シャープは、スマートビジネスソリューション(SBS)事業に注力している。オフィス、パブリック、リテール、ロジスティクスの4つの事業ドメインに対して、ハードウェアとAI・DX(デジタルトランスフォーメーション)サービス、独自技術を組み合わせた提案を強化する方針を打ち出している。
一方で、国内外におけるITサービス企業の買収を積極化するなど「テクノロジーサービスプロバイダー」への転換を加速する考えを示している。また、2026年3月23日に完全子会社化したSaaS(Software as a Service)型ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)プラットフォームを展開するシナプスイノベーションによる国内展開などについても言及した。
シャープが掲げる「スマートビジネス」構想
シャープでは、デジタル複合機やディスプレイ、POSシステムなどの「既存商材」に、エッジAIや通信、画像解析などの同社が持つ「独自技術」を活用することで、スマートプロダクト化するとともに、そこに「AI・DXサービス」を組み合わせて、商品とサービスをハイブリッド型で提供するビジネスを「スマートビジネス」と定義。SBS事業本部のビジョンには「スマートビジネスで働く現場を強化する」を掲げている。
シャープ スマートビジネスソリューション事業本部長の徳山満氏は「SBS事業は、ハードウェアにAI・DXサービスを組み合わせ、そこに技術を掛け合わせることで、コンサルティングからシステム設計、機器調達、設置、運用、保守メンテナンスまでをワンストップ型サービスとして提供することができるのが特徴。また、SBSにはグローバルで実装力を持つ点に強みがある。お客さまが本業に集中できる職場を作るため、人とテクノロジーをつなぎ、信頼できる独自ソリューションを提供することで、テクノロジーサービスパートナーを目指す」と、SBS事業の基本方針を示した。
また、同氏は「シナプスイノベーションの完全子会社化により、データ統合、オープンAPI、ID管理も、シャープのエコシステムとして提供できる。シャープ独自ソリューションを提供することができ、これがスマートビジネスの成長に向けた強力な一手になる」との認識だ。
同社では、サービス関連(AI・DXサービス)の売上目標として、2027年度に約600億円を計画。2024年度実績の310億円から約2倍に引き上げることになる。なお、徳山氏は4月1日付で、シャープのCTO(Chief Technology Officer)に就任する予定だが、同氏は「SBS事業本部長の職からは離れるが、シナプスイノベーションの代表取締役会長に就任する。また、これまでのCTOの役割は、研究開発が中心であったが、経営に携わり、事業を創出する役割も担う。今回発表した事業方針の内容については自らも実行する立場として関わる。CTOの立場からも関与する」と語った。
中期経営計画でBtoB強化
シャープは2025年度からスタートした中期経営計画において、ブランド事業に集中する方針を打ち出すとともに「暮らす」(BtoC)と「働く」(BtoB)の2つの領域を、ブランド事業の成長戦略の柱に位置づけている。そのなかで、働く領域はスマートワークプレイスビジネスグループが担当し、2024年度実績で売上高は8362億円と、全社売上高の39%を占める。
同グループの半分以上の売上を占め、シャープのBtoB事業の中核としての役割を担うのがSBS事業本部だ。
デジタル複合機による「スマートワークソリューション事業部」、POSやハンディターミナルをはじめとしたシステム機器、スマートオフィス製品や国内外のITサービスを連動させた事業を担当する「ワークプレイスイノベーション事業部」、業務用ディスプレイやデジタルシネマを展開する「デジタルイメージングソリューション事業部/シャープディスプレイソリューションズ」の3つの事業部体制で構成する。
ディスプレイ事業については、2025年11月にNECとのJVを解消して、シャープ100%子会社化としていたシャープディスプレイソリューションズを、2026年4月1日付でシャープに統合する。
さらに、今後の成長領域と位置づけるロボティクス事業統轄部、SaaS事業統轄部の2つの組織を設置し、前者では物流、倉庫などの自動化ソリューションなどを提供。後者ではシャープの子会社として事業展開していたAIoTクラウドが独自に開発したアルコールチェック管理サービスの「スリーゼロ」、設備点検DXサービスの「WIZIoT(ウィジオ)」などを展開。AIoTクラウドは、2025年7月にシャープに統合している。
徳山氏は「次の3年はAIとデータの時代が訪れ、省力化と省人化がキーワードになる。AIでハードウェアの革新と、現場に近いAI・DXサービスを提供する。特に既存事業とのシナジーを生み出すITサービス事業のM&Aへの取り組みに力を入れてきた。ローカル企業に対するM&Aを通じて、ITサービスを強化するとともに、現地できめ細かくサポートできるITパートナーを目指すほか、ERPをはじめとしたトータルソリューションへと領域を拡大する」と述べた。
ITサービス企業のM&Aを加速
シャープではITサービスの強化に向けて、海外では積極的なM&Aを展開。その動きを加速させているところだ。特に欧州での動きが先行している。英国では、2019年7月に、ITコンサルティングおよびセキュリティのComplete IT Serviceを買収し、2022年11月にSHARP IT Service UKに社名を変更。
2026年4月には販売会社であるSHARP Business Systems UKに統合して、One SHARPとして一本化する。スイスでは、2021年3月に、マネージドITサービスおよび基盤サービスを提供するITpoint Systemsを買収し、2026年4月にSHARP DX Schweizに社名を変更した。2024年12月に買収した仏Apsiaは、業務およびアプリケーション支援を提供する企業であり、2026年1月に、SHARP DX Franceに社名を変更している。
徳山氏は「複写機やディスプレイの既存ビジネスは縮小傾向にあるが、既存顧客へのITノウハウの提供、連携機器などの付加価値の提案に加えて、複写機のビジネスモデル体系を踏襲しながら、ITサービスの提供を立ち上げることで、売上拡大を目指すことになる。欧州での3社の買収によって、ITサービスをフルカバーできる体制となり、独自の包括的ソリューションを提供できるようになった」とのことだ。欧州において買収した企業の年平均売上成長率は29%という高い伸びを見せている。
一方、アジア・大洋州では、2026年3月2日にニュージーランドのSecurecomを買収。今後、マネージドITサービスや、セキュリティサービスを強化するという。Securecomは、国内で250社のITSサービス顧客を持ち、第三者機関からも優良企業として認定。
シャープはニュージーランド国内で販売する複合機の95%を直販としており、クロスセルのシナジーが出しやすいと見ている。徳山氏は「ニュージーランドのITサービス市場は、高い成長が予測されており、顧客データや業務ノウハウを連携させ、直販による顧客の囲い込みを通じて、持続的な成長を目指す」とした。
シナプスイノベーションを完全子会社化
そして、日本では、3月23日にシナプスイノベーションの全株式を取得し、完全子会社化し、AI・DXサービスを強化することになる。同社は1984年に設立したシステムインテグレータで、大阪・堂島に本社を置く。
二次請け業者としてスタートしたが、2007年に元請け企業へとシフトし、2017年には製造業向け生産管理パッケージ「J WALD」を自社開発。2020年からは、Salesforceを基盤としたクラウドサービスの開発に着手し、現在の主力となる製造業向けDXプラットフォーム「UM SaaS Cloud」による事業展開をスタートした。
同クラウドサービスは「UM工程進捗」「UM販売購買」「UM生産計画AI」「UMガント」「UM原価」「UM EDI」で構成しており、製造業の生産管理や販売購買管理、在庫管理、工程負荷計画などをカバーしている。
シナプスイノベーション 代表取締役社長の藤本繁夫氏は「Salesforceの基盤を活用することで、強固なセキュリティ、柔軟なカスタマイズに加えて、常に最新環境での利用ができる。また、AIエージェントの活用も可能。年商10億円から1兆円規模の企業まで幅広く利用されており、300社以上のユーザーがある。また、100社以上のパートナーを通じて販売している。米国、ベトナム、タイ、中国での導入実績も持つ。UM SaaS Cloudのコンセプトは、コンポーザブルERPである。他社にはないグローバルで利用できる生産管理機能は自社開発し、APIを通じて、さまざまな会計パッケージとの接続が可能となっている。AIに関しても、MCP(Model Context Protocol)による接続を通じて、タイムリーにサービスを提供する」と述べている。
シナプスイノベーションでは、シャープ傘下となったことで、グローバル展開を加速し、藤本氏は「シャープグループへの導入や、シャープが持つリテール分野の導入実績を生かした提案、量子アニーリング技術およびロボティクス技術との連携などにより、新たな領域への展開を図りたい」とした。
具体的な事例として、スマートオフィス領域では、業務データと入出力機器を連携させて、バックオフィスのDXを推進。
また、スマートパブリック領域およびスマートリテール領域では、販売管理システムと決済端末を連動した提案を進め、調達から販売までの情報管理の一元化によって、サプライチェーン全体を管理することができるという。さらに、スマートファクトリー領域およびロジスティクス領域では、工程管理と自動化機器を連携させることで省人化を図るだけでなく、量子アニーリングやAI技術を統合することで、自律判断や自動動作するフィジカルAIの実現につなげることができるとした。
なお、シナプスイノベーションは、Salesforceを基盤としたクラウドサービスを開発・提供しているが、シャープのITサービスの取り組みが、今後はSalesforceを軸に展開するわけではないという。
また、海外の買収企業も地域のニーズにあわせたものとなっており、Salesforceに限定していない。だが、国内においては、シナプスイノベーションとの連携が前提となるため、当面、Salesforceを基盤としてITサービスビジネスを推進することになるのは明らかだ。
徳山氏は「シャープは、ハードウェアと親和性が高いソフトウェアやアプリケーションを求めており、なかでもコアとなる統合基幹業務システムを持ちたかった。シナプスイノベーションのERPにより、欠けていたデータ統合や機器連携が実現でき、ハードウェアの価値を提供しやすくなる。お客様の業務フローすべてに、ワンストップでアプローチすることができるようになる。また、シナプスイノベーションにとっても、連携できるハードウェアが増え、シャープのグローバルな販売、保守体制を活用できる。現場、計画、経営がリアルタイムにつながり、顧客課題と社会課題の解決にもつなげる。これが、シャープのSBS事業にとって、半歩先に挑戦につながる」と意気込みを語っていた。







