理化学研究所(理研)は2月4日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いた観測により、へびつかい座の方向に約1400光年離れた位置にある原始星「EC53」の周囲で惑星の材料となる塵(ダスト)が、原始惑星系円盤から中心星へ大量のガスが流れ込むことで発生する爆発的な増光「アクリーション・バースト」によって結晶化する瞬間を初めて直接捉えたと発表した。
同成果は、理研 開拓研究所 坂井星・惑星形成研究室のヤン・ヤオルン研究員、東京大学大学院 理学系研究科の相川祐理教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、シュプリンガー・ネイチャー社が刊行する世界最高峰の総合学術誌「Nature」に掲載された。
米・カリフォルニア工科大学が運用する米国航空宇宙局(NASA)公式の系外惑星データベース「NASA Exoplanet Archive」によれば、2026年2月5日現在、確認された系外惑星は6100個に達する。その発見を牽引するNASAの赤外線宇宙望遠鏡「TESS」による系外惑星候補は、まだ7890個も存在しており、地上の大型望遠鏡などにより正確に追観測されれば、今後もさらに増加し、1万個を越える日もそう先のことではない状況だ。
こうした太陽系を含む惑星系は、まず分子雲の中心にガスや塵が集中して恒星が輝き出し、その周囲に残された物質から形成される原始惑星系円盤の中で惑星が誕生することで成立する。円盤内には、地球のような岩石型惑星や小惑星などの材料となるケイ酸塩が含まれているが、本来は構造が不規則な「非晶質(アモルファス)」の状態にある。これが、絶対温度900K(約630℃)以上の高温にさらされることで、規則正しい構造を持つ「結晶質」へと変化する。
ここで1つの謎が生じる。彗星は、太陽などの中心星から遠い極寒の領域で形成されるため、水などが凍った揮発成分にも富む天体だ。しかし、ヘール・ボップ彗星やワイルド第2彗星などの観測によれば、高温下でしか生成されないはずのケイ酸塩結晶が確認されている。このことは、初期太陽系の内側で加熱・結晶化したケイ酸塩が、何らかのメカニズムで外側へと運ばれたと考えられるが、その具体的なプロセスは長らく未解決のままだった。
その有力な仮説として、NASAの赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー」などの観測から、「星の増光現象が結晶化を引き起こす」という説が提唱されていた。しかし、厚いガスと塵の層(エンベロープ)に覆われた極めて若い原始星段階において、このプロセスをリアルタイムかつ詳細に捉えるには、従来の望遠鏡では感度と分解能が圧倒的に不足していた。
そこで研究チームは今回、JWSTの中赤外線観測装置「MIRI」を用い、約1.5年周期で明るさが変化する原始星「EC53」を対象とし、明るさが落ち着いている「静穏期」と、アクリーション・バーストにより爆発的に明るくなる「バースト期」の両フェーズで精密に観測を実施したという。
観測の結果、バースト期においてのみ、静穏期には見られない「フォルステライト」や「エンスタタイト」特有のスペクトルが出現することが判明した。フォルステライトは「苦土かんらん石」とも呼ばれるケイ酸塩鉱物の一種で、マグネシウムを豊富に含む結晶を指す。これは、宇宙空間では高温環境下で形成されることが知られており、地球マントルを構成する主成分でもある。
一方のエンスタタイトは「頑火輝石(がんかきせき)」とも呼ばれ、こちらもまたマグネシウムを主成分とする輝石グループの結晶だ。これら2種類の鉱物がバースト期にのみ検出されたことは、急激なガス降着によって内側円盤が加熱され、塵が「焼きなまし」されて結晶化した直接の証拠になるとした。
さらに、より低温の領域を反映する波長18μm帯では結晶の特徴が確認されなかった。このことから、今回の結晶化現象がバーストにより高温に達した内側円盤の限定的な領域で起きていることが裏付けられた形だ。
加えてJWSTは、高速の原子ジェットを低速の分子流が包み込む「入れ子構造の噴出流」を鮮明に描き出すことにも成功。これは、「磁気流体力学(MHD)円盤風」モデルと一致する構造でアリ、内側で焼きなましされた結晶がこの風に乗ることで、彗星が形成されるような円盤外側へと効率的に運び出されていることを示唆しているとした。
今回の研究では、惑星系全体の化学組成を決定付けるダイナミックな物質変性と移動が始まっていることが明確に示された。太陽系もまた、その誕生初期に同様の「爆発的増光」を繰り返すことで物質を焼きなまし、現在の惑星や彗星の材料を形成した可能性が極めて高くなったとする。研究チームは今後、他の原始星における観測例を積み重ねると共に、ガスの化学組成との比較研究を進めることで、惑星系の化学的な初期条件がいつ、どのように決定されるのかという普遍的なプロセスの解明を目指すとしている。
