
ネゴシエーションのリアル教科書
現役閣僚の手によるトランプ関税に関わる日米交渉の記録である。
筆者と私は中高大と同じ学窓に学び、社会人になってからも断続的に仕事上の関りを持ってきた。こうした縁に加えて、この間、赤澤大臣のもう一つの責任範囲であった「新しい資本主義実行計画」の策定委員だったこともあり、当時、ある時は友人として、またある時は政府の委員としてコミュニケーションを取る機会があった。
交渉中の内容は極秘であり、その中身には触れなかったが、最大レベルの国難に挑む彼の心の揺れや緊張感はひしひしと感じていて、本書を読んでみて「ああ、あの時はこんなことが起きていたのか」と頷くこと度々だった。
私自身、産業再生機構時代のダイエー騒動やその後の日本航空再生では、世の中注目の中で色々な関係者と国益に関わる交渉を行ったことがある。日々の報道は大抵的外れで、評論家は不確かな断片情報でいい加減な批判をするのだが、同じようなことがこの日米交渉でも展開される。幸い、総理官邸の全幅の信頼をバックに、赤澤大臣以下、我が国のベスト&ブライテストのチームが実に有効に機能して、最後はホワイトハウスでトランプ大統領との真剣勝負でぎりぎりの交渉が妥結する。本書には当時の批判に対する「種明かし」も出てくる。
複雑で困難な交渉の基本は、ゼロサムの取り合いの構図にしないよう共通のゴールを設定すること。お互いのディールキラーを理解すること。こうした相互理解を担保する信頼関係を交渉当事者が作ることである。筆者たちが色々なアクシデントや政治状況の揺らぎの中で、強大かつ大切な交渉相手に対してネゴシエーションの生きた教科書のようにことを進めていく。
もちろん日米双方の国益に関わる機密事項は書かれていないが、それでも十分に貴重な歴史的資料であり、しかも全てのビジネスパースンに大きな学びを与える必読の好著である。