はアビオニクス製品だから、機能的な違いであれば、ソフトウェアの変更で対応できると思われる。しかし、設置スペースや各種インタフェースの問題になるとハードウェアが絡むから、物理的なモノを変更しなければならない場面も出てくるだろう。

そうなると、最初から多種多様な機体に載せる前提で、主要コンポーネントを共通化しつつ、フォームファクタやインターフェイスをある程度、変えられるように設計しておく必要がある。

実際、コリンズ・エアロスペースはPro Line Fusionの製品紹介ページで、「柔軟性」や「スケーラブルなアーキテクチャへの配慮」をうたっている。そうした設計は、後日の機能拡張や能力向上、陳腐化したハードウェアの更新に際しても効いてくる。すると、「オープン・アーキテクチャ」がキーワードになる。

オープン・アーキテクチャ化というと、防衛電子機器の分野では頻出する用語。レイセオン・インテリジェンス&スペースのように、アーキテクチャ設計の専門チームを置いている会社まである。単に性能・機能が優れたものを作るだけでなく、適応性や発展性まで考えておかなければ、製品寿命が短いものができたり、販路が限られたりする。

搭載機種ごとに分かれがちなエンジン

アビオニクスに限らず、エンジンも同じような事情はある。エンジンの開発にはべらぼうな費用と時間を必要とするから、投資を回収しやすくするには、できるだけ多くの機体で採用してもらいたい。ところが、機体によって求める性能レンジは異なるし、エンジンと機体側のインターフェイスもまったく同じとは限らない。

結果として、同じシリーズのエンジンであっても、搭載する機体によって細かいサブタイプがいろいろ分かれる場面が多いようだ。例えば、プラット&ホイットニー(P&W)のギアード・ターボファン(GTF)エンジンでは、ずいぶん多くのバリエーションができてしまった。

エアバスA320neoがPW11xxG、三菱スペースジェットがPW12xxG、イルクートMS-21がPW14xxG、エアバスA220がPW15xxG、エンブラエルE2 JetがPW17xxG、といった具合に、まず機種ごとにシリーズを分ける。ところが、同じ機体でも所要推力の違いによって複数のモデルを用意するので、同一機種に対して複数のモデルができて「xx」の部分の数字が変わる。

  • ANAのA321neo。PW1130G-JM(推力13,740kgf/30,290lbf)を装備する 撮影:井上孝司

機種ごとに求める推力が違うだけでなく、ファンの直径まで変化することもある。主翼の下にポッド式にエンジンを取り付けると、主翼と地面の間のクリアランスが、搭載できるエンジンの外寸を制約してしまうからだ。

それでも、基本的な技術が同じで、パーツの多くが共通になっていれば、相応のスケール・メリットは発揮できると思われる。もちろん、共通性を高めつつ、カスタマーごとの要求の違いに対応していくところが、メーカー側の知恵の絞りどころ。ここでは筆者の気まぐれによりP&WのGTFを引き合いに出したが、他社のエンジンも事情は変わらない。

同じP&Wの製品で、戦闘機用エンジンのF100シリーズがある。F-15もF-16も同じF100を搭載できて、書類の上での形式も同じだが、エンジンがまったく同一のものなのかどうかは確認できなかった。つまり、「F-15用のF100-PW-229」と「F-16用のF100-PW-229」はまったく同じなのか、何か違いがあるのか、という話である。メーカーの立場からしても、カスタマーの立場からしても、まったく同じになる方がありがたいのは確かだが。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。