グロービス経営大学院大学は10月7日、日経ビジネスと共同で、在校生・卒業生を対象にAI活用の実態に関する調査を実施したと発表した。
調査結果からは、経営層の約8割がAIを日常的に活用している一方で、AI活用を阻害する最大の要因は「試行錯誤や失敗を許容しない組織文化」であることが明らかになった。また、経営層と一般社員の間では、AI活用を巡る課題認識にも大きな差が見られた。
経営層のAI活用は日常業務の領域へ拡大
調査によると、経営層の23.7%がAIを「業務の中核として活用している」と回答した。また、56.1%が「日常業務の中で頻繁に利用している」と回答。経営層においてAI活用はすでに特別な取り組みではなく、日常業務の一部になりつつあることが分かる。
利用目的では「情報収集・調査」が86.3%と最多で、次いで「文書作成・推敲・文字起こし」は84.2%となった。さらに「意思決定支援」の活用率は経営層で47.5%であり、一般社員の28.7%を大きく上回った。経営層ではAIを経営判断の補助ツールとして活用する動きも広がっている。
AI活用を阻む最大要因は組織文化
今回の調査で特に注目されるのが、AI活用頻度と組織課題との相関分析である。
最も強い負の相関を示したのは、「AIに限らず、新しいものを導入した際の試行錯誤や失敗を許容する文化がない」という項目で、相関係数はマイナス0.29となった。次いで「経営層のAI理解度が低い」がマイナス0.26、「AI活用の目的・意義が不明確」がマイナス0.23となった。
この結果は、AI導入を進めるうえで重要なのがツールの整備だけではないことを示しており、失敗を許容する風土や経営層の理解といった組織的な要因が、AI活用の浸透に大きな影響を与えていることがうかがえる。
経営層と現場でAI活用への認識にギャップ
調査では、経営層と一般社員の認識差も明らかになった。
AI活用推進を妨げる要因について、経営層の34.5%は「組織においてAI活用の推進を鈍らせている要素は思いあたらない」と回答した。一方、一般社員では異なる見方が示された。「業務で使用できるツールに関する制限が厳しい」と回答した割合は37.6%。「経営層のAI理解度が低い」は28.0%。「失敗を許容する文化がない」は26.8%だった。
経営層が課題を認識していない一方で、現場では制度面や文化面に強い課題意識を持っている実態が浮かび上がった。
AIが担う領域は拡大する一方で人間の役割も残る
経営層に対して、今後3〜5年でAIが不可欠な役割を担う業務についてたずねた結果、「バックオフィス業務(総務・経理等)」が88.5%で最多となった。次いで、「マーケティング」(顧客理解・販売促進等)が69.1%、「戦略立案・分析」も69.1%だった。
一方で、人間が不可欠な役割については異なる結果となった。最も多かったのは「営業・販売・接客」の77.0%だった。続いて「ビジョンの発信・共有」が74.1%、「モチベーション・メンタルヘルス管理」が64.7%だった。
AIの活用範囲が広がる一方で、人間には人を動かし、人と向き合い、組織を導く役割が期待されていることが分かる。
AI時代のリーダーに求められるのは人を動かす力
調査では、今後のビジネスリーダーに求められる能力についても聞いた。
経営層が重視する能力のトップは「リーダーシップ」で86.3%。「コミュニケーション能力」は82.7%、「やり抜く力」は79.1%だった。一方、「デジタル・AI活用能力」は48.9%にとどまった。
AI時代だからこそ技術的スキルが最重要になるという見方ではなく、人や組織を巻き込みながら変革を推進する力が重視されていることが分かる。
また、「好奇心」を重要視する割合は経営層で69.8%であり、一般社員の42.0%を大きく上回った。経営層ほど新たな可能性を探究する姿勢を重視している傾向も見て取れる。
今回の調査は、AI活用の課題がテクノロジーそのものから組織運営へと移行していることを示した。経営層の多くはすでにAIを日常業務へ取り入れている。しかし、組織全体への浸透という観点では、失敗を許容する文化や経営層と現場の認識共有といった課題が依然として残る。AI時代の競争力を高めるには、単なるツール導入ではなく、組織文化やリーダーシップを含めた変革が不可欠になりそうだ。




