香川大学と九州大学(九大)の両者は4月2日、アルマ望遠鏡を用いて、おうし座の方向に約450光年と地球から最も近い星形成領域にある分子雲コア「MC27」を観測した結果、原始星およびその円盤の近傍に直径約1000天文単位のリング状ガス雲を発見し、その温度が周囲より10℃以上高いことから、原始星が磁力線の束(=磁束)を吐き出す「くしゃみ」による衝撃波によってガスが暖められた現場を初めて捉えたことが考えられると共同で発表した。

  • アルマ望遠鏡の観測に基づくMC27内部の想像図

    アルマ望遠鏡の観測に基づくMC27内部の想像図。右下にある原始星とそれを取り巻く円盤から、リング状に暖かいガスが広がっている。なお、リング内を貫通する曲線は磁力線をイメージしたもの。(c)Y. Nakamura, K. Tokuda et al.(出所:九大プレスリリースPDF)

同成果は、香川大 教育学部の徳田一起講師、九大大学院 理学研究院の町田正博教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する天体物理学を扱う学術誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

星間空間には、水素分子を主成分とするガスや、重元素からなるダスト(塵)が漂っている。これらが重力によって高密度に集まった領域が分子雲であり、その中でも特に密度が高く、星の卵となる場所が「分子雲コア」だ。

星が誕生する前後の数千から数万年は、重力によって周囲のガスが原始星へと激しく落下するようになる。同時に、分子雲コアを貫く磁力線の束である「磁束」に貫かれており、ガスと共に原始星に磁力線の束である「磁束」も原始星へと持ち込まれる。このガスの運動と磁束の複雑な相互作用が、原始星の誕生プロセスの解明を阻む大きな要因になっているとする。

さらに、この時期のガスは絶対温度10K(約-263℃)前後と極めて低温で、分厚い層に覆われているため、原始星の至近距離で起こる現象を正確に捉えるのは困難だった。そこで研究チームは今回、アルマ望遠鏡のコンパクトアレイと高周波受信機「Band9」を活用し、原始星の潜むおうし座の冷たい高密度分子雲コア「MC27」を、特定の条件下で強く放射される「一酸化炭素の高励起線」で詳細に観測したという。

一酸化炭素の高励起線とは、同分子が激しく回転する状態から放射される波長0.4mmのサブミリ波だ。電波天文学で観測用に多用される波長1.3mmや2.6mmの一酸化炭素低励起線に比べ、より温かいガスやより高密度な領域を選択的に検出できる特性を持つ。

観測の結果、従来は厚い層に遮られていた分子雲コアの中心部が明瞭に描き出された。そして原始星の周囲には、直径約1000天文単位に及ぶ巨大なリング状ガス雲の構造が浮かび上がったとした。太陽系では最も遠い惑星である海王星が約30天文単位であり、その巨大さがどれほどかがわかる。このガス雲の電波強度を解析したところ、周囲の冷たいガスに比べて温度が10℃以上高いことも判明した。

  • MC27の一酸化炭素高励起線を分布と、アルマ望遠鏡とNASAのスピッツァー赤外線宇宙望遠鏡の観測データを重ねた合成画像

    (a)アルマ望遠鏡が捉えたMC27の一酸化炭素高励起線を分布。十字が原始星の位置を示す。(b)アルマ望遠鏡とNASAのスピッツァー赤外線宇宙望遠鏡の観測データを重ねた合成画像。オレンジ色がアルマ望遠鏡で観測した一酸化炭素の高励起線の分布。青および緑色は原始星からの双極分子流で形成されたと思われる特徴を示す。(c)徳田一起(香川大学)/ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/NASA/JPL-Caltech(出所:九大プレスリリースPDF)

このようなリング状構造の形成には、ガスが押し広げられるエネルギー源が必要となる。しかし、リング中心部には既知の原始星以外に天体は見当たらず、原始星から噴き出す「双極分子流」といった既知の現象では説明が困難なことが明らかにされた。実際、この天体の赤外線観測で得られていた双極分子流の特徴とも一致しなかったため、未知のメカニズムの存在が示唆された。

そこで研究チームが着目したのが、原始星近傍の磁束が急激に外側に向かって再配置される「交換型不安定性」だ。これは、磁場強度とガス密度の比が重力の方向に対して急変する際に発生する磁気流体不安定の一種である。原始星円盤の縁で磁力が強まると、浮力に似た仕組みで磁束が円盤外部へ放出される。この“くしゃみ”のような現象がガスを外側へ押し出し、リング状ガス雲を形成したと考えられるとした。

理論モデルでは、原始星から数百天文単位の領域で強固な磁場が形成される可能性が指摘されている。このような領域では、放出されたガスが音速を超えて衝撃波を発生させる。その結果、加熱源となる星が直接存在せずとも、ガスが10℃以上温められる可能性があるとした。

従来のミリ波観測は冷たい外層に吸収されやすく、複数の電波望遠鏡を用いる干渉計観測は、薄く広がった分布を苦手としていた。今回の成果は、サブミリ波の一酸化炭素の高励起線が、「温かい・動的なガス」を分子雲コア中心付近で高温なガスを捉える極めて有効な手段であることを実証した形だ。

交換型不安定性によって形作られたとされる間接的な証拠は、同じ天体の過去の研究でも得られていたという。しかし、リング形状と温度上昇を同時に捉えたのは、今回が世界初となるとする。今後、より高分解能の観測や他の天体との比較を通じ、原始星の成長と原始星円盤形成の謎にせまることが期待されるとしている。