
イノベーションがどう導かれるのか?
日本は、人口制約に直面していて、もはや労働投入量を増やさずに成長する方法を考えなくてはいけない。大企業・中堅企業の人員数は、ここ2、3年ほどは増加していない(財務省「法人企業統計・年報」)。それでも日本企業は、実質労働生産性を継続的にプラスで伸ばしている。その理由を調べると、資本投入と技術貢献が生産性上昇の原動力になっている。政府の「370兆円の官民投資」もそうした思惑の下で組まれたのだと思う。
しかし、技術革新を飛躍的に推進させるには決定的に足りないものがある。おそらく、今の政権はそれに気づいていない。残念ながら、財政資金を投入するだけのイノベーションでは失敗するだろう。もっと技術革新の成功事例を研究した上で国家支援を加えた方がよい。
技術革新で最重要なのはエコシステムである。大学などで生まれたアイデアを社会に持ち出して、実装を助けるビジネスサポートを得て起業が始まる。資金援助する投資家の協力を得て「死の谷」を越えていける。大学には海外からも人材が集まり、自分で事業を成功した人々が投資家として起業家を助ける。日本には、そうしたグローバルな交流や、事業の成功者が資金支援するケースが圧倒的に少ない。
エコシステムの核心部分にあるのは激しい競争である。例えば、ジャパニーズ・アニメがどうして成功したかをご存知か。連載漫画の編集部には月に数十本の応募作品が送られてくるという。週刊雑誌というプラットフォームで連載打ち切りにならずに勝ち残った作品の中から、テレビ化・映画化され、さらに世界に売り出されていく。日本中に自作漫画を大ヒットさせたいと志す作者が多数いて、厳しく選抜されるから成功者が現れる。
17の戦略投資分野の中にはコンテンツ・ビジネスがあった。すでにヒットした作品を政府が後押ししようとするが、その手前で政府は競争に参加する多数の作者たちを生み出すことはできない。すでにある成功モデルに乗っかるだけでは、産業の裾野は広がらない。エコシステムを生み出すには、起業家を育てることに心血を注げる人間を役所に配置しないと不可能である。
もう1つ。サントリーの鳥井信治郎氏は「やってみなはれ」という言葉で新しい試みを後押ししたことで知られている。実は、筆者も誰1人賛成しないプロジェクトに対して、ある経営者が「おもしろいからやってみたら」と声をかけて成功させた事例を知っている。当時、周囲の人々はあの人が言うのだから仕方がないと納得したという。プロジェクトの提案者は「あの一声がなかったら今の成功はなかった」と述懐していた。こうした興奮は、官民投資の実行の中で再現できるのか。イノベーションに熱狂した人たちが参画して、共感を連鎖させないと、各種事業は成功しないだろう。