生成AIの普及に伴い、AIインフラに求められる条件が変わりつつある。モデルを構築する「学習」に加え、利用者の要求に応える「推論」の比重が高まり、AIエージェントやフィジカルAIでは応答速度や電力、計算資源の配置が重要になる。
10月8~9日に開催された「NTT docomo Business Forum'26」に登壇したNTTドコモビジネス エバンジェリスト 林雅之氏は、次世代情報通信基盤「IOWN」を活用した分散GPUの取り組みと、GPUやネットワーク、電力などを統合して運用する「AIOWN」の構想について解説した。
AIの「学習」から「推論」へ - 変わるインフラ要件
林氏は冒頭、AIインフラを巡る昨今の動向を紹介した。AIの活用は、大規模な汎用モデルの開発を中心とする段階から、企業業務に特化したAI、複数の処理を担うAIエージェント、現実世界で動作するフィジカルAIへと広がっている。それに伴い、完成したモデルを使って予測や応答を返す推論の重要性が高まっているという。
「AIのワークロードは、学習から推論へシフトしています。学習は大量のデータを使ってモデルを作る工程ですが、推論は予測や応答をよりリアルタイムに返していくものです。AIエージェントの活用が広がり、推論が常時発生するようになると、インフラにかかる負荷も高まっていきます」(林氏)
もっとも、学習の需要も今後伸びていくため、双方を想定したインフラ設計が必要となるだろう。データセンターも、AI向けGPUの高性能化に伴ってラック当たりの消費電力や発熱量が増大し、100kWを超える構成も想定される。従来の空冷だけでは対応が難しくなり、液冷の導入や電力供給方式の見直しが必要になるという。
林氏が、推論が常時発生する時代のインフラ要件として挙げたのが、遅延、電力、配置の3点だ。具体的には、リアルタイム推論に対応する低遅延なネットワーク、GPUの高密度化に伴う電力の確保、エッジとの組み合わせやデータ主権を考慮した分散配置が必要になると語った。
通信からコンピューティングへ光化を進める「IOWN」
こうした課題への技術的な取り組みとして紹介されたのが、NTTグループの次世代情報通信基盤「IOWN」だ。その中核にあるのは、電気による伝送や接続を可能な部分から光へと置き換えていく光電融合技術である。
「IOWNのポイントは光電融合技術にあります。大容量の電気通信では、伝送距離が延びるにつれて消費電力が増えますが、光通信ではその増加を抑えられます。これから電力需要が増えていく中で、電気で行っていた部分を光に置き換えることが重要になります」(林氏)
IOWNを支える主な技術には、光電融合デバイス、APN(All Photonics Network)、分散型の光コンピューティングがある。APNは通信ネットワークの全区間で光波長を占有し、大容量・低遅延・低消費電力の通信を実現する技術だ。NTTドコモビジネスは、APNを活用するサービス「docomo business APN Plus powered by IOWN」の提供を始めている。
さらに、IOWNによる光化は通信ネットワークだけにとどまらない。NTTグループは、コンピューティング内部にも光を使う範囲を広げようとしている。
「現在、実現できているのはデータセンター間をAPNでつなぐ部分です。次に取り組んでいるのはボードとボードを光でつなぐIOWN 2.0で、その先にはチップ間を光でつなぐIOWN 3.0があります。さらにダイ間通信へと進めていく考えです」(林氏)
このロードマップでは、データセンター間接続に当たるのがIOWN 1.0、半導体のダイ間接続に当たるのがIOWN 4.0だ。ボード間接続(IOWN 2.0)では商用化と量産化に向けた取り組みが進み、チップ間接続(IOWN 3.0)では2028年ごろの展開を目指しているという。
離れたデータセンターを、一つの計算基盤のように利用
APNの活用例として林氏が取り上げたのが、分散型コンピューティングだ。国内のデータセンターは東京や大阪に集中しており、各地への分散が検討されている。その際、課題となるのが離れた拠点間の通信遅延である。
「東京や大阪にデータセンターが集中しています。北海道から九州まで分散させていこうという動きがありますが、場所が離れると遅延が気になります。そこをAPNでつなぐことによって、低遅延なコンピューティング環境を使っていこうという考え方です」(林氏)
NTTドコモビジネスは、APNで離れた拠点のGPUを結ぶ仕組みを「GPU over APN」と呼ぶ。この仕組みを使って学習や推論などの処理を実行し、さまざまな条件で評価を進めている。
GPU over APNでは、「拠点間の距離が離れていても、一つのクラスターのように計算資源を利用できる」(林氏)という。同氏は、今後、データセンターの分散化が進む中で、APNによる低遅延の拠点間接続は重要になると見解を示した。
GPUや電力を含む統合運用を目指す「AIOWN」
林氏は続いて、NTTグループが推進するAIネイティブインフラ「AIOWN」を紹介した。これは、GPU、ネットワーク、電力などのリソースを最適化し、全国に分散したデータセンターやエッジまで含めて統合運用することを目指す構想だ。拠点間の接続には、IOWNの光ネットワークを活用する。
「AIOWNは、GPU、ネットワーク、電力、エッジ、セキュリティの統合オペレーションを含めたAIネイティブインフラです。これまでのICT環境はCPUや通信帯域が中心でしたが、AI時代にはGPUを中心に、応答速度やトークンスループットが求められるようになります」(林氏)
トークンスループットは、AIが一定時間に処理できるトークン量を示す指標だ。林氏は、応答に時間がかかる一部の処理の遅延を表すテールレイテンシとともに、AI時代の重要な性能指標に挙げた。
「私が特に重視しているのはトークンスループットです。トークンスループットやテールレイテンシへの対応は、ネットワークだけではできません。GPUや高帯域メモリーといった演算リソース、APNなどの光インターコネクト、推論ソフトウェア、ストレージ、電力・冷却、さらに運用の最適化まで考える必要があります」(林氏)
さらに、AIの利用が社会のさまざまな領域に広がるほど、データをどこに置き、誰が技術や運用を管理するかも問題になる。
林氏は、データ主権、技術主権、運用主権を確保する重要性を強調。その上で、ネットワークからデータセンター、AIモデルやアプリケーションまでをフルスタックで提供し、これらの主権に対応できることがNTTグループの強みだと説明した。
AIOWNの実現に向けたGPU over APNの技術検証
NTTドコモビジネスでは、APNを使った分散GPUの利用を顧客が検証できる環境も提供している。
「社内で実証してきたGPU over APNの分散環境を、お客さま向けに展開しているのがGPU over APN Testbedです。札幌から福岡までの拠点を使って、さまざまなAIワークロードの技術検証ができる環境を提供しています」(林氏)
このTestbedは、AIOWNの実現に向けた技術検証を進めるための環境として位置付けられている。実際の検証例として紹介されたのが、三井情報と共同で行ったゲノム解析である。首都圏に保管されたデータを複数地域のGPUで解析し、1拠点で処理した場合と5拠点に分散した場合の処理時間を比較した。
「1拠点よりも5拠点に分散した方が、ゲノム解析を早くできました。複数のGPUを使って解析するという点でも、分散型のインフラ環境は適しているのではないかと思っています」(林氏)
この検証では、複数拠点のGPUを使った構成で処理時間を短縮した結果が示された。林氏は、こうした分散型の環境について、今後もさまざまな用途で技術検証を進めていくと意欲を見せた。
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GPU over APNの技術検証が進んでいても、AIOWN全体が商用化されたわけではない。林氏は、現在提供しているサービスを含む「AI-Centric ICTプラットフォーム」と、AIOWNの違いについて次のように説明した。
「AIOWNは中長期的な取り組みです。一方、AI-Centric ICTプラットフォームは、まさに今提供できるサービスも含めて展開しているものになります」
AI-Centric ICTプラットフォームは、コンピューティング、ネットワーク、セキュリティなどを組み合わせたサービス提供の枠組みであり、AIOWNの実現に向けた取り組みとして位置付けられている。
林氏は、AIOWNの段階的な展開として、大規模データセンター間でのリソース配分、ユーザーに近い場所でのデータ処理、そしてロボット同士やAI同士が通信する環境への対応を挙げ、それぞれの段階で分散するAIの処理を最適化しながら、AIOWNの本格的なビジネス展開に取り組んでいく考えを示した。





