2026年9月12日(土)~13日(日)に、お台場のテレコムセンターにて、科学と社会をつなぐイベント「サイエンスアゴラ2026」が開催されました。日本科学未来館は、環境省による人工光合成技術に関する展示ブースやトークイベントに協力したほか、12日(土)に行われたトークセッション「研究者と話そう!『人工光合成がひらく未来』」では、科学コミュニケーターの松下と石川がファシリテーターを務めました。
このブログでは、トークセッションの様子を中心に、会場で行った人工光合成のブース展示や来場者のみなさんとの対話も交えながら、当日の様子をレポートします!
人工光合成って、聞いたことありますか?
トークセッションをふり返る前に、まずはみなさんに質問があります。
「光合成って、知っていますか?」
おそらく多くの人が、理科の教科書に出てきた「植物の光合成」を思い浮かべたのではないでしょうか。「光合成」とは、太陽の光を利用して水と二酸化炭素から酸素や栄養分を作り出す、植物が行う反応のことです。
では、もうひとつ質問です。
「人工光合成って、知っていますか?」
これには、なかなかピンとこないという方が多いのではないかと推測します。というのも、実際にサイエンスアゴラ2026の会場でも、来場者のみなさんに同じ質問を投げかけると、「知らないです。今、初めて聞きました」という答えがたくさん返ってきました。
「人工光合成」とは、植物が行っている光合成を手本に、太陽光から得た光エネルギーを利用して、水や二酸化炭素から、水素・炭素化合物などのクリーンな燃料や化学原料などを生み出す技術です。地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を減らすことが求められるなか、二酸化炭素を資源として活用する人工光合成の実用化は、持続可能な社会の実現に向けた大きな一歩になると期待されています。
人工光合成を可能にする方法の一つとして、「光触媒」を使ったものがあります。光触媒とは、光を受けることで化学反応を促進する物質のこと。この方法では、光触媒を使って、まず水を水素と酸素に分解する水分解が重要なステップになっています。実現が大変難しく、夢とまでいわれた人工光合成の技術の魅力を、環境省のみなさまと一緒にブースでお伝えしました。
会場みんなで”研究”について考えた60分
トークセッションでは、光触媒を使った水分解の研究に20年以上取り組んでいらっしゃる、信州大学卓越教授の久富隆史先生をお招きし、研究についてはもちろん、研究者としてのこれまでの歩みや研究への思いについてもお話しいただきました。
前半は、久富先生が専門とされる光触媒についてのお話からスタートしました。光触媒を使った水分解の技術が進めば、生成される水素を燃料として使うことができ、化石資源に頼らずにすみます。ところが、実際にこの反応を効率よく起こすことは簡単ではありません。光をうまく利用し水分解を効率よく進めるためには、どんな光触媒を使うかが重要になってきます。
光触媒のさまざまなお話のなかでも私がすごいと思ったのは、光触媒の「小ささ」と、そこに込められた研究者の工夫です。
久富先生が紹介してくださった光触媒の粒子は、大きさがおよそ200から500ナノメートル。人間の髪の毛の太さと比べると数百分の1ほどで、もちろん私たちの目で直接見ることはできません。ところが、そんな小さな粒子にも関わらず、その表面では、水素を生み出す反応と酸素を生み出す反応が、それぞれ別の場所で起こるようになっています。しかも、このような仕組みは、偶然生まれたものではありません。研究者が光触媒のつくり方を工夫し、狙いをもって設計することで、このような緻密な反応を実現しているのです! そこには、何百、何千という実験を重ねながら、よりよい光触媒を追い求めてきた研究者の試行錯誤が積み重なっています。
トークセッション後半では、少し視点を変えて、久富先生ご自身についてお話をうかがいました。小学生のころは、目の前で起きることに夢中になっていたという先生。アリを観察したり、いろいろな実験をしたりしながら、「やってみるとどうなるんだろう?」という好奇心を育んでいったそうです。高校生になると、化学実験の面白さに惹かれるようになります。自分が手を動かして操作することで、結果が変わる。そこに魅力を感じていたとお話しされていました。そして大学一年生の夏休み、光触媒の研究体験に参加したことをきっかけに、その研究にのめり込んでいったそうです。さらに、光触媒研究の先駆者である藤嶋昭先生と初めて出会ったのが、なんと久富先生のお誕生日だったという驚きのエピソードも教えてくださいました。こうしたお話を聞いていると、偶然のようにも思える出来事が、その後の人生に確かにつながっていると感じます。
また、事前に募集していたさまざまな質問に対しても、時間いっぱいまで丁寧に回答してくださいました。現在の研究でわかっていることだけでなく、これからの課題についても真摯に答える先生の姿からは、研究への熱い思いがひしひしと伝わってきました。
人工光合成がひらく未来
そしてもうひとつ印象に残っているのが、会場に来てくれた高校生の男の子との会話です。彼がブース展示に来てくれたときにお話をしたのですが、小学生のころから人工光合成に興味を持っていて、久富先生のトークセッションを聞くために来場してくれたこと、将来は人工光合成や光触媒の研究者になりたいことを話してくれました。先生の話に熱心に耳を傾け、何度もうなずきながらメモをとっていた彼の姿は、ステージ上の私からもよく見えました。きっと先生にも届いていたことでしょう。
さらに会場では、「人工光合成の研究に期待している」「久富先生の研究を応援したい」といった声も聞かれ、研究者と来場者とのつながりが生まれていることを感じました。トークセッションの最後、久富先生がおっしゃった「また会いましょう!」という言葉。もしかしたら、あの高校生の彼と先生が、いつか別の場所で再会する日が来るのかもしれません。
研究者が長い時間をかけて取り組んでいる研究に触れ、もっと知りたい、応援したい、自分も研究をしてみたいと思う人が生まれる。科学コミュニケーターとして、こうした瞬間に立ち会えたことは、本当にうれしいことでした。
今回のトークセッション、そしてブース展示での来場者との対話を通して、人工光合成という研究だけでなく、その研究に取り組む研究者の熱意を、多くの人に伝えることができたのではないかと思っています。
人工光合成は、今後さらなる発展が期待される研究分野です。また、環境省が2025年に「人工光合成の社会実装ロードマップ」をとりまとめるなど、社会実装へ向けた動きも進んでいます。研究者たちが挑戦を続ける人工光合成や光触媒が、これからどのような未来を切り開いていくのか、ぜひみなさんにも注目してみてほしいと思います。
関連リンク
- 脱炭素ポータル(環境省) https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/topics/20251003-topic-78.html
- 信州大学先鋭材料研究所堂免・久富研究室 https://www.shinshu-u.ac.jp/institution/rism/domen-hisatomi-lab/

執筆: 松下 このみ(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、対話活動や展示解説、情報発信などを行う。
【プロフィル】
幼い頃は部屋にこもって教科書を隅々まで読んだり、図書館の本を著者名"あ"から順番に借りたりしていました。「言葉のもつ力」に興味があり、趣味として短歌をたしなんでいます。
有機化学を研究していた白衣の大学時代を経て、今は白いベストの科学コミュニケーターとして活動中。未来館でいろいろな人との対話に色とりどりの花を咲かせる毎日を送っています。
【分野・キーワード】
構造有機化学、元素






