このFPDニュースのまとめ

・キヤノンがFPD露光装置の非線形補正技術で文部科学大臣賞を受賞
・32個のアクチュエータで平行平板ガラスを変形させ、露光パターン像を補正
・重ね合わせ精度を従来の±0.5μmから±0.3μmへ高め、高機能ディスプレイの製造に対応

キヤノンは11月5日、公益社団法人発明協会が主催する令和8年度関東地方発明表彰において、「高い重ね合わせ精度を実現する露光装置」(特許第6308749号)で文部科学大臣賞を受賞したことを発表した。

受賞した発明は、FPD(フラットパネルディスプレイ)露光装置に搭載する非線形補正ユニットに関するもの。ガラス基板上に形成された回路パターンの複雑な歪みに応じて、次に転写する回路パターン像を補正することで、重ね合わせ精度を従来の±0.5μmから±0.3μmへ高めた。

同技術は、第6世代ガラス基板に対応するFPD露光装置「MPAsp-E1003H」に採用されている。同装置は、小型から大型まで幅広い画面サイズや解像度のディスプレイ製造に対応し、車載用をはじめとする高機能ディスプレイの量産を支援する。

  • キヤノンのFPD露光装置「MPAsp-E1003H」

    文部科学大臣賞を受賞した非線形補正技術を採用するFPD露光装置「MPAsp-E1003H」 (出所:キヤノン)

ガラス基板上の複雑な歪みを補正

FPD露光装置は、マスクに描かれた回路パターンをガラス基板へ転写する装置である。同じ工程を繰り返して回路パターンを何層も重ねることで、液晶などのFPDを製造する。

ディスプレイの高精細化と高機能化に伴い、回路の微細化や多層化が進んでいるが、複数の回路パターンを正確に重ねるには、各層の位置を高い精度で合わせる必要がある。

一方、ガラス基板上に形成済みの回路パターンには、前工程で受けた熱負荷や各種処理の影響によって歪みが生じる。歪み方は一様ではなく、基板の位置によって変化する複雑な非線形成分を含むため、単純な拡大や縮小、回転だけでは補正できない。

こうした歪みを補正せずに次の回路パターンを転写すると、層同士の位置がずれ、ディスプレイの性能や製造歩留まりに影響する可能性がある。

32個のアクチュエータで露光パターン像を変形

今回受賞した非線形補正ユニットは、円弧状の平行平板ガラスと、その縁に配置した32個のアクチュエータで構成されており、露光前に形成済みの回路パターンの歪みを計測し、その結果に基づいて32個のアクチュエータを個別に制御。各アクチュエータが平行平板ガラスへ力を加え、局所的に変形させることで、ナノメートルオーダーの精密なうねりを生成するという。

露光の光を変形させた平行平板ガラスへ通すと、新たに転写する回路パターン像も基板上の歪みに合わせて補正される。形成済みのパターンと新たなパターンの位置関係を高精度に合わせることで、回路を多層化した際の重ね合わせ精度を高める仕組みとなる。

同技術によって重ね合わせ精度を従来の±0.5μmから±0.3μmへ向上させ、多層化・複雑化した構造を持つ高機能ディスプレイの製造を可能にしたという。

車載用など横長の大型ディスプレイにも対応

非線形補正技術を採用するMPAsp-E1003Hは、第8世代ガラス基板向けFPD露光装置で実績のある投影光学系を採用することで、解像力1.5μmを実現。従来機「MPAsp-E813H」と比べて一度に露光できる幅を約1.2倍へ拡大したことで、従来はガラス基板1枚当たり6ショットを要していたパネルを4ショットで露光できるようにしたほか、車載用途で需要が高まっている横長の大型特殊ディスプレイを、つなぎ目なく2ショットで露光できるとしている。

自動運転技術の進展や電気自動車(EV)の普及に伴い、自動車のダッシュボードやセンターコンソールでは、複数の情報を表示できる横長・大型のディスプレイの採用が広がっている。

FPD露光装置には、こうした特殊な形状のパネルを効率よく製造できる生産性に加え、回路の微細化と多層化に対応する高い解像力や重ね合わせ精度が求められる。

キヤノンは、露光幅の拡大と非線形補正技術を組み合わせることで、高精細化と生産性の両立を図っている。

キヤノングループ全体では10件を受賞

なお、令和8年度関東地方発明表彰では、キヤノングループ全体で文部科学大臣賞を含む計10件が選ばれた。

キヤノンは、画像内の臓器ごとに特徴付けられた再構成処理で栃木県知事賞を受賞。キヤノンファインテックニスカは、ダブル連結給紙装置での印刷前紙揃え機構で山梨県知事賞を受賞した。

このほか、画質劣化を抑えたマイクロフォーカスX線源、アクションを優先した主被写体の決定方法、インクジェットプリンタの高速・高画質化を可能とするドット配置技術、不活性ガス循環型のトナー容器破砕方法などが発明奨励賞を受賞した。

キヤノントッキのクラスタ型成膜装置における連結部膜厚測定技術、キヤノン電子管デバイスの高効率クライストロン、キヤノンマーケティングジャパンとキヤノンITソリューションズによる対話型応答機能を備えたアプリケーションの構築技術も発明奨励賞に選ばれた。

地方発明表彰は、各地域における発明の奨励と育成を図り、科学技術の向上と地域産業の振興につなげることを目的とする制度。発明協会が1921年から実施しており、全国を8地方に分けて優れた発明、考案、意匠を生み出した技術者や研究開発者を顕彰している。

キヤノンは今後も、製品の高性能化や生産性向上を支える技術開発を進め、産業や社会の発展に貢献するとしている。