米国航空宇宙局(NASA)は2026年1月18日、有人月フライバイ・ミッション「アルテミスII」で使用する「スペース・ローンチ・システム」(SLS)ロケットと「オライオン」(Orion)宇宙船を、ケネディ宇宙センターの射点へ移送する“ロールアウト”を実施した。

今後、打ち上げの手順を確認するリハーサルなどが行われ、作業が計画どおりに進めば、打ち上げは早ければ現地時間2月上旬となる見通しだ。

アルテミスIIは4人の宇宙飛行士を乗せ、約10日間かけて月近傍をフライバイし、地球へ帰還するミッションである。地球低軌道を超えて人類が月近傍へ向かうのは、アポロ計画以来およそ半世紀ぶりとなる。

  • ロールアウトしたアルテミスIIのSLSロケットとオライオン宇宙船 (C)NASA/Keegan Barber

    ロールアウトしたアルテミスIIのSLSロケットとオライオン宇宙船 (C)NASA/Keegan Barber

「アルテミスII」はどんなミッションか

アルテミス計画は、米国主導の国際宇宙探査計画で、アポロ計画以来となる月面への有人着陸と長期滞在をめざすプログラムだ。また、将来の有人火星探査を見据え、探査に必要となる技術の実証を進めることも目的としている。

その実現に向け、巨大ロケットSLSと有人宇宙船オライオンが開発された。さらに、民間企業が月着陸船「HLS」(Human Landing System)の開発を進めているほか、月を周回する宇宙ステーション「ゲートウェイ」(Gateway)も、日本や欧州の協力のもと、開発が進められている。

アルテミス計画最初のミッションである「アルテミスI」は、SLSとオライオンを初めて組み合わせ、無人で打ち上げて、性能や機能を確認することを目的としていた。不具合により遅れを重ねたものの、2022年11月16日に打ち上げられ、月周回軌道へ投入したのち運用と離脱を実施し、同年12月11日に地球へ帰還した。

アルテミスIIはこれに続く2番目のミッションで、同計画として初めての有人飛行となる。4人の宇宙飛行士が月近傍をフライバイ(接近・通過)する計画で、ミッション期間は約10日間の予定だ。将来の「アルテミスIII」以降の有人月面探査に必要となるシステムとハードウェアを確認し、実証することを目的としている。

使用されるオライオン宇宙船は「インテグリティ」(Integrity:誠実、高潔という意味)と名付けられている。

  • オライオン宇宙船「インテグリティ」と、搭乗する4人の宇宙飛行士 (C)NASA/Kim Shiflett

    オライオン宇宙船「インテグリティ」と、搭乗する4人の宇宙飛行士 (C)NASA/Kim Shiflett

アルテミスIIには、NASAのリード・ワイズマン宇宙飛行士、ヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士、クリスティーナ・コック宇宙飛行士と、カナダ宇宙庁(CSA)のジェレミー・ハンセン宇宙飛行士の計4人が参加する。

リード・ワイズマン宇宙飛行士

1975年11月11日生まれ、50歳。米国海軍のテスト・パイロット出身で、2009年にNASAの宇宙飛行士に選抜された。2014年にはロシアの「ソユーズ」宇宙船で国際宇宙ステーション(ISS)に滞在した。今回が2回目の宇宙飛行で、アルテミスIIのコマンダー(船長)としてクルーを指揮する。

ヴィクター・グローヴァー宇宙飛行士

1976年4月30日生まれ、49歳。米国空軍で戦闘機のテスト・パイロットを務めたのち、2013年にNASAの宇宙飛行士に選抜された。2020年にスペースXの「クルー・ドラゴン」宇宙船で初飛行し、今回が2回目の宇宙飛行となる。アルテミスIIではパイロットを務める。

クリスティーナ・コック宇宙飛行士

1979年1月29日生まれ、46歳。NASAで電気エンジニアを務め、南極観測隊にも参加した経歴をもち、2013年にNASAの宇宙飛行士に選抜された。2019年にソユーズでISSに長期滞在し、史上初の女性のみでの船外活動を実施した。328日間の連続長期滞在を経験し、女性として最長の単独宇宙滞在記録を持つ。今回が2回目の宇宙飛行で、ミッション・スペシャリストを務める。

ジェレミー・ハンセン宇宙飛行士

1976年1月27日生まれ、49歳。カナダ空軍で戦闘機パイロットを務めたのち、2009年にCSAの宇宙飛行士候補に選ばれた。今回が初の宇宙飛行で、ミッション・スペシャリストを務める。

また、この4人のプライム・クルーに怪我や病気など万が一の事態があった場合に備え、バックアップ・クルーとして、NASAのアンドレ・ダグラス宇宙飛行士と、CSAのジェニー・ギボンズ宇宙飛行士が指名されている。

なお、グローヴァー氏は有色人種として、コック氏は女性として、そしてハンセン氏は米国人以外で初めて月へ飛行することになる。NASAはかつて、アルテミス計画について“多様性”を特徴としていたが、トランプ政権になり、少なくとも公式の文言からは排除された。しかし、人選そのものは多様性が活きており、静かな抵抗と言えよう。

  • ロールアウトするSLSとオライオンと、宇宙飛行士たち。左から、バックアップ・クルーのダグラス氏とギボンズ氏、続いてプライム・クルーのグローヴァー氏、ワイズマン氏、ハンセン氏、コック氏 (C)NASA/Joel Kowsky

    ロールアウトするSLSとオライオンと、宇宙飛行士たち。左から、バックアップ・クルーのダグラス氏とギボンズ氏、続いてプライム・クルーのグローヴァー氏、ワイズマン氏、ハンセン氏、コック氏 (C)NASA/Joel Kowsky

打ち上げまでの道のり

打ち上げに先立ち、2025年12月20日には「カウントダウン実証テスト」と呼ばれる試験が行われた。宇宙飛行士たちは打ち上げ・飛行管制チームの支援を受け、「オレンジスーツ」と呼ばれる与圧服(Launch and Entry Suit)を着用してオライオンに乗り込み、打ち上げ直前までの手順を確認するシミュレーションを実施した。

そして日本時間1月17日21時04分(米東部時間同日7時04分)、アルテミスIIミッション用のSLSとオライオンが、ケネディ宇宙センターのロケット組立棟(VAB)から姿を現し、ロールアウトを開始した。

SLSは移動発射台1(ML1)に載った状態で、「クローラー・トランスポーター2」(CT2)と呼ばれる巨大な運搬車両により、最大で時速約1.3kmというゆっくりとしたスピードで移動した。CT2は、アポロ計画期に製造された車両を更新・運用してきたもので、「サターンV」ロケットや「スペースシャトル」の輸送にも用いられた実績を持つ。

ロールアウト開始から約12時間後の18日8時42分、VABから約6.4km離れた第39B発射施設に到着した。

  • CT2によってロールアウトするアルテミスII (C)NASA/Sam Lott

    CT2によってロールアウトするアルテミスII (C)NASA/Sam Lott

SLSとオライオンはこのあと、地上設備との配管などを接続したのち、「ウェット・ドレス・リハーサル」(WDR)に臨む。WDRは推進薬の充填など、実際の打ち上げと同様の作業を発射約20秒前まで実施するリハーサルであり、打ち上げに向けた最終関門となる。

WDRの実施は、現時点で早くとも現地時間2月2日に予定されており、打ち上げは最短で同2月6日を目標としている。ただしWDRの結果次第では、機体を組立棟へ戻して追加作業を行うこともあり得るため、日程は確定していない。

地球と月の位置関係などを踏まえ、NASAは打ち上げ機会を以下のとおり公表している。各日の打ち上げ可能な時間帯は原則2時間となる。

  • 2月6日、7日、8日、10日、11日
  • 3月6日、7日、8日、9日、11日
  • 4月1日、3日、4日、5日、6日、30日

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  • 射点に到着後、準備作業が進むアルテミスII (C)NASA/Joel Kowsky

    射点に到着後、準備作業が進むアルテミスII (C)NASA/Joel Kowsky