【政界】「責任ある積極財政」が正念場 発足1年で安定布陣を維持する高市首相

首相の高市早苗は9月の内閣改造・自民党役員人事で幹事長や主要閣僚などの「骨格」を維持した。10月に政権発足1年となるが、安定した布陣で引き続き政策の実行に邁進しようとしている。臨時国会は消費減税関連法案と連立を組む日本維新の会との約束である衆院議員定数削減法案の成立が待ったなしだ。年末にかけては自身の「責任ある積極財政」を具体化する2027年度予算編成が本格化する。外交でも、11月の中国でのAPEC首脳会議、12月の米国でのG20首脳会議と、重要日程が目白押しだ。

安倍政権を意識?

 9月11日夜、首相公邸に閣僚が次々と吸い込まれて行った。招いたのは公邸の主である高市。政権発足以来、初めて閣僚16人を一斉に集めて会食を行った。

 微妙だったのは開催のタイミングだ。特別国会閉会後の慰労会が熊本地震などを理由に延期されていたとはいえ、6日後には内閣改造を控えており、どの閣僚も自分は残るのか、それともお役御免か、内心は気が気でなかったに違いない。だが、高市は人事について口にせず、上機嫌でそれぞれの仕事ぶりを労っていたという。

 高市は16日に党役員人事、17日に内閣改造を行い、第2次高市改造内閣を発足させた。その特徴は一言で言えば、政権の骨格を維持したことだ。

 連立相手の日本維新の会から初めて幹事長の中司宏が入閣し、党国対委員長に閣僚経験のない村井英樹を抜擢するなど実力重視の高市カラーを出したが、番頭役である官房長官の木原稔、財務相の片山さつき、外相の茂木敏充ら重要閣僚は続投させた。

 党幹部についても、政権の後見人で副総裁の麻生太郎と麻生の義弟で幹事長の鈴木俊一をはじめ、政調会長の小林鷹之、幹事長代行の萩生田光一らが留任した。7月に特別国会が閉会した後、高市内閣の支持率は下落傾向が際立っていた。その面から考えれば、支持率を上昇させるため、大幅な改造で刷新感をアピールし、政権浮揚を図るという選択肢もあった。

 だが、高市はそうした手法は取らず、政権発足時からの主要メンバーを維持した。そこには、政権の安定や政策の継続性を重視し、引き続き「国論を二分するような大胆な政策や改革に邁進する」という本人の強い意志が垣間見える。

「高市総理は第2次安倍内閣を意識している」。自民の閣僚経験者はこう推察する。

 民主党から政権を奪還し、再び首相に返り咲いた安倍晋三は閣内では官房長官の菅義偉や財務相兼副総理の麻生、党側では幹事長の二階俊博を長期にわたって起用し続け、官邸主導の強固な態勢を構築した。

 もちろん高市が今回の人事で、来年秋の自民党総裁選をにらみ、後ろ盾で党内唯一の派閥を率いる麻生とのパイプを重視した側面もある。茂木や小林、防衛相の小泉進次郎ら昨年の総裁選で争ったメンバーを閣内にとどめたのも、できれば無投票で再選を果たしたいという思いの表れといえる。

定数削減で再可決も

 その高市が改造後、最初に臨む臨時国会は、消費税減税関連法案と衆院議員定数削減法案の成立が至上命題となる。

 飲食料品の消費税率の1%への引き下げを8月に閣議決定する際には、事前の党内手続きで、財政規律派の議員らが反発し、高市も心を砕いた。党税制調査会で消費税率引き下げに賛成したという議員は「高市総理から『ありがとう。頑張ります』というお礼の連絡をもらった」と打ち明ける。

 臨時国会は、野党の出方が焦点になるが、衆院選直前に立憲民主党と公明党の衆院議員で結成された中道改革連合が約8カ月で分裂を決めたことは高市にとって追い風になりそうだ。定数の3分の2以上の議席を持つ衆院と違い、参院で与党は過半数に届いていない。

 自民党内からは「中道の分裂で、かつて連立も組んでいた公明党が立憲民主党と別に動くようになれば、いろんな法案で協力する余地が出てくる」と期待する声があがる。消費税法案以上にハードルが高いのが、衆院議員の定数の約1割(45議席)を減らす定数削減法案だ。

 日本維新の会の強い要望を受け、連立政権合意に盛り込んだものだが、昨年秋の臨時国会、今年の特別国会、いずれも成立させられずに先送りした。政権にとっては今回が「3度目の正直」となる。

 だが、比例代表削減で影響が直撃する野党は保守系、リベラル系いずれも反対しており、特別国会では審議を拒否して国会が一時空転する事態になった。公明や連立入りが取り沙汰されてきた国民民主党の協力を得られる見込みも立っていない。

 そこで政権内では、参院で法案を否決されたり、60日以内に議決されなかったりした場合、3分の2超の議席を持つ衆院で再可決して成立させる選択肢が浮上している。

 人事から3週間を置かず、10月初旬に臨時国会を召集するのもそのためだ。2法案の審議が野党の反対で紛糾したとしても、時間的な余裕があれば再可決という最終手段を取ることができる。

懸念は金利上昇

 高市が2法案と同時に年末にかけて取り組むのが、来年度予算算案の編成だ。

「令和9(2027)年度予算は、『補正予算依存からの脱却』や、危機管理投資・成長投資のための『「強く豊かな日本」投資枠』といった、高市内閣の目指す『予算編成の抜本見直し』を反映する初めての予算であり、令和9(27)年度を『責任ある積極財政元年』と位置づけています」

 9月4日、高市は自らのX(エックス)にこうつづった。財務省が発表した来年度予算の各省庁からの概算要求総額は過去最大の143兆円に上った。25年度補正予算と26年度当初予算の合計(約140兆円)に匹敵する規模でもある。

 高市がXで説明したように、上限を設けない投資枠の設定や、これまで補正予算で計上していたような経費を盛り込んだことで要求額が膨らんだ面がある。防衛費などは金額を示さない「事項要求」も多く、さらに拡大する可能性がある。

 高市としては、財務省主導の緊縮志向を脱却し、政府が人工知能(AI)や半導体などの戦略分野に積極的に投資することで、民間の資金を呼びこみ、経済成長につなげる狙いだ。補正予算の当初予算への一本化も、財務省がこだわってきた年度ごとで区切る「財政単年度主義」を改め、国による中長期の投資を促進することで、民間の予見可能性を高める目的がある。

 停滞が長期化した日本の成長に向け、攻めの姿勢を見せる高市だが、ここで立ちはだかるのがマーケットだ。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは9月に30年ぶりに3%台に上昇した。

 世界的なインフレで、米国をはじめ先進国はどこも長期金利が上昇傾向にある。デフレの長期化で超低金利が続いてきた日本も日銀が利上げに踏み切り、ようやく、その流れに乗った側面は否めない。ただ、巨額の政府債務を抱える日本の財政への市場の懸念も根強い。

 日本経済新聞をはじめとする大手メディアは高市の積極財政路線や、飲食料品の消費税率引き下げに伴う財政悪化への批判を強めている。政府関係者は「財政不安をあおる報道に総理は苛立っている」と打ち明ける。

 高市は9月1日、長期金利が3%を突破したことについて記者団に問われ、「金利は諸外国の政策の状況も含め、様々な要因を背景に市場において決まるものだ。強い経済と財政の持続可能性の両立をしっかりと実現していく」と強調した。

 財務省は来年度予算の想定金利を3.8%として、国債費は過去最大の36兆円と見込んだ。税収は過去最大を更新しているとはいえ、長期金利が急上昇して国債費が膨張した場合、政府の使える予算の余地が狭まりかねない。

 高市にとって、来年度予算編成は市場との神経戦でもある。

習氏との会談難航

 9月の国連総会出席の訪米を皮切りに、首脳外交も年末に向けて活発化する。

 高市は11月に中国広東省深圳で行われるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議、12月には米国フロリダ州マイアミで開かれるG20(主要20カ国・地域)首脳会議に出席する予定だ。そこで問われるのは悪化が続く中国との関係をいかにマネージしていくかだ。

 高市が昨年11月に国会で、台湾有事は武力行使が可能になる「存立危機事態」になり得ると発言して以降、中国は強硬姿勢を鮮明にした。日本への渡航自粛やレアアース(希土類)の輸出規制強化などを次々と打ち出し、国際場裡でも「新型軍国主義」として、日本の防衛力強化の取り組みなどへの批判を強めている。

 APEC首脳会議では中国国家主席の習近平が議長を務める予定だ。ホストとして高市を迎えることになるが、日本政府内には、正式な首脳会談はおろか、短時間の立ち話すら難しいのではないかとの見方が支配的だ。

 高市にとって頭が痛いのが、同盟国である米国の大統領、トランプが習に接近していることだ。背景には、11月の中間選挙を控え、中国への輸出拡大などの経済的成果をアピールしたい思惑や、軍事衝突が長期化し、収束が見通せないイランに対する中国の働きかけを期待していることがある。

 中国側もトランプの足元を見透かすように、台湾への武器売却の即時凍結を求めるなど、米国への要求をエスカレートさせている。仮にトランプが安易な妥協に走った場合、地域全体の抑止力が弱体化しかねず、日本の安全保障や日米同盟への影響は無視できなくなる。

 トランプ政権が国際刑事裁判所(ICC)所長の赤根智子への制裁措置に踏み切ったことも日米間の懸案として横たわっている。力による現状変更を試みる中国に対し、日本は「法の支配」を重視する外交方針を掲げてきた。

 ICCはその象徴の1つであり、日本の資金拠出額は加盟国でトップの地位にある。だが、トランプは日本と同じく同盟国であるイスラエルの首相、ネタニヤフに逮捕状を出したICCの解体に向けた意欲を隠していない。

 昨年10月の初会談以来、高市はトランプと「サナエ」「ドナルド」と呼び合うなど、個人的な信頼関係の構築に取り組んできた。米中首脳はAPEC首脳会議、そしてトランプが議長を務める12月のG20首脳会議でも顔を合わせる見通しだ。習の言葉に傾きがちなトランプに、高市が事あるごとに日本の立場をインプットしていくことが欠かせない。

 安倍に抜かれるまで連続在職日数で歴代1位だった元首相の佐藤栄作は最初、池田勇人内閣の閣僚を引き継ぎ、「1年目は『他人の内閣』。2年目からが『自分の内閣』だ」と言われた。2月の衆院選大勝の余勢を駆って特別国会を乗り切った高市だが、これからが地力が問われる局面になる。(敬称略)

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