この宇宙ニュースのまとめ

・Space BDとSpace QuartersがISS「きぼう」での軌道上実証に向けた契約を締結
・電子ビーム溶接とX線透過検査を組み合わせ、接合から品質保証までを実証
・2028年の実施を予定し、両ユニットの商品化を目指す

Space BDとSpace Quartersは、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」を活用した、宇宙用電子ビーム溶接ユニットとX線透過検査ユニットの軌道上実証を行うための契約を締結した。

実証には、「きぼう」の船外実験プラットフォームに取り付けられた中型曝露実験アダプタ「i-SEEP」を使用する。実施時期は2028年を予定しており、Space Quartersが開発する両ユニットを宇宙環境で実証し、商品化に必要となるTRL-8(技術成熟度レベル8。運用フェーズに適用できる製品レベル)への到達を目指す。

Space Quartersは、宇宙インフラを建築するロボットシステムや宇宙構造物の設計・開発を手掛けるスタートアップ。同社は、将来の宇宙ステーションや月面拠点などの大型構造物を宇宙空間で建設、修理するための基盤技術として、電子ビーム溶接の開発を進めている。

宇宙空間の真空環境を溶接に活用

電子ビーム溶接は、電子を加速して対象物に照射し、発生した熱によって金属を接合する技術。施工には真空環境が必要となるため、地上では大型の真空設備を用意する必要がある。

一方、宇宙空間では周囲の真空環境をそのまま利用できるため、追加の真空設備を必要としない。また、シールドガスや溶加材を使用せず、80%以上のエネルギー効率を実現できることから、資材やエネルギーが限られる宇宙での利用に適した接合技術だという。

Space Quartersでは、省エネルギーの入熱プロセスや精密な電子ビーム制御、小型・高効率の高圧電源、宇宙空間における高信頼絶縁などの技術を組み合わせ、電子ビーム溶接ユニットの小型・軽量化を進めてきた。

  • 電子ビーム溶接ユニットのイメージ図

    電子ビーム溶接ユニットのイメージ図 (出所:Space Quarters)

小型・軽量化によってロボットアームへの搭載を容易にし、軌道上サービスや宇宙構造物の組み立てに加え、月面における設備の修理や建設などへの展開も想定する。

複数回の溶接で性能と耐久性を評価

2028年の軌道上実証では、電子ビーム溶接ユニットを用いて複数回の溶接を行い、宇宙環境における性能や耐久性を評価する。

実証後の試験片は地球へ帰還させ、結晶構造や機械的性質などの詳細なデータを取得する計画。地上での分析を通じて、宇宙環境における溶接現象への理解を深め、技術の信頼性向上につなげる。

宇宙空間で構造物を建設する場合、部材を接合できるだけでは十分とは限らない。接合部に内部欠陥がないかを確認し、構造物として必要な品質を確保できる検査技術も求められる。

X線による非破壊検査で接合部の品質を確認

そこでSpace Quartersは、電子ビーム溶接ユニットと併せて、X線透過検査ユニットの軌道上実証も実施する。

X線透過検査ユニットは、溶接した部分にX線を照射し、内部の状態を画像として確認する非破壊検査装置。溶接部を切断することなく、サブミリオーダーの内部欠陥を検出できるという。

同ユニットにも、電子ビーム溶接ユニットの開発で培った小型・高効率電源や、宇宙空間における高信頼絶縁などの技術を活用。既存の検査装置と比べて小型・軽量化を図り、宇宙空間への輸送やロボットによる取り扱いを容易にする。

今回の実証では、電子ビームによる接合とX線による非破壊検査を連続して行う。単に宇宙空間で金属を溶接するだけでなく、接合部の品質を確認するところまで含めたプロセスを確立することが狙いとなる。

将来的に宇宙空間で大型構造物を建設したり、運用中の設備を修理したりするには、施工後の品質をその場で確認できる仕組みが欠かせない。接合から検査までを軌道上で完結できれば、宇宙構造物の建設や保守に必要となる地上からの資材輸送を抑え、宇宙インフラの大型化や長期運用につながる可能性がある。

Space BDが技術調整や安全審査を支援

実証に使用するi-SEEPは、「きぼう」の船外実験プラットフォームに設置され、実験装置に電力や通信などを提供するJAXAの設備。船外環境を利用した技術実証や観測などに用いられている。

Space BDは、2019年3月にJAXAからi-SEEPを利用した軌道上サービスの提供事業者として選定され、民間企業や研究機関による「きぼう」船外での実験・実証を支援してきた。

今回の契約に基づき、Space BDはISS船外実験プラットフォームの利用で培った知見を活用し、Space Quartersの実験装置とi-SEEPの間の詳細な技術調整や、安全審査プロセスの遂行などを支援する。

ISSに搭載する装置には、打ち上げ時の振動や宇宙空間の真空、温度変化などに耐える設計が求められるほか、ISSや宇宙飛行士、ほかの実験装置に影響を与えないことを確認する安全審査も必要となる。今後、両社は2028年の実証に向け、装置の適合性確認や安全審査などの準備を進める。

軌道上建設を支える溶接・検査技術の商品化へ

Space Quartersは今回の実証を通じ、電子ビーム溶接ユニットとX線透過検査ユニットのTRLを8まで引き上げる計画だ。

TRL-8は、実際の利用環境でシステムとしての機能や性能が確認され、実用化に向けた開発がほぼ完了した段階を示す。軌道上実証を経て両ユニットの商品化につなげ、宇宙空間における組み立て、修理、保守などに利用できるツールとして提供することを目指す。

将来、宇宙ステーションや月面拠点、大型アンテナ、太陽光発電設備などの宇宙インフラが大型化すれば、完成品を地上から打ち上げるだけでなく、部材を宇宙へ運び、軌道上や月面で組み立てる手法の重要性が高まる。

Space Quartersは、ロボットによる構造物の組み立てと、電子ビームによる接合、X線による品質検査を組み合わせ、宇宙インフラを建設するための一連の技術体系の確立を目指している。