【問われるリーダーの覚悟】日本の再生・企業の生き方を探る!

AI(人工知能)が生活の隅々にまで浸透する今、”情報”はどう公正に正確に伝わるべきなのか、あるいは、伝えるべきなのか─。今は、戦争によるサプライチェーンの寸断で、国際秩序も揺らぎ、資源・エネルギー価格上昇など、インフレが進行する状況が続く。一方で、AIや関連半導体産業が伸長し、世界的に軍事拡張が進み、財政支出増が当面の景気を押し上げる効果を生み出す。このようにプラス、マイナス要因がせめぎ合う中での景気維持。時代の転換期、さらに言えば複合危機の中にあって、企業はどう生き抜くかという課題。今、高市早苗・政権は日本再生の重点戦略として、17分野、62製品・技術群をあげ、2040年までに370兆円の官民投資を行うとする。経済の主体を担う民間からは、「新陳代謝を促す政策を打つ時」との声もあがり、リーダーには覚悟が求められる。生成AIの登場で、産業構造も土台から変化し始め、それは世論形成に強い影響力を持つメディア・情報分野にまで変革の機運が広がる。日本再生、そして企業の生き方を探る─。

 ホルムズ危機で国が取った手と情報発信策

 ホルムズ海峡封鎖による原油価格高騰などで予想されるインフレにどう対処するか─。

「有事には海上輸送の再保険も効かなくなるので、中東の石油輸送は心配」と海上物流の関係者はマユをひそめる。先行き不透明な状況は続く。

 イラン戦争が始まった2月からこれまで、日本の産業界は石油価格上昇によるコストアップに対し、何とか工夫をしながら乗り切ってきた。しかし、今後は石油・プラスチックの不足という供給難がジワリジワリとやって来る懸念もある。

 過去7カ月間の動きを見ると、政府は石油や、プラスチックの粗原料となるナフサの調達に素早く動き、半世紀前の第1次石油危機時(1973年)のような”モノ不足騒動”は起こらなかった。50年前は、洗剤やトイレットペーパーが無くなる─という不安感から、消費者が買い占めに走り、日本中がパニックとなった。

 今回そうした状況にならなかった理由の1つは、日本政府が万が一に備えて、平時から石油備蓄在庫(254日分)を維持していたことが挙げられる。

 そして何より、50年前との大きな違いは、政府が石油在庫やナフサの国内保有状況を適時、開示したこと。積極的に情報発信し、国民の不安を解消する戦略が功を奏したと言っていい。

 内閣府の某関係者は、「50年前の苦い教訓があって、いかに情報を的確に、タイムリーに出していくかに努めた。今回は情報の発信の仕方が良かったと思う」と語り、次のように続ける。

「メディアに対して大変厳しいことを申し上げると、ちょっと心無い言葉を使いたいんだけれども、やはり不安を煽る発信が初期に目につきましたね。それに対して、資源エネルギー庁はどんどん反論していけと。そして訂正を求めるという厳しい姿勢で臨んでいこうよと。

 一番大事なのは、国民に正しい情報を伝え、パニックを起こさせないことですからね」

 今回も、一部の石油化学製品やプラスチック製の医療用手袋が一時期、需要に追いつかない事態となった。 「ええ、(石油化学原料の)ナフサがね、6月にはもうナフサ供給に目詰まりが出て、テレビのニュースにも”目詰まり”という言葉が出てきた。

 そういう言葉を聞いたら、中小零細のモノづくりの方々はどうなるかと。もう今、買っとかないと、早めに手当てしないと大変なことになるというのは消費者心理、企業心理ですからね。それで、一件一件、解きほぐしていった」

 ある業界で、この石油製品が足りない、あるいは医療用手袋が入ってこないという情報があれば、役所も四方八方手を尽くして製品を収集。文字通り、一件一件解決していったという。

「これは、普段の行政ではおよそ付き合いのない企業からの相談が多かった。担当官庁は今回よくやっていると思います」と官邸筋は語る。

 そして、アジアの国々や産油国との連携も重要。今回、日本はサウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)などの産油国との共同備蓄も進め、ASEAN(東南アジア諸国連合)で石油が不足している国や地域に製品を融通するなど、連携を強化。

 自国第一主義の横行で、”分断・分裂”が生まれているが、危機の中から新しい”連携・紐帯”も誕生。こうした世の中の出来事や変化を伝えるメディアの現状はどうなっているか─。

 新聞は、社会に不可欠なエッセンシャルメディア

 1995年にインターネットが本格的に登場して30年余。この間、社会の変化は実に激しい。

 新聞は、明治の文明開化と軌を一にして生まれ、今日まで続いてきたメディアだ。ラジオが登場したのは1925年(大正14年)、テレビは戦後の1953年(昭和28年)に初放送され、以来、新聞とテレビはメディアの”主軸”として長い間存在してきた。

 しかし、インターネットの登場で、状況は変化する。特に、スマートフォンが開発・販売(2007年)されてからは、状況が一変。情報収集が容易になると共に、誰もが手軽に情報発信し、インターネット上での交流が可能になった。

 特に20代、30代の若い世代は、X(旧Twitter)やInstagram、TikTokといったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を日々利用し、情報収集・発信を行っている。個人だけでなく企業も、自らの情報発信にSNSを活用する時代だ。一方で誤情報や誹謗中傷も目立つ。

 こうした”ニューメディア”が登場してから今日までの状況を、旧来のメディアの代表者はどう見ているのだろうか。

「確かに今は混沌とした状況です。よくわれわれはオールドメディアと言われますが、(新興メディアが隆盛する今でも)新聞業界が発信したものを基盤に世の中が動き始めると思っています。

 賛成であろうが、反対であろうが、歴史的にはオールドメディアではあるけれども、エッセンシャルメディアであると」と語るのは朝日新聞社社長・角田克氏(1965年生まれ、2024年社長就任)。

 新聞業界は紙離れ現象の中で抜本的構造改革が求められる。そうした中で、朝日新聞・角田氏は「エッセンシャルメディアが機能しない社会は非常に怖いと思います」と次のように語る。

「賛否は別にして、大本となる、そのファクトベースは、有権者が日々の事象についてどういうものか、問題点がどこにあるのかがわかっていないと政治ができませんし、選挙も成り立ちません。

 その意味で、業界全体で経営的に苦しくなっている中、オールドメディアとして叩かれやすい状況にありますが、ここまでネット社会、AI(人工知能)が発達する中、エッセンシャルメディアとしての価値は逆に高まってくると考えています」

朝日新聞

 朝日新聞社長・角田 克

 角田氏はこう述べ、「今は、その潮流、波濤をいかに掴むかという点で分岐点にあるという認識を持っています」という現状認識を示す。

 朝日新聞は1879年(明治12年)の創刊で、147年の歴史を持つ。その朝日を含め、新聞業界に身を置く人の多くは、「真っ当な自由主義、民主主義の国の基盤をつくる一翼を担っている」という自負を持つ。

 しかし、報道、言論の世界も、経営基盤が揺らいでいては活動していけない。朝日新聞の場合、発行部数は最盛期の半分の約300万部にまで縮小。

 新聞の収入は、販売部数と広告収入がその大半を占めるが、広告収入もネット広告に押されぎみ。大まかに見ると日本の広告は、ネット広告が約4兆円、民放(テレビ、ラジオ)が約1兆8700億円。新聞は全体で3500億円を割り、間もなく3000億円にまで落ち込むという見通し。

 その中を、どう生き抜くかという課題(ちなみに雑誌広告は約1100億円)。インターネット革命が進んだこの30年間、新聞界は手をこまねく状況であったが、ここへきてAIの活用に取り組み始めた。

 AIの活用へ向かう

 今はAIを取り入れないと、ニュースがユーザー(個人、企業)に届く率が下がる。特に2022年11月、米国のOpenAIがメディア領域に参入してからは、その傾向が強まる。

「私たちも『AI全振り』と言っていますが、これはAIに全てを委ねるということでは全くありません。その流れにパブリッシャーとして思い切り乗るべきか、一部乗るべきか、乗らないべきかという判断を刻々と迫られています」と角田氏。

 メディアパワーをアップするという方向性はいいとして、「AIに関わらないと、メディアパワーがアップできないというジレンマがあるんです」と角田氏は語る。

 新聞社の経営の生産性を上げるために、「『AI全振り』と言っているのは、まずは慣れようということです。会社の中のビジネス部門とか管理部門はAIに全振りする。編集部門は、その取材過程やデスクワークは絶対に必要です。『トラストアンカー』(信頼の錨)にならなければなりません。

 ただ、その過程ではAIを利活用しない手はない、というのが基本的な考え方です」と角田氏はAIの活用についての方向性を示す。

 スーパージャーナリスト─。

「優秀な記者は個人の関係が強いわけです。例えば最高権力者、企業や学者のトップと個人としての関係があるか、すぐにやり取りができるかといったことが記者としての大きな価値なんです。

 その前提としてのまとめや背景のインプットにはAIを使えばいいんです。この両方が重なった時に非常に強さを発揮できます。それが私が言っている『スーパージャーナリスト』です」(インタビュー欄参照)。

「記者の能力にAIを付加することでエンジンを増やし、発射するボールをさらに高く、遠くに持っていくというのが私のイメージです。こういう専門記者を増やさなければいけないということで準備しているんです」と角田氏は語る。

 社会活動に情報収集、情報発信は不可欠。SNSでそれが容易になった一方で、誤情報や誹謗中傷も多く、それが社会問題にもなっている。そうした中でトラストアンカーたろうという角田氏のメディア改革である。

 世界経済は”強い力”と ”弱い力”のせめぎ合い

 複合危機の中で、日本の再生をどう図るか─。

 世界経済が政治的対立や戦争などに左右され、サプライチェーンの分断、資源の争奪戦という様相が深まる。まさに複合危機の中にあると言っていい。

 世界経済の現状について、日興リサーチセンター理事長の山口廣秀氏は、「経済という所に焦点を当てると、強弱2つの力が作用しています」という認識を示し、次のように語る。

日興

 日興リサーチセンター理事長・山口廣秀

「強い力の1つはAI、半導体バブル。私はAI、半導体を巡る状況はバブルではないかと思っています。また、世界的に軍事拡張が行われる中で財政が拡張しています。このAI、半導体バブルと軍事拡張を伴う財政刺激が2つの強い力として経済に作用しています」

 山口氏は、こう2つの”強い力”を示しながら、”弱い力”という表現で次のように続ける。 「一方、弱い力としては世界の供給力、生産力が、先ほどのサプライチェーンの分断や経済のブロック化によって落ちてきています。これらの強い力と弱い力とがせめぎ合っている状況が今だと思います。

 ただ、強い力と弱い力とがせめぎ合っているということは、景気全体は大きくよくなることもないけれども、あまり下振れすることもないということです」 ”強い力”と”弱い力”が併存しているというのは、景気全体を見ると、大きく景気が良くなることはないが、大きく下振れすることもない。

 ある意味、底堅さは感じられるということであるが、ぬるま湯の状況だということでもある。

 骨太戦略を実のあるものにするために必要なこと

 そうした現状の中、高市早苗・政権は日本再生の”骨太戦略”を打ち出し、17の成長分野を掲げ、2040年までに約370兆円の民間投資を行うとの方針を表明している。

 その中身を見てみると、量子、AI・半導体からデジタルサイバーセキュリティ、情報通信、防衛、航空・宇宙産業、海洋、造船、バイオ、創薬・先端医療、フードテックなど、多領域にまたがる。

 そのためか、「焦点を絞り切れていない」とか、「これまでの歴代内閣が成長戦略を打ち出してきたが、大して成果をあげられなかった。その二の舞にならないか」という声があるのも事実。

 一方、AIや量子、航空・宇宙、そして次世代エネルギーとされるフュージョンエネルギーなど、国家戦略を抜きにしては、成長・強化を図れない分野は確実にある。

 「日本の勝ち筋を挙げた」と城内・成長戦略担当大臣

 政府で日本成長戦略担当大臣を務める城内実氏は、日本の現状について、「諸外国と比べて、圧倒的に足りなかったのは国内投資」として、官民が協力して投資を推し進めていくことの重要性を力説。

城内

 日本成長戦略担当大臣・城内実

 17の成長分野・62の製品群を挙げたことについて、「これは日本の勝ち筋を選び、強い経済をつくっていこうというもの」だとして、総花的ではないと語る。

 AIについても、「これからは(ロボティクスとAIを融合した)フィジカルAIで勝負しようと。日本はもともとロボット技術に優れており、製造業の様々なデータがある。こうした基盤を活かし、フィジカルAIを勝ち筋にしていきたい」と語る。

 米中対立の時代、米国は産軍複合体といわれるような体制からインターネット、AIを先導する産業群を生み出している。一方の中国は、国家資本主義と呼ばれるように、国が管理・主導権を握って産業を育成している。

 しかし、国営にしろ、私企業にしろ、激しい競争にさらされる。その中をくぐり抜けた者だけが生き残ることができる。決して甘くはない運営。

 中国企業が、ロボットやフィジカルAI、EV(電気自動車)の世界市場で存在感を示しているのも、一定程度、そうした国家資本主義的な政策が功を奏していると言っていいであろう。

 日本は、”勝ち筋”と言うからには、しっかりとした成果をあげなければならない。民間企業がその力を大いに振るうことができるようにするためには、一般産業をはじめ、農業、林業、水産業までのさまざまな制度改革、規制緩和が求められる。

「その中には労働改革も含まれると思います。結果として、民間は何を求めているかというと、やはり新陳代謝を促すような政策を打ってほしいということだと思います。

 全部の人を助けるような政策を打ってしまうと、実は結局のところ、経済生産性の上昇につながらない。やはりメリハリのついた施策を打ってほしい」と、日興リサーチセンター・山口廣秀氏は成長戦略の”肝”を語る。

 国と民間企業との関係

 これまで、政府の財政制度等審議会委員や税制調査会委員を務め、経済財政諮問会議の議員を2021年から2025年まで務めた中空麻奈氏(かんぽ生命保険エグゼクティブ・フェロー)。

かんぽ

 かんぽ生命保険エグゼクティブ・フェロー・中空麻奈

 中空氏は政府が掲げる骨太戦略について、「何を勝ち筋として持っていくかということのメッセージが少ないと思っています」と感想を述べつつ、次のように語る。

「ですから懐深く、投資した事業は一定期間(3年間程度)成果を問わない。その代わりその間成果が出なければ終わりだという形にする必要があります。

 金融機関がやる投資でもそうですが、確実に利益が出るもの、利益は出ないかもしれないけれども出た時に大きいものと分散して投資し、それを細かく管理するわけです。どういうポートフォリオをつくり、誰が管理するかが大事です。

 ポートフォリオの責任者は総理だと思いますが、経済産業省とかにいろいろなものを割り振るんだと思うんです。その流れで果たして正しいのか。そこをどうやってコントロールするかが少し見えないですね」。国と企業の新しい関係の構築が求められている。

 

 変えるべきは変え経営の基本軸は守る

「時代の変化に合わせて、インフラの部分もつくり変えていかないといけない」と語るのは商工中金(商工組合中央金庫)社長の関根正裕氏(1957年5月生まれ)。

 商工中金は1936年(昭和11年)に国有の金融機関として設立され、以来90年の間、中小企業を対象に金融業務を行ってきた。2006年、当時の小泉純一郎首相が商工中金を完全民営化すると宣言したものの実現せず、紆余曲折を経て2023年、株式会社となり民営化された。

 関根氏は、旧第一勧業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に入行後、金融危機の中、中堅行員として同行の経営改革に携わった。2007年、西武ホールディングスに入社。

 西武鉄道やプリンスホテルを擁する西武グループは当時、ガバナンス危機に陥っており、関根氏は同社現会長の後藤高志氏を支え、改革に奔走した。

商工中金

 商工中金(商工組合中央金庫)社長・関根正裕 

 企業の再建・再生に携わってきた経歴を買われ、2018年、当時、不祥事が発覚した商工中金再生のために、社長に就任したという経緯である。 ”金利のある時代”に入った今、関根氏は商工中金を再生させ、中小企業の生産性向上を図るという使命を担う。

「AIの進化、デジタル化で社会がどんどん変わる時代。金融の領域にも、要するに金融機関以外が金融に入り込んでくる時代。われわれもかつて、金融という機能は残るけど、銀行はなくなるんじゃないかと。そういう時期も経験してきました」  関根氏自身、いくつもの修羅場を経験してきた。

「金融機関のあり方はどうあるべきか。そういう中で商工中金はどうあるべきか。(危機に対して)きちんと備えて基盤をつくっていくべきじゃないかという議論をしています」

 AIの進化の速さは目まぐるしい。「AIの進化の速さを見ていると、トークン化預金、ステーブルコイン、ブロックチェーンなど、様々なものを変えていくと思います。

 進化のスピードは速く、10年後だと思っていたものが5年後、3年後に起きるかもしれませんから、デジタル化の基盤をどうするかという議論を今、進めています」と関根氏。

 商工中金はデジタル基盤づくりで、東京大学の松尾研究所と提携。AIによる経営アドバイザーの活用を推進する。最先端テクノロジーを取り入れる。

「経営者と顔を合わせ、経営者の志を聞いて、寄り添ってサポートしていくというのが商工中金の基本だと思っています」  変えるべきは変え、基本軸は変えない関根氏の経営である。