立教大学は2月17日、42個の金原子からなる異方的な形状を持つ金クラスター超原子である「金量子ニードル」を増感剤として用いることで、エネルギーの低い近赤外光を高輝度な可視光(黄色・橙色)へと変換する「三重項-三重項消滅に基づくフォトンアップコンバージョン」において、世界最高記録となる高効率と太陽光レベルの微弱光でも駆動する低閾強度の両立を実現したと発表した。

  • 今回の研究成果のイメージ

    今回の研究成果のイメージ。金量子ニードルが増感剤として機能し、近赤外光を可視光へと高効率に変換する様子を示している。(出所:立教大Webサイト)

同成果は、立教大 理学部の三井正明教授、東京大学大学院 理学系研究科の高野慎二郎助教、同・佃達哉教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、独国化学会の刊行する機関学術誌の国際版「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。

太陽光は地球上における最大の再生可能エネルギー源だが、太陽電池などの現行用技術の多くは可視光の利用に偏っている点が課題だ。太陽光には可視光以外の波長も含まれており、特に可視光の長波長(赤)側に隣接する「近赤外光」(波長約780~約2500nm)は大きなエネルギー比率を占めている。しかし、この波長域は利用が困難であることから、人類はその多くを活用できていないのが現状だ。

特に波長800nmを超える領域は、次世代太陽電池として期待されるペロブスカイト太陽電池などであっても利用が難しく、変換効率向上の大きな障壁となっている。より広範囲の波長で発電を行うことが効率向上の鍵となるため、地球に届く太陽光を余さず利用可能にすることは極めて重要だ。そこで研究チームは今回、金原子3個が正三角形状に積み重なった「針状」の特異なコア構造を持つ超原子“金量子ニードル”に着目し、その活用を試みたという。

超原子は「スーパーアトム」とも呼ばれ、数十個の原子が精密に組み合わさることで、あたかも1つの大きな原子であるかのように振る舞う物質を指す。特定の原子数や形状(今回の場合は「量子ニードル」状の異方的な構造)を持つことで、原子1個ともバルク(固体・液体)状態ともまったく異なる、特異な光吸収特性や化学的性質を示すことが知られている。

今回活用された金量子ニードルは、以下の3つの大きな特徴を有し、それを理想的な形で兼ね備えているという。

  1. 波長810nm付近に極めて強い吸収帯(モル吸光係数~105M-1cm-1)を有する「圧倒的な近赤外光吸収能力」
  2. 波長変換後の可視光(黄色・橙色)を再吸収してロスしない「可視域の高い透明性」
  3. 光吸収によって獲得した励起エネルギーを発光体「ルブレン」へとスムーズに受け渡す「高効率な励起エネルギー伝達」
  • 金クラスター超原子「Au42(PET)32」の幾何構造と紫外-可視吸収スペクトル

    金クラスター超原子「Au42(PET)32」の幾何構造と紫外-可視吸収スペクトル。ルブレンの発光波長域において吸収が極めて弱く、「透過窓」として機能することがわかる。(出所:立教大Webサイト)

これらの特性により、808nm励起で21.4%、さらに長波長の936nm励起でも15.0%という、従来の報告値を圧倒する三重項-三重項消滅に基づくフォトンアップコンバージョンの変換効率(理論上限50%)が達成された。三重項-三重項消滅とは、エネルギーを蓄えた2つの三重項状態の分子が衝突し、1つの高いエネルギー状態の分子を生むプロセスを指す。またフォトンアップコンバージョンとは、低エネルギー(長波長)の光を高エネルギー(短波長)の光に変換する技術のことだ。

  • Au42(PET)32/ルブレン系における近赤外-可視光変換性能

    Au42(PET)32/ルブレン系における近赤外-可視光変換性能。(a)808nmおよび936nmの近赤外光照射時における発光スペクトル。可視域(550~650nm)に強いルブレン発光体のアップコンバージョン蛍光が観測されている。左は、疑似太陽光(1sun相当)の照射下でも鮮やかに発光する溶液の様子。(b)従来報告されている主要な増感剤との効率比較。850nm以上の長波長域において、金量子ニードルが圧倒的な変換効率(従来比2桁以上の向上)を達成している。(出所:立教大Webサイト)

アップコンバージョンが効率よく起こり始める光の強さ(閾強度)は、0.14Wcm-2と極めて低く、レーザーのような強い単色光だけでなく、疑似太陽光のような弱い多色光の照射でも機能することが実証された。さらに、これまで学術的に議論の対象となっていた発光体ルブレンの「スピン統計因子(f因子)」が0.58という高い値であることも確かめられた。スピン統計因子とは、三重項-三重項消滅過程において、どれだけの割合で発光に寄与する「励起一重項状態」が生成されるかを示す指標だ。一連の結果は、金量子ニードルを用いることで、ルブレンという汎用性の高い分子材料が持つ潜在的な能力を初めて「全開放」できたことを意味するとした。

今回開発された金量子ニードルは、その原子レベルで制御された針状構造をさらに伸長させることで、近赤外光の中でも1000nm(1μm)を超える未踏の波長域まで光吸収を自在に広げることが可能だという。これらの金クラスター超原子をフォトンアップコンバージョンへと応用することは、将来的に、これまで人類が利用できていなかった広大な近赤外光のエネルギーを、自由自在に「資源化」できる可能性を秘めているとしている。