東北大学は3月6日、電子が三次元的に閉じ込められた、サイズが約数十nmの半導体「量子ドット」の測定から得られる「電荷状態安定図」をAIモデルの一種「U-Net」に学習させることで、図上に現れる「電荷遷移線」の自動抽出を実証したと発表した。

同成果は、東北大大学院 工学研究科の武藤由依大学院生(東北大 電気通信研究所 配属)、東北大大学院 情報科学研究科のMichael R. Zielewski特任助教(現・東北大 未踏スケールデータアナリティクスセンター所属)、同・大学 材料科学高等研究所の篠﨑基矢特任助教、同・大塚朋廣准教授(電気通信研究所兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のオンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

大規模量子コンピュータの調整自動化に期待

量子コンピュータの基盤となる量子ビットを実現する方式には、超伝導、イオントラップ、光など多様なアプローチが存在する。現状、実用化の面では超伝導方式が専攻しているが、将来的に実用レベルの大規模な量子コンピュータを実現するには、膨大な数の量子ビットを集積する必要があり、その拡張性が重要な課題となっている。その点、半導体量子ドット内に電気的に閉じ込められた電子のスピンを量子ビットとして活用する「半導体スピン量子ドット」は、既存の半導体技術との親和性が高く、高密度な集積化に適していることから大きな注目を集めている。

半導体量子ドットは、ゲート電極に印可する電圧を精密に制御し、微細領域に電子を1つだけ閉じ込めることで作製される。量子コンピュータの大規模化には個の量子ドットを多数並べる必要があるが、隣接する量子ドット間には相互作用による影響が生じるため、ここのドットを独立して調整する作業は極めて複雑になる。この課題を解決する手法の1つが、各量子ドット間の相互作用を排除して独立して制御できるようにする「仮想ゲート」という概念だ。

しかし、量子ドットの数が増大するにつれ、仮想ゲートの定義や単一電子状態の調整に要する時間は膨大になり、手動による対応は現実的ではなくなってくる。大規模化を見据えた実用化には、これらのプロセスを効率的に自動化する技術が不可欠となる。そこで研究チームは今回、量子ドットを独立して制御するための仮想ゲートを自動で定義すると同時に、機械学習を用いて量子ドットに電子を1つだけ閉じ込める最適条件を自動検出する手法を開発したという。

具体的な手法としては、まず量子ドットのゲート電極電圧を変化させた際の電荷状態を表す「電荷状態安定図」を取得するところから始める。各量子ドット内の電子数に応じてセンサ信号が変化するため、この図を解析すれば、電圧操作に伴う電子数の変化を詳細に把握することが可能だ。

この安定図には、電子数が変化する境界として「電荷遷移線」と呼ばれる模様が描かれる。そして、画像内の特定領域を抽出することに長けたAIモデル「U-Net」が活用された。実験で得られた複数の安定図を学習させることで、ノイズを含む複雑なデータからでも電荷遷移線のみを自動で抽出することに成功したとする。

  • 今回の自動調整手法の全体のフロー

    今回の自動調整手法の全体のフロー。測定で得た電荷状態安定図をAI「U-Net」に入力して電荷遷移線を自動抽出し、ハフ変換による直線検出とクラスタリングを経て、最終的に単一電子領域の特定と仮想ゲート軸への変換までを自動化する。(出所:東北大プレスリリースPDF)

抽出された遷移線のデータは、次に「ハフ変換」と呼ばれる画像処理技術を用いて解析し、線の正確な位置や角度が算出される。この情報を基に、仮想ゲートを自動で定義される仕組みだ。仮想ゲートは、複数のゲート電極の電圧を適切に組み合わせて、特定の量子ドットだけをピンポイントで操作できるように設定されるとした。

さらに、2種類の遷移線が交差する領域のうち、最も左下の領域を「単一電子領域」として特定する手法が構築された。ここを検出することで、ドット内に電子を1つだけ閉じ込めるための正確な電圧条件が導き出される。線が複数検出される複雑なケースにおいても、AI手法の1つである「クラスタリング」を適用して情報を整理し、高精度な領域決定が実現された。

一連のプロセスにより、最終的には、単一電子領域を仮想ゲート軸上の座標として表示することが実現された。これにより、周囲の条件が変化しても、電子1つの状態を維持したまま新たな量子ドットを追加・制御できる基盤を自動で構築することが可能となる。この手法を反復的に適用すれば、量子ドットを効率的に拡張し、大規模な量子システムを実現できる道が開けるとした。

今回は基本単位となる2つの量子ドットを用いた実証が行われたが、この手法はより多層的な量子ドット系にも応用が可能だという。研究チームは今後、大規模な半導体量子コンピュータの実用化に向け、さらに多数のスピン量子ビットを拘束勝つ自動で調整できるように発展させていく予定としている。