リコーは10月15日、日本語の文書や図表に対応し高速・省リソースで動作するマルチモーダルLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)「リコーLMM_35B-A3B」を開発したことを発表した。

このモデルはアリババクラウドが提供するMoE(Mixture of Experts)構造を採用した「Qwen3.6-35B-A3B」をベースに、リコー独自の強化学習およびカリキュラム学習技術を活用して、日本語でのリーズニング性能を高めたもの。

開発したモデルは11月から順次「RICOH オンプレLLMスターターキット」に搭載し、リコージャパンから提供予定。2026年6月に発表したDense型モデル「リコーLMM_ 27B」、より軽量な「リコーLMM_ 9B」に、速度と省リソース性に優れた今回のモデルを加えることで、ユーザーの業務要件や導入環境に適したモデルを選択できるラインアップを拡充する。

想定活用シーン

製造業では、設計図と要求仕様の適合確認や、トラブル対応時の社内ドキュメント参照などに使えるという。また、金融・保険では約款や報告書の高精度な読解と要点抽出、公共・自治体では申請書類や図表を含む行政文書の処理支援などにも利用可能だ。

そのほか、業務文書理解における会議資料や提案資料からの情報抽出・分析、過去の帳票や報告書のデータ化やナレッジ化など、高い生成速度が求められる大量文書の一括処理にも活用が期待できる。

MoE構造による高速・省リソースな推論

このモデルは総パラメータ数約350億のうち、推論時に約30億パラメータのみを稼働させるMoE構造を採用している。MoE構造は、モデル内部の処理を複数の「専門家」に分担させ、入力に応じて必要な専門家だけを選んで動かす仕組みだ。

これにより、同規模のDense型モデルと比較して1トークンあたりの計算量を抑えながらも、高速な処理を実現している。最大256Kトークンの長文コンテキストにも対応し、長大なドキュメントを一度に読み込んでから推論も可能。

画像だけでなく動画入力にも対応し、外部ツールを呼び出すツール利用(Tool use)機能も備える。

  • Dense型モデルとMoE型モデルの推論時に稼働するパラメータの違い(模式図)

    Dense型モデルとMoE型モデルの推論時に稼働するパラメータの違い(模式図)

日本語リーズニング性能の向上

「リコーLMM_35B-A3B」は、独自の強化学習およびカリキュラム学習技術をMoE向けに発展させ、図表を含む企業ドキュメントの読解性能をベースモデル「Qwen3.6-35B-A3B」から向上させた。

同社独自ベンチマーク「JDocQA-Reasoning Benchmark v2.0」においては、ベースモデルの0.816から0.841にスコアが向上。これは、推論時に稼働するパラメータが約9分の1でありながら、同じQwen3.6系列のDense型モデル「Qwen3.6-27B」(0.841)と同程度の水準である。

さらに、商用クラウドAIモデル「GPT-5.6 Sol」(0.821)とも同等以上の性能を確認し、同規模のMoE型オープンモデル「gemma-4-26B-A4B-it」(0.784)を上回る結果だという。

ELYZA-tasks-100やJapanese MT-Benchによる日本語LLM性能評価では、ベースモデルと同水準を維持しており、図表読解能力の向上と汎用的な日本語性能の両立を実現した。

日本語AIエージェント性能の強化

「リコーLMM_35B-A3B」は文書の読解や回答生成に加え、業務システムやツールを活用しながらタスクを自律的に実行するAIエージェント用途にも対応する。

日本語AIエージェント評価ベンチマーク「j-tau-bench」(SB Intuitions公開)の通信事業者カスタマーサービス(telecom)シナリオでは、業務ポリシーに従ってツールを利用しながらユーザーと対話し、依頼されたタスクを正しく遂行できた割合(正答率)が、ベースモデルの62.4%から77.7%へと15.3ポイント向上した。

社内文書の読解や活用だけでなく、問い合わせ対応や各種業務手続きの自動化も支援できるという。

ループ回答の抑制による応答時間の安定化

リーズニング型モデルでは、同じ内容を繰り返して出力し続ける「ループ回答」が実運用上の課題となる場合がある。

リコーは、過度に長い出力を抑制する報酬設計を強化学習に取り入れることで、回答の品質を維持しながら不要な繰り返しを抑制。これにより、応答時間の安定性を高めている。

小型AIサーバで動作する量子化版も開発

同社は、NVIDIA Blackwell世代以降のGPU向けに量子化した「リコーLMM_35B-A3B」のNVFP4量子化版を開発。小型AIサーバ「NVIDIA DGX Spark」1台で動作し、量子化後もベースモデルの量子化版を上回るリーズニング性能を確認している。

また、BF16版と比べて1問あたりの応答時間を約3分の1(MTP併用時は約4分の1)に短縮。