東京理科大学(理科大)、北海道大学(北大)、岡山理科大学、東北大学、名古屋大学(名大)の5者は3月3日、小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に帰還させた小惑星リュウグウの試料に対し、独自に開発した高感度SQUID磁力計を用いた精密測定を実施した結果、リュウグウ母天体が太陽系誕生から約300万~700万年という極めて初期に経験した水質変成時の外部磁場環境を記録している可能性が高いことが示唆されたと共同で発表した。

  • リュウグウ試料の磁気記録データとそれに基づく磁気記録の性質

    リュウグウ試料の磁気記録データ(左)と、それに基づく磁気記録の性質(右)。今回の研究では約30個という多数の試料を測定することで、統計的な信頼性の高いデータを得ることに成功した。(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、理科大 理学部第一部 物理学科の佐藤雅彦准教授、北大 低温科学研究所の木村勇気教授、東北大大学院 理学研究科の畠山唯達教授、名大大学院 環境学研究科の中村智樹教授、同・渡邊誠一郎教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国地球物理学連合が刊行する惑星科学を扱う学術誌「Journal of Geophysical Research:Planets」に掲載された。

約46億年という太陽系の壮大な歴史において、その形成と進化のプロセスを解明することは、現代天文学の最重要課題の1つといえる。太陽系がどのように形成され、成長・進化してきたのかを探るには、原始太陽の周囲を巡っていた惑星の材料となった「原始太陽系円盤」を構成する物質が、どのような物理化学的環境下で誕生し、変質を遂げてきたのかを特定することが不可欠だ。

原始太陽系円盤における磁場は、微弱に電離した原始太陽系星雲ガスの運動によって生成・維持され、星雲内の物質はこの磁場との相互作用を通じて成長・進化してきたと考えられている。そのため、コンドライト隕石などに代表される始原的物質が保持する原始太陽系星雲の磁気情報は、当時の環境を復元するための極めて重要なタイムカプセルとなる。

リュウグウは、太陽系形成初期の情報を色濃く残す始原的な炭素質小惑星として注目されてきた。しかし、回収された試料は極めて微小で磁化も弱いため、その高精度な磁気測定には高度な技術的障壁が存在していた。

これまでのリュウグウ試料に関する磁気分析は、ミリメートルサイズの比較的大きな試料を中心に実施されてきた。だが、解析された試料数は合計10個に満たないため、研究チームごとに結果が異なるという課題があった。つまり、リュウグウ試料が記録する磁気情報の解釈について、科学的な合意形成が成されていない状況にあったとする。そこで研究チームは今回、微小な磁化を捉えることが可能な高感度SQUID磁力計を独自に開発し、サブミリメートルサイズの試料約30個を対象とした磁気測定を実施したという。

今回調査された約30個の試料は、従来の磁気研究における総数を大幅に上回る規模であり、リュウグウ試料の磁気特性を系統的に評価することが初めて実現した。測定の結果、過去の複数の研究成果と調和的かつ統合的な比較・検討を行うための十分な磁気データが得られたとする。これらの試料には、太陽系形成後約300万~700万年という早期に母天体で生じた水質変成期の外部磁場環境が記録されている可能性が高いことが突き止められた。

今回の成果は、初期太陽系の磁場環境に新たな制約を与えるだけでなく、わずかな量のリターンサンプルであっても、磁気分析が太陽系進化史を紐解く強力なツールと成り得ることが実証された。

研究チームは今後、リュウグウ試料の磁場情報に関する詳細な解析を進めることで、太陽系形成期における磁場環境の描像をさらに深めていく構えだ。また、今回確立された微小試料に対する高感度な磁気測定手法を、他の天体からのリターンサンプルや隕石試料に応用することで、太陽系形成初期の磁場環境が時間的・空間的にどう変遷したのかを動的に復元できることが期待されるとした。さらに今回の成果は、将来の惑星探査やサンプルリターン計画において、磁気情報を科学的な基本指標として活用するための、強固な技術的基盤を提供するものとしている。