中国は2月11日(北京時間)、新型宇宙船「夢舟」の緊急脱出システムの試験に成功した。同時に試験用「長征十号」ロケットの再使用を見据えた、回収船による捕獲試験を行い、所定の海域に着水した。夢舟と長征十号は、中国が2030年の有人月探査を見据えて開発する宇宙船とロケットだ。今回の試験で、有人月探査の実現にまた一歩近づいた。
新型宇宙船「夢舟」の緊急脱出システムの試験
夢舟は中国が開発中の新型有人宇宙船だ。全長約9m、直径約4.5m、質量約22tで、従来の「神舟」宇宙船より大型化している。構成は、宇宙飛行士が搭乗するクルー・モジュールと、推進や電力供給などを担うサービス・モジュールの2つからなり、最大6人が搭乗できる。クルー・モジュールは複数回の再使用が可能な設計になっている。
夢舟は、主に宇宙ステーションへの往還に用いることが想定されている。これとは別に「夢舟Y」と呼ばれる月探査向けのバージョンがあり、中国が2030年までに計画している有人月探査での運用が想定されている。
夢舟は、2016年に縮小モデルの飛行試験を皮切りに、2020年にはフルスケールのクルー・モジュールによる再突入試験、2025年には発射台上での緊急脱出試験を行い、開発が進められてきた。
夢舟はこれまで、縮小モデルの飛行試験や、再突入を想定した試験、そして2025年には発射台上での脱出試験を行うなど、段階的に開発を重ねてきた。
今回の試験は、ロケットが上昇中に空力荷重が最大となる「マックスQ」において、夢舟が確実に緊急脱出できるかを確認する目的で行われた。
有人宇宙船にとって脱出システムは最後の命綱であり、ロケットの打ち上げ前から飛行中、分離に至るまで、飛行のあらゆる段階で正常に作動することが求められる。マックスQはその中でも空力環境が最も厳しい条件にあたるため、ここで実証することは、飛行のあらゆる段階における脱出能力の信頼性を裏付けるうえで重要となる。
日本時間2月11日12時00分(北京時間同日11時00分)、海南島の文昌宇宙発射場から試験用ロケットで打ち上げられた夢舟は、打ち上げから約65秒後、マックスQに達した段階で緊急脱出を実施した。宇宙船の先端に装着された脱出タワーの固体モーターが点火し、クルー・モジュールをロケットから引き離し、その後は姿勢制御によって安全な降下姿勢へ移行した。
その後、クルー・モジュールは所定の高度で脱出タワーを分離し、パラシュートを展開して海南島沖に着水した。13時20分には回収船による回収が完了した。
長征十号の回収試験も実施
今回の脱出試験で用いられたロケットは、中国運載火箭技術研究院(CALT)が開発中の新型ロケット「長征十号」の第1段をベースにした、第1段のみで飛行する単段構成の試験機だ。
長征十号は有人月探査を目的とした新型の大型ロケットで、地球低軌道に最大70t、月へ向けては最大27tの打ち上げ能力をもつ。
第1段(および月探査向け構成で用いるブースター)には、液体酸素とケロシンを推進薬とする新型エンジン「YF-100K」を複数基束ねて搭載し、大推力を確保する設計としている。
また、低軌道打ち上げ用の「長征十号甲」と呼ばれるバージョンもあり、第1段機体は回収と再使用を可能としている。回収方法は、降下してきた第1段を、回収船に展開したテザー(ロープやケーブル)を用いて受け止めるというユニークなもので、これによりロケット側に着陸脚を設けずに済むほか、回収側で衝撃を吸収でき、着地点の精度に一定の余裕を持たせられる利点がある。
今回の試験では、夢舟が脱出した後も第1段ロケットは上昇を続け、打ち上げから約151秒後に高度約105kmへ達した。その後、第1段は4枚の空力グリッド・フィンを展開し、姿勢制御用スラスターと、減速のためのメインエンジン噴射を組み合わせつつ、海南島沖の約360kmに展開していた回収船「領航者」の周辺へ向けて降下した。
最終的に、ロケットは領航者の近くでホバリングし、海上に着水した。海上着水が試験計画に含まれていたのか、回収船によるキャッチを予定していたものの中止して海上着水に切り替えたのかは不明だ。なお、映像では4枚あるグリッド・フィンのうち1枚が展開していない様子が確認されており、何らかの問題が発生していた可能性が高い。
中国では国営・民間を問わず再使用型ロケットの開発が加速している。2025年12月には藍箭航天空間科技(ランドスペース)の「朱雀三号」で第1段回収が試みられ、同月には国営の上海航天技術研究院(SAST)も「長征十二号甲」で回収を試みたが、いずれも成功には至らなかった。
今回の長征十号の試験では、第1段を制御して海上へ導き、着水まで到達している。この点から、中国における衛星打ち上げ用ロケットの第1段回収の試みとしては、これまでで最も成功に近い例となっている。
夢舟の脱出試験は、マックスQという最も厳しい条件でも、安全に脱出して、宇宙飛行士の命を救うことができる能力を示した。長征十号の第1段も、降下制御と回収に必要な技術を実機で確かめ、回収と再使用化に向けたデータを得た。
「二兎追う者は一兎をも得ず」と言うが、今回は安全と再使用という二兎を追い、二兎を得たと言ってよい。次に問われるのは、再現性を確保した運用ができるかだ。夢舟では常に安全性を保てるか、長征十号では回収、整備、再使用のサイクルを回せるかが焦点となる。その積み重ねが続けば、2030年の有人月探査という目標も現実味を帯びてくるだろう。
参考文献




