名城大学、三重大学、ウシオ電機、日本製鋼所の4者は1月13日、低コストで量産性に優れるサファイア基板を用いて、医療に最適な深紫外線UV-B(波長280~320nm)領域の半導体レーザーにおいて、300~320nm帯での室温連続発振を初めて実証したと共同で発表した。

  • 今回開発されたUV-B半導体レーザー素子の断面模式図

    今回開発されたUV-B半導体レーザー素子の断面模式図。サファイア基板上に形成したナノピラー構造により高品質なAlGaN層を実現し、屈折率差を利用したリッジ導波路で光を強く閉じ込める設計が採用されている。また、レーザー両端に高反射DBRミラーを形成し、ジャンクションダウン実装により放熱性を高めることで、300~320nm帯での室温連続発振が達成された。(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、名城大 理工学部 材料機能工学科の岩谷素顕教授、同・竹内哲也教授、同・上山智教授、三重大大学院 工学研究科の三宅秀人教授、ウシオ電機、日本製鋼所の共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学協会が刊行する応用物理学を扱う学術誌「Applied Physics Letters」に掲載された。

サファイア基板活用で低価格での量産が可能に

紫外線とは、可視光線よりも波長が短い10~400nmの電磁波を指す。波長によって、地表に届くUV-A(320~400nm)やUV-B(280~320nm)、オゾン層で遮られるUV-C(100~280nm)、そしてX線との境界領域にあたる極端紫外線(10~121nm)の4種類に大別される(なお、UV-AとUV-Bの境界は、国際規格では315nmとされることもあるが、国内では人体への影響を考慮して320nmとされている)。

UV-Bの中でも300~320nmの波長帯は、生体分子との光化学反応を引き起こす高い光子エネルギーを持つ一方で、DNAを直接破壊しにくいという特性から、皮膚疾患治療や血管内治療などの医療応用における重要な波長帯として注目されている。これまで、紫外線の照射にはエキシマランプやLED光源が用いられてきたものの、大型で低効率、かつ波長選択性に制限があるなど、高精度医療用途とするには課題が残されていた。そのため、コンパクトかつ高出力の深紫外半導体レーザーが求められているのが現状だ。

深紫外半導体レーザーを実現するため、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)材料の利用が検討されているが、そのレーザー形成には格子歪みや放熱といった技術的な障壁が多く、特に安価なサファイア基板上での実現は困難だった。そこで研究チームは今回、これらの課題を克服し、医療応用に適したUV-B半導体レーザーの実用化に向けて、基盤技術の確立を目指したという。

今回の研究チームではまず、サファイア基板上にナノピラーを形成することで結晶歪みを緩和させ、高品質なAlGaNテンプレートが作製された。次に、このテンプレート上に屈折率コントラストを利用した「リッジ導波路構造」を採用し、横方向の光閉じ込めと低しきい値動作の両立が実現された。なおリッジ導波路とは、電流集中と光閉じ込めを同時に実現し、低発振しきい値化に寄与する構造を指す。

  • 動作中のレーザーデバイス外観と、発光時にデバイス端面から取り出される深紫外光の様子

    動作中のレーザーデバイス外観と、発光時にデバイス端面から取り出される深紫外光(318nm)の様子。高い光閉じ込め性により安定したレーザーモードが得られている。この発光が室温連続動作で観測されたことは、実用光源に向けた大きな技術的前進を示すとした。(出所:共同プレスリリースPDF)

また、鏡面損失を低減するため、二酸化ケイ素(SiO2)/五酸化タンタル(Ta2O5)多層膜からなる高反射型の「分布ブラッグ反射鏡(DBR)」(異なる屈折率材料を交互に積層し、高反射率を得る光学ミラー)を両端面に形成。さらに、熱拡散性を向上させるため、発熱源(活性層)を基板側に近づけ放熱性を向上させる実装方式「ジャンクションダウン」で、窒化アルミニウム(AlN)サブマウントに実装が行われた。

その結果、波長318nmにおいて室温連続発振を安定して実現し、しきい値電流密度4.3kA/cm2、しきい値電流64mAという動作特性が示された。この成果は、低コスト基板を用いたUV-Bレーザー開発の大きな転換点となるという。

  • 室温での連続動作における電流-電圧-光出力特性グラフ

    室温(20℃)での連続動作における電流-電圧-光出力(I-V-P)特性グラフ。64mA付近に明確なしきい値が確認され、ここを境に光出力が急増していることがわかる。しきい値電流密度は4.3 kA/cm2であり、300~320nm帯では世界初の室温連続発振動作を達成したことを示す重要な結果となっている。(出所:共同プレスリリースPDF)

  • 室温連続発振動作時に取得された発光スペクトル

    室温連続発振動作時に取得された発光スペクトル。発振波長318nmに鋭いピークが確認され、レーザー動作であることが明確に示されている。特に医療応用に有望なUV-B領域で、安定した単色光が得られていることがわかる。(出所:共同プレスリリースPDF)

今後は、実装技術やデバイス構造の最適化により熱抵抗と電極抵抗のさらなる低減を図ることで、安定的な高出力室温連続発振動作の実現が期待されるとする。また、波長可変性を臨床的に需要の高い308~311nm帯へ高めることで、皮膚疾患治療用の光源としての応用も見込まれるとした。

研究チームは、光カテーテル治療やタンパク質活性制御、微細加工などへの応用拡大も視野に入れており、量産性に優れたサファイア基板を用いることで、将来的には安価で普及性の高い医療・産業用レーザー市場の創出が期待されるとした。加えて今回の成果は、日本発の深紫外レーザー技術を国際標準へ押し上げる重要なステップになるとしている。