動物が落とす糞(ふん)から腸内細菌を調べると、一見すると健康そうな病気の動物で細菌の多様性が下がっていたことを、北海道大学などが札幌市円山動物園で飼育する8種の草食動物で明らかにした。腸内細菌の検査を動物の健康管理に用いることができれば、体に負担をかけずに病気の早期発見につながる可能性がある。
動物園で飼育される動物は、ペットなどに比べると野生動物としての本能が残っていることが多い。野生動物は外敵から身を守るため、「自分は弱い」というアピールにつながる体調不良を隠す本能がある。同種のライバルに狙われないように体調不良を隠すほどで、日々観察をしている飼育員でも異変に必ず気づくとは限らない。異変に気づいても、病気かどうかを診断するためには、体への負担が大きく死亡リスクもある全身麻酔をかける必要が生じるため、非侵襲的な検査を発展させる必要性があった。
北海道大学獣医学部と札幌市円山動物園は2017年より連携協定を結んでいる。北海道大学大学院獣医学研究院の中尾亮准教授(獣医寄生虫学)と、動物園動物の診察や治療を行っている同市円山動物園飼育展示・診療担当課の柿阪圭太獣医師が中心となり、腸内細菌が生存に必須である草食動物8種(カンガルー、ゾウ、エランド、シマウマ、カバ、エゾシカ、ヒツジ、キリン)について、糞からDNAを抽出して遺伝子解析を行い、腸内にどのような細菌がどれくらいの割合で存在しているのかを調べた。
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腸内細菌を調べた草食動物8種。反芻動物はキリン2個体、エゾシカ4個体、エランド1個体、ヒツジ5個体。反芻しない後腸発酵動物はシマウマ2個体とゾウ4個体。有袋類カンガルー9個体、カバ2個体(北海道大学提供)
腸内細菌の多様性は同じ種の動物なら近い値を示したが、カンガルーとエゾシカとヒツジで著しく多様性が低下した個体が1頭ずついた。多様性が低下した個体について、糞を分析した前後の健康状況を調べると、カンガルーは分析から7日後に死亡していた。解剖をすると全身にリンパ腫が見られたが、分析時は元気な様子を見せていたという。エゾシカは、餌は食べているのにガリガリに痩せている状況が続いていた。ヒツジは、分析時には軟便の治療中で、分析から56日後に死亡していた。解剖すると、胃が小さかった。
動物園で管理された飼育動物であっても、動物の進化の歴史とその動物が保有する腸内細菌の進化の歴史が一致する「系統共生」という現象も確認できたという。

草食動物8種の各個体(黒丸)における腸内細菌の多様性を示すシャノン指数(北海道大学提供)
中尾准教授と柿阪獣医師は「腸内細菌を利用した動物園動物の疾患検出のための先駆け。群れの仲間の腸内細菌をものさしとして利用し非侵襲的に『隠れた病気』を診断できる可能性がある」としながらも、今後は他の動物園と協働し、腸内細菌を調べる動物(サンプル数)を増やしていき、飼育環境や動物個体間のコミュニケーション、季節や繁殖サイクルといった別の要因がどの程度健康に関わるのかを調べていくという。
研究は8月13日公開の「ジャーナル・オブ・ズー・アンド・ワイルドライフ・メディシン」電子版に掲載された。
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