Satairという会社がある。一般にはあまりなじみがなさそうだが、エアバス機などのアフターサービスに関わる各種ソリューションを手掛けている会社だ。
消耗品の安定供給は不可欠
何も航空機に限ったことではないが、工業製品は「買ったら終わり」ではない。その後もメンテナンスが必要になることが多いし、使用に伴って摩耗・消耗・老朽化するパーツは交換しなければならない。しかも航空機のような輸送機械では、それが安全に直結する。だから、アフターサービスの体制が業務遂行を左右するといっても過言ではない。そこで、Satairのような会社の出番となる。
Satairが扱う物品は、機体構造材用のパーツ、各種の消耗品、コンポーネントやLRU(Line Replaceable Unit)、バッテリと充電器、改修キット、電子機器や計器類、エンジン部品、内装品など多岐にわたる。また、以前にも本連載で少し触れたことがあった、再利用可能な中古品も扱っている。
Satairは全日本空輸(ANA)向けに、エアバス製の機体を対象とする統合部品管理(IMS : Integrated Material Services)を請け負っていた。つまり、対象はA320ファミリーとA380である。そして2022年7月に、エアバス以外の機体にも対象を拡大する話が決まった。
ANAにしてみれば、ボーイング製機とエアバス製機で別々の会社と契約するよりも、同じ会社でまとめて面倒をみてもらう方が合理的、という話になるのだろう。ちなみに、エアバス製の機体以外も含めてIMSソリューションの提供を受けるエアラインは、ANAが初めてだそうである。
経済性と安定性のバランス
ところがである。消耗品やパーツ、コンポーネントの在庫が欠品になるのは論外としても、過剰在庫もそれはそれで問題がある。過不足なく在庫水準を維持するとともに、必要になったときに迅速に供給を受けられるのが理想となる。早い話がジャスト・イン・タイムである。
ただし、それを簡単に実現できるかというと、それはまた別の問題であり、そこでSatairのような専門企業の出番がある。Satairではエアバス機向けにAMI(Airbus Managed Inventry)というサービスを用意しており、「在庫水準の最適化と供給プロセスにかかる経費の低減」をうたっている。
また、個々のパーツや機器やコンポーネントや消耗品のメーカー(つまりサプライヤー)との窓口はすべてSatairが一括して担当するという。そうなると、エアライン側はモノを調達するために、いちいち個別のサプライヤーとコンタクトする必要がなくなる。
これをSatairの立場から見ると、同じ機種を使用する複数のエアラインから同じ業務を請け負うことで、スケール・メリットを発揮できることになる。つまり「A320を使用しているエアラインAとエアラインBから、それぞれ同じパーツの注文があったとき、まとめてサプライヤーから調達する」といったことができそうだ。それはコストダウンにつながる要素だし、サプライヤーの側からしても、スケール・メリットにつながる。
面白いのは、このAMIサービスのメリットとして「専任担当者(サービス・マネージャ)の配員」や「継続的なサービス評価の実施」を挙げていること。専任の担当者がいる方が、話の通りが良くなるし、何かあっても文句をいいやすい(ちょっと待て)。
ANAの場合はエアラインがSatairの顧客になっているが、それ以外の顧客も存在する。つまり、機体の整備や改修を専門に請け負っているMRO(Maintenance, Repair and Operations)事業者である。
こちらもやはりパーツやコンポーネントなどを必要とするし、しかも複数のカスタマーを抱えていれば規模が大きくなる。扱う機種が多様化すれば、必要とするパーツやコンポーネントの種類も増える。そこでパーツやコンポーネントの安定供給と適正在庫の確保を実現できれば、経営上のメリットは大きい。
3Dプリンタも活用する
Satairの事業一覧を見ると、積層造形(Additive Manufacturing)も手掛けていることが分かる。顧客の要望を受けて、設計と3Dモデリングを行い、その後の認証や製造・納入まで一貫して請け負うというもの。
飛行の安全に関わるものだから、なんでも好き勝手に作ってよいとは行かず、「これを使っても大丈夫です」というお墨付きは不可欠なものとなる。そこまで一貫して面倒をみてもらえれば、積層造形によるパーツ製造のメリットが生きてくる。しかも積層造形は、必要なものを必要なときに必要なだけ入手するにも具合が良い。
軍民を問わないが、クリティカルでない部分から順次、3Dプリンタによる積層造形を活用する動きが広まってきている。Satairみたいな会社にとっては、これも新たなビジネスチャンスということになるのだろう。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。