• 今回の研究概要。飼い主のオキシトシンは、ネコのオキシトシンと正の関連を示し、飼い主のコルチゾールはネコのオキシトシンと負の関連を⽰した。また、ネコのオキシトシンが⾼いほど飼い主のネガティブな気分は低く、ネコと近くで過ごすほど飼い主の活気は⾼い傾向が見られた(Takagi et al., 2026, iScience のグラフィカルアブストラクトを⽇本語化して掲載、CC BY 4.0) (イラストは⾼⽊特定助教がChatGPTで⽣成したもの) (出所:京都大学ニュースリリースPDF)

    今回の研究概要。飼い主のオキシトシンは、ネコのオキシトシンと正の関連を示し、飼い主のコルチゾールはネコのオキシトシンと負の関連を⽰した。また、ネコのオキシトシンが⾼いほど飼い主のネガティブな気分は低く、ネコと近くで過ごすほど飼い主の活気は⾼い傾向が見られた(Takagi et al., 2026, iScience のグラフィカルアブストラクトを⽇本語化して掲載、CC BY 4.0) (イラストは⾼⽊特定助教がChatGPTで⽣成したもの) (出所:京都大学ニュースリリースPDF)

人と共に暮らす“伴侶動物”の中でも、最も人気を集めるのがイヌやネコといった動物だ。イヌの場合、飼い主とイヌのホルモン濃度が関連することが知られているが、ネコでは調べられておらず、「ネコと暮らすことが飼い主の⼼⾝にどう関わるのか」は、現在も詳しいことはわかっていない。

京都⼤学と⿇布⼤学の研究グループは、複数のネコとその飼い主を対象に、ホルモン濃度の測定や生態観察を実施。ネコとヒトの⽣理的な結びつきは、社会的な結びつきに関わるホルモン「オキシトシン」を中⼼としている可能性が示されたことを、10月15日に共同発表した。

京都⼤学⽩眉センターの⾼⽊佐保特定助教と、⿇布⼤学獣医学部の菊⽔健史教授らの研究グループによる研究成果。論文は、⽶国の国際学術誌「iScience」に⽶国東部時間10⽉14⽇11時付でオンライン掲載されている。

研究成果のポイント

  • ネコ29匹とその飼い主19名を対象とし、このうち尿試料が得られたネコ24匹について、1カ⽉間にわたって両者の尿中のオキシトシンとコルチゾールを測定。飼い主の気分や、家庭内でのネコと飼い主の距離との関係を調べた
  • 飼い主のオキシトシン濃度が⾼いほどネコのオキシトシン濃度も⾼く、飼い主のコルチゾールが⾼いほどネコのオキシトシンは低いという関連が⾒られた。コルチゾール同⼠には明確な関連は⾒られなかった
  • オキシトシン濃度の⾼いネコの飼い主ほどネガティブな気分が低く、ネコと近くで過ごしている飼い主ほど活気が⾼いこともわかった

研究の背景

ペットフード協会が実施した2025年全国⽝猫飼育実態調査によると、国内で飼育されているネコは約885万頭で、その飼育数はイヌ(約682万頭)を上回っている。こうした“伴侶動物”と人が共に暮らすことは、⼼⾝の健康に良い影響をもたらすといわれてきた。

しかし、「ネコを飼うこと」の効果はイヌと⽐べて⼀貫していないとされ、「飼い始めて1カ⽉ほどしか効果が続かなかった」という報告もあれば、「ネコの飼育が⼼の健康とむしろ負に関連していた」という報告もあるという。こうした違いが⽣じる理由や仕組みはよくわかっていない。

その⼿がかりとして注⽬されるのが、ストレスに関わるホルモンである「コルチゾール」と、社会的な絆に関わるホルモンである「オキシトシン」だ。

前者は副腎から分泌されるホルモンのひとつで、ストレスを受けると分泌が増えることから、ストレスの指標として用いられている。一方、後者は脳で作られるホルモンのひとつで、親⼦の絆や他者との信頼関係といった社会的な結びつきに関わっており、ストレス反応をやわらげる働きもあるとされる。

イヌの場合、飼い主とイヌが⾒つめ合うことで双⽅のオキシトシンが上昇することや、飼い主とイヌの間で⻑期的なコルチゾール濃度の相関が報告されている。

一方でネコの場合については、ネコ側だけ、あるいは飼い主側だけのホルモンを測った研究にとどまっており、⻑期的な視点から、ネコと飼い主の双⽅のオキシトシンを同時に測定した研究はなかったとのこと。また、先行研究の多くは“ネコとの⽇常的な関わり”を質問紙で評価しており、実際の⾏動を正確に反映していない可能性があるという。

そこで研究グループは、ネコと飼い主の双⽅のホルモンを測定するとともに、家庭内での両者の距離を機器で客観的に記録し、ホルモンと飼い主の気分との関係を調査。SNSやチラシで募集した18〜60歳の飼い主19人(⼥性16人・男性3人)と、彼らが飼っているネコ29匹(⽣後4カ⽉〜13歳)が参加し、各家庭で1カ⽉間、4つの項目に取り組んだ。

今回の研究成果

研究⼿法・成果1

飼い主とネコの尿をそれぞれ3回採取し、オキシトシンとコルチゾールの2種類のホルモン濃度を測定した(5匹のネコは尿が採取できなかったため、ホルモンの解析は24組で⾏った)。

その結果、ネコと飼い主のオキシトシンの関連として、飼い主のオキシトシン濃度が⾼いほどネコのオキシトシン濃度も⾼く、反対に飼い主のコルチゾール濃度が⾼いほどネコのオキシトシン濃度は低い、という関連が⾒られたという。なお、飼い主とネコのコルチゾール濃度の間には、明確な関連は⾒られなかったとのこと。

研究⼿法・成果2

電波を発信する⼩型のBLE(Bluetooth Low Energy)ビーコンをネコの⾸輪に取り付け、飼い主が持つスマートフォンで電波の強さを1カ⽉間連続して記録。ビーコンとスマホの間のおおよその距離を推定することで、「家の中でネコと飼い主が日常的にどれくらい近くにいたか」を測る指標とした。

その結果、オキシトシン濃度が⾼いネコの飼い主ほど、「怒り−敵意」、「混乱−当惑」、「抑うつ−落込み」、「緊張−不安」といったネガティブな気分が低いことが判明。また、飼い主⾃⾝のコルチゾール濃度が⾼いほど、ネガティブな気分が⾼いことも確認した。

研究⼿法・成果3:

飼い主の気分を測る質問紙(POMS2:Profile of Mood States 2)への回答も実施。回答者の気分の状態を、「怒り−敵意」、「混乱−当惑」、「抑うつ−落込み」、「疲労−無気⼒」、「緊張−不安」、「友好」、「活気−活⼒」の7つの側⾯から評価するもので、今回は⽇本語版の短縮版を使用している。

ネコとの距離と飼い主の気分の関連については、家の中でネコとより近くで過ごしている飼い主ほど、「活気−活⼒」が⾼いことがわかったという。⼀⽅、ネコと暮らしている期間の⻑さと活気との間には関連は⾒られなかったとのこと。

研究⼿法・成果4:

ネコの⾏動観察として、ネコとヒトの愛着関係を調べるために⽤いられる「安全基地テスト」を応⽤し、飼い主と⾒知らぬ⼈に対するネコの近づき⽅を観察。具体的には、床に描いた円の中に飼い主または⾒知らぬ⼈が座り、ネコが円の中に⼊るかどうか、どのくらいの時間を過ごすかを観察したという。

ネコのホルモンと⾏動の関連として、オキシトシン濃度が⾼いネコほど、相⼿が飼い主か⾒知らぬ⼈かにかかわらず、ヒトに近づきやすいことがわかった。一方、コルチゾール濃度が⾼いネコほど⾒知らぬ⼈の近くで過ごす時間が短い傾向もみられたが、この関連は明確ではないという。

まとめと課題、今後の展開

研究グループは今回の研究について、「私たちの知る限り、⾃然な家庭環境において、ネコと飼い主のオキシトシン濃度の関連を⽰した初めての研究」であり、「家庭で暮らすネコと飼い主の間でオキシトシン濃度に正の関連があることを⽰した初めての研究」だと説明している。

イヌとヒトの関係ではコルチゾールの連動も多く報告されてきたとのことだが、「ネコとヒトの関係ではオキシトシンを中⼼とした結びつきが中⼼なのかもしれない」と考察。イヌとネコの家畜化の歴史は異なり、群れで暮らすイヌの祖先と単独性の強いネコの祖先という、動物的な社会のあり⽅の違いを反映している可能性もあると見ている。

今回の研究結果からは、ネコを飼っている期間の⻑さよりも「⽇々どれだけネコと近くで過ごしているか」が、飼い主の前向きな気分と関わっている可能性があることがわかった。「ネコを飼うと健康に良いのか」という問いに対して、これまで⼀貫した結果が得られてこなかった理由のひとつとして、飼育の有無や期間だけでなく、⽇々の関わり⽅、つまり飼育の“質”が重要であることを⽰唆しているという。

なお、今回は事前登録をしていない探索的な研究であること、参加者数の少なさや飼い主の男女比の偏りなど、研究そのものに複数の限界があることも認めている。原因と結果についても課題があり、「ネコとの関わりが飼い主の気分を良くしている可能性」もあれば、「気分の良い飼い主ほどネコと積極的に関わっている可能性」もあると見ている。

さらに、ネコと飼い主は同じ家庭環境で暮らしているため、今回⾒られたホルモンの関連の⼀部は両者の直接のやりとりではなく、⽣活リズムや住環境といった共通の環境要因を反映している可能性もある。

今後は、より多様な参加者を対象に、ネコと飼い主の双⽅から同じタイミングで繰り返しデータを取る縦断的な研究や、実験的な研究を⾏うことで、ネコとヒトがどのように影響し合っているのかを明らかにしていく予定だという。