流体や粒子の流路にボトルネック構造があると、流れは「目詰まり」を起こし、流速の低下や流れの閉塞をもたらす。この現象は、各種フィルターや透析などでろ過の仕組みとして広く利用される一方で、プラントやインフラ配管、血管などの移送管における事故や疾病の原因にもなる。そのため、目詰まり現象の背後に潜む共通原理を解明することは、基礎・応用の両面においてきわめて重要視されている。
こうした中、東京科学大学(科学大)は、超伝導体の磁束の流れ(フロー)の減衰挙動を測定し、磁束が試料の欠陥に捕まる磁束の「ピン止め」と、ピン止めされた磁束が作るボトルネック構造に塞がれる「目詰まり」を区別して検出することに成功したと、10月20日に発表した。
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目詰まりとピン止めによる流れの減衰緩和の検出。(a)電流I(駆動力に対応)の時間変化の模式図。(b)定常電圧値で規格化した電圧(磁束のフロー速度に対応)の時間依存性。挿入図:緑色のグラフに対応する渦糸の運動状態を表す模式図 (出所:科学大Webサイト)
また、定常流または閉塞状態に達するまでの緩和時間は両現象で大きく異なるものの、共に同じ臨界駆動力で発散し、臨界指数の値も等しいことが判明した。これらの結果から、目詰まり現象は、ピン止め現象で生じる「ディピニング転移」と同じ臨界点と臨界現象を持つ「非平衡相転移」であることが、初めて実験的に実証された。
同成果は、東京工業大学(現・科学大) 理学院 物理学系の嶺村貴秀大学院生(研究当時)、同・前垣内舜大学院生(研究当時)、同・家永紘一郎助教(現・山口大学大学院 創成科学研究科 准教授)、科学大 理学院 物理学系の金子真一助教、同・大熊哲名誉教授(日本原子力研究開発機構 客員研究員兼任)らの研究チームによるもの。詳細は、「Communications Physics」に掲載された。
今回の研究成果
目詰まりは、流体などの流れに限った現象ではなく、たとえば狭いゲートを多人数が通過する際などに、身の回りでも広く見られる。このような目詰まりを支配する共通原理を見出すことは、基礎科学と応用の両面から重要だ。
そこで研究チームは今回、超伝導体の磁束の流れを用いて、非平衡(時間と共に状態が変化し平衡状態に達していない状態)目詰まり転移の実証に挑むことにした。
超伝導体の磁束系には、均質な二次元多粒子系とみなせる上、電流によって制御した駆動力を印加して流速を電圧により高精度に検出できる、という特徴がある。これが、非平衡現象を調べるのに適したモデルとして、今回の研究に用いられた理由だ。
具体的には、今回の研究で用いられたアモルファスMoxGe1-x膜では、ランダムに分布したミクロな欠陥が、流れる磁束を個々にピン止めする。ピン止めとは、超伝導体の磁束が試料の欠陥や不純物などの常伝導部分に捕らわれ、ピンで留めたように動けなくなる現象をいう。
一方、ピン止めされた磁束が壁状のボトルネック構造を形成すると、磁束間の反発力によって、流れ込む磁束が堰き止められて目詰まりが発生する。今回の研究では、この目詰まりが駆動力の反転によって即座に解消されることに着目し、流れの向きを可変にした2段階の駆動実験が考案された。
実験ではまず、1段目でボトルネック構造に磁束を目詰まりさせ、2段目で逆向きの駆動力を印加してフロー速度の変化が測定された。その結果、早い時間域では急激な減少緩和が、遅い時間域では緩慢な減少緩和が観測された。前者は目詰まりから外れた磁束がすぐに近くのボトルネックで再び目詰まりしたことを、後者は一部のピンから外れてフローする磁束が徐々に欠陥にピン止めされていく過程を表す。
次に、1段目の最後で短時間だけ駆動力を反転させて目詰まりした磁束を短距離移動させ、2段目で元の向きに駆動させた。すると、目詰まりによる速い緩和のみが観測された。この場合に遅い緩和が観測されないのは、短時間の駆動力反転では、ピン止めされている磁束はピンから外れないためだ。こうして、2つの異なる起源による緩和時間を区別して求めることに成功した。
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非平衡目詰まり転移とディピニング転移を示す臨界発散。(a)τfastの
- I2
- 依存性。
- I2
- <Icが目詰まり相、
- I2
- >Icがフロー相に対応。(b)τslowのI2(>0)依存性。I2<Icがピン止め相、I2>Icがフロー相に対応。τfastとτslowのスケールは3桁も異なるが、共に同じIcで、同様のべき乗の臨界発散が見られる。挿入図は、共にメイン図の両対数プロット (出所:科学大Webサイト),A@
続いて、2段目の駆動電流に対する、速い緩和時間と遅い緩和時間の依存性が調べられた。その結果、双方の緩和時間とも、同じ臨界電流値で両側からべき乗の臨界発散をすること、つまり目詰まり転移とディピニング転移の臨界現象が現れることが判明した。また、臨界緩和の臨界指数は共に1.3と算出された。
運動状態にあるアクティブ粒子の割合から求められるもう1つの臨界指数も含め、得られた臨界指数はすべて、吸収状態転移の「二次元DP(異方的浸透)」普遍クラス(臨界点付近でのマクロな振る舞いや臨界指数が同じになるグループ)の値と一致することが確認された。
研究チームはこれまで、同じ磁束系を用いて、可逆不可逆転移、ディピニング転移、プラスチックフロー-スメクチックフロー転移の存在を実証してきた。今回の目詰まり転移を含め、これら全ての非平衡相転移が吸収状態転移のDP普遍クラスに属することが明らかになった。
目詰まり現象は古くから、ソフトマターやレオロジー分野で個別に研究が行われてきた。今回の研究により、この現象が臨界現象を伴う非平衡相転移であることが実証されたことは、多様な系で現れる目詰まり現象を理解する上での統一的指針が得られたことを意味する。
社会的に見ると、目詰まり現象は上下水処理や人工透析などのろ過装置、油分離器、エアコン、マスク、コーヒー抽出などのフィルターで広く利用されている。一方で、冷却水管や輸液チューブ、血管などの移送管の目詰まりは重大な事故や疾病につながる。今回解明された緩和時間と駆動力の普遍的関係は、将来的な目詰まりの発生予測や発生時期の特定、そして目詰まりの制御に道を開くものと期待される。
さらに、目詰まり現象を抑制する方法を開拓することは社会的にもきわめて重要である。先行研究には、ボトルネックによる目詰まりだけを考慮したシンプルなものではあるものの、直流の駆動力で作られた流れに適切な交流の駆動力を重畳させると、目詰まりが抑制され、流動化を促進するというシミュレーション予測がある。そこで研究チームは今後、今回の実験を発展させた直流フローに交流駆動力を重畳する実験を展開し、ピン止め効果も共存する現実の系における目詰まりの抑制と流動化の促進方法の探求を進めていくとしている。