早稲田大学(早大)は3月19日、「マルチモード干渉」を応用した独自構造により、光をほぼ減衰させない低損失動作と高感度化を両立した「シリコンフォトニクス光集積回路」用の「超小型光回路モニタ」を開発し、従来の「シリコンPIN型検出器」と比べて光電流の取り出し効率(感度)を約340倍に高めることに成功したと発表した。
同成果は、早大 理工学術院の北智洋教授と同・辻下汐陽大学院生(研究当時)の研究チームによるもの。詳細は、IEEEとOptica(旧・米国光学会)が共同刊行する光通信とフォトニクスを扱う学術誌「IEEE Journal of Lightwave Technology」に掲載された。
AIデータセンターやLiDERに革新を与える可能性
AIデータセンターの膨大なデータ処理において、大量の情報を高速かつ低消費電力で伝送するために光通信が導入されている。また、自動運転やロボットなどで周囲の環境把握に用いられるLiDARでも、小型かつ高精度な光制御技術が重要視されている。このような通信とセンシングを支える基盤技術が、シリコンを用いて光の通り道や光の制御機能を半導体チップ上に集積する「シリコンフォトニクス」による光集積回路だ。
光集積回路では、「リング共振器」や「干渉回路」などの微小構造を用いて光の制御を行う。これらの回路は、温度変化や製造によるばらつきの影響を受けやすく、そのままでは通信性能の低下や動作の不安定化を招く恐れがある。そのため、光の強度や共振状態を精密に監視しながら制御する必要があり、しかも回路の大規模化が進むほど、こうした監視技術の重要性はより一層高まる。
従来の回路内の光強度測定に用いられる「光検出器」のうち、大きな光電流を得られる「ゲルマニウムPIN型検出器」は、光を吸収して電流を得る仕組み故に回路内の光を減衰させてしまうことが課題だった。そのため、モニタ用の検出器の数が増えると、損失が無視できなくなってしまう。さらに、検出感度を確保するために増幅回路を必要とする場合が多く、消費電力や実装面積が増加してしまうことも大きな障壁となっていた。
こうした理由から、光をほぼ弱めず、小型、高感度、低消費電力を実現する新たな回路内光モニタ技術が求められていた。そこで研究チームは今回、シリコン導波路内で生じるマルチモード干渉に着目したという。
マルチモード干渉とは、幅の広い導波路内で複数の光の進み方(モード)が重なり合うことで、光の強さの分布が変化する現象のことを指す。この性質を利用することで、光の分配や合波が可能となる。導波路をシリコン製にすると、シリコンは通信で用いられる赤外光に対するバンド間吸収がほぼないという特徴を持つため、低損失が実現する仕組みだ。
また、導波路表面の界面準位ではわずかな光吸収が生じるが、この吸収を強めることで感度を上げることができる。しかし、それは同時に損失の増加を招くトレードオフとなっていることが課題だ。そこで今回の研究では、干渉により導波路中央に光電場が集中する位置に電極が配置された。これにより、光の伝搬をほとんど乱さずに電極間距離の短縮が達成されたとした。
光によって発生した電荷が回路内で繰り返し電流として流れることで、光による電流信号が大きく増幅される現象を「フォトコンダクティブゲイン」という。これにより、微弱な光でも高感度で検出することが可能になる。この現象はキャリア寿命と走行時間の比で決まり、電極間距離が短いほど増加する特性を持つ。今回は、この原理を構造に利用することで、低損失性を維持したまま光電流を大きく増幅することに成功したという。
開発されたインライン光モニタの長さは4.7μmで、挿入損失は、通常のシリコン導波路に電極構造を取り付けた構造(計算値)の約75分の1となる約0.03デシベルだった。さらに、光通信やセンシングに用いられる広い波長範囲でも低損失動作が確認されたとする。同時に、フォトコンダクティブゲインにより光電流を増幅し、従来のシリコンPIN型検出器と比べて最大約340倍の検出感度を達成。光吸収を増やすのではなく、生成された電荷を増幅することで高感度化が実現されたとした。
さらに、このモニタをリング共振器に実際に組み込み、光電流スペクトルの測定が行われた。共振ピークに対応した明確な光電流の変化を観測し、回路内部の光強度や共振状態を高精度に把握できることが示された。加えて、多数を配置しても回路性能への影響は極めて小さいことも確認されたという。
このように、今回開発されたモニタは低損失で多数配置が可能なため、次世代のデータセンター間光通信や、光通信モジュールと電子回路(スイッチICなど)を同一パッケージ内に集積する「Co-Packaged Optics」技術の発展に寄与するとした。
また、今回の技術はLiDAR用光集積回路にも応用可能だ。リング共振器や光フェーズドアレイなどの精密制御が求められるセンシング分野では、回路内部の光強度や共振状態を高精度に把握することが重要だ。今回のモニタは、回路性能をほぼ損なうことなく組み込めるため、センシング精度の向上と小型化に貢献するという。さらに、シリコンのみの構造であるため、既存のシリコンフォトニクス製造プロセスとの高い互換性を持つ。量産性とコスト面でも優位性があるとしている。
研究チームは今後、今回のモニタを多数集積した大規模シリコンフォトニクス光集積回路の制御技術の確立を目指すとする。特に、データセンター間光通信向けの「多波長光トランシーバ」への応用を進めるとした。回路内部の光強度や共振状態をリアルタイムに監視し、自律的に最適化する技術の実現を目指すとしている。
さらに、今回のモニタをテラヘルツ波コヒーレント通信に用いる光変調器へ組み込み、超高速光源および変調器の高精度制御への応用も進めるという。テラヘルツ波通信では光源の安定性と変調精度が重要であり、今回の技術はその基盤となる光回路内モニタリング技術としての発展が期待されるとしている。




