韓国の李 在明(イ・ジェミョン)大統領は12月10日、「K-半導体でAI強国をめざす」をスローガンに「K-半導体ビジョンと育成戦略報告会」を龍山(ヨンサン)にある大統領執務室の会議場で開催し、通商産業資源部(日本の経済産業省に相当)などの関係省庁が合同でまとめた半導体産業育成計画を公表した。なお韓国政府が推進する「K」の頭文字は、K-POP同様に韓国ブランドを意味したものである。


韓国の半導体業界から多数の要人が参加して韓国大統領執務室会議場にて開催された「K-半導体ビジョンと育成戦略報告会」の様子。「AI時代の半導体強国」を目指して李在明大統領が自ら会議を取り仕切ったという (出所:韓国大統領室メディア向け資料)
同会議には、Samsung Electronicsのチョン・ヨンヒョン副会長 兼 Device Solution部門長やSK hynixのクァク・ノジョン代表取締役社長など韓国の半導体業界関係者が多数出席し、AIの普及で急拡大する半導体需要に対応できる国家体制を整えて主力産業である半導体の競争力を強化する方策について議論が交わされたという。
韓国の半導体関連省庁が合同で作成した報告書によると、世界規模でAI覇権争いが激化している背景分析を踏まえ、韓国がメモリ強国からAIメモリの下請け国に転落せぬよう、AIを成長機会ととらえて競争力が無きに等しい自国のシステム半導体も含めたAI半導体における存在感を高めることを目指すとしている。
この報告書を踏まえて開催された同会議では、これまでの半導体産業育成強化策を更新する形で新たな方策が発表された。
半導体メガクラスタ投資を700兆ウォンに増額
韓国の半導体産業政策における中心的な事業である京畿道南部(ソウル近郊に所在する華城、竜仁、利川、安城、水原、城南の各市)の半導体メガクラスタについては、2024年1月に打ち出した官民合同投資額である622兆ウォンから78兆ウォン上乗せして700兆ウォン(70兆円余)へと増額した。
これらの半導体メガクラスタは、SamsungやSK hynixなどの民間企業が主導し、半導体工場13カ所と研究施設3カ所を2047年までに新設することを目指す。具体的には、巨大事業であるHBMなどの次世代メモリ工場や2nmおよびそれ以降の最先端プロセスに対応するファウンドリ拠点などを建設する。メガクラスタの面積は2102万平方メートルにおよび、世界最大の生産量となる月産790万枚の300mmウェハの生産体制を整えることを目指した造成が進められることとなる。
ファブレス育成に向けて4.5兆ウォンを投じる官民ファウンドリを設立
現在、韓国のファブレス半導体企業が有する世界シェアの1%程度にとどまっている。一方で、韓国内のファウンドリは主に先端プロセス指向で、国内のそうしたファブレス企業からの需要が多い40~90nmプロセス、いわゆる成熟プロセスは空白状態となっており、そうした韓国ファブレスの受け皿となり、ファブレスの育成に向けて官民共同で新たな非先端ファウンドリを設立することも決定したという。
韓国政府は、SamsungやSK hynix、DB Hitechなどファウンドリ事業を手がける企業と協議を進め、首都圏以外の場所に40nmプロセス級の300mmウェハラインを整備する計画である。
投資規模は約4兆5000億ウォンで、新工場には民間企業が52%、公共機関が48%を出資する予定。国内の中小ファブレス向けに専用の生産能力を割り当てて、最低発注量の緩和や試作コストの軽減などで中小企業の技術力の確保につなげることを目指すという。
また、車載マイクロコントローラ(MCU)や電源管理チップなど汎用半導については、国内ファブレスと需要のある顧客企業による共同開発を支援するとしているほか、完成品メーカーが国産の半導体を購入するための資金を低金利で融資するなど、2032年までに約3000億ウォン規模の金融支援を実施していくことで、ファブレス企業の総売上高を現在の10倍に拡大させることを目指すとしている。
AI時代の半導体産業でのリーダーシップを確保できるか
急成長を遂げるAI半導体の育成に向けて韓国政府は、「HBM以降の次世代メモリ開発に2032年までに2159億ウォンを支援」、「AI処理に特化したプロセッサであるNPUや、プロセッサが実行するデータ演算機能をメモリ内に実装した次世代技術であるPIM(プロセッサ・イン・メモリ)の開発に対して2030年までに1兆2676億ウォンを投入」、「先端パッケージングの技術開発に2031年までに3606億ウォンを投資」、「化合物半導体の開発に2031年までに2601億ウォンを投資」といった目標を掲げている。
また、現在の韓国内における半導体生産拠点は、ソウル近郊の首都圏に集中しているが、これを韓国南部に分散させることも目指すとする。半導体に特化した産業団地は原則として非首都圏に限って指定し、首都圏から離れるほどインフラ整備や財政支援の優遇度合いを高める。中核となるのは光州市で、すでに同市には後工程大手のAmkor Technologyが拠点を構えている。政府は2026~2030年に合計で420億ウォンを投じて、後工程技術の向上のための「先端パッケージング実証センター」を設立することを計画している。
さらに光州のほか、釜山(プサン)と亀尾(グミ)を加えた韓国南部3地域を半導体関連拠点「南部圏半導体イノべーションベルト」として育成することで、京畿道の半導体メガクラスタを結ぶ全国分散型の産業ネットワークを構築する。
このうち、釜山市をパワー半導体の生産ハブとして位置付けるとのことで、韓国政府は地場の半導体・電子部品メーカーのさらなる活性化に向けて「パワー半導体支援団」を設立し、研究開発(R&D)などに計600億ウォンを支援する。亀尾市でも、生産拠点があるシリコンウェハ製造大手のSK Siltronを中心として、先端パワー半導体素材(SiC/GaN)の生産基地構築を目指す。韓国政府は亀尾市に2024~2028年に300億ウォン規模の試験評価センター、2026~2030年に350億ウォン規模のテストベッドを整備する。
韓国半導体工業会(KSIA)は、「AI覇権競争が国家間の総力戦の様相で展開されるグローバル環境の中で、大韓民国半導体産業のビジョンと目標、国家レベルの対応課題を体系的に提示したという点で大きな意味がある」と今回の韓国政府の総力を挙げてまとめた報告書を評価している。
韓国産業通商資源部がArmと次世代半導体設計人材養成協力覚書を締結
このほか、韓国産業通商資源部は12月5日、ソフトバンクグループ(SBG)傘下で半導体設計大手のArmと韓国のAI半導体産業の強化に向けた次世代人材育成に向けた協力に関する了解覚書(MOU)を締結したことを発表した。
2026年にArm関与の教育機関が開設予定、韓国で半導体設計人材を5年間で1400人育成へ
韓国の産業通商資源部とArmはワーキンググループを設置し、半導体に特化した教育機関「Armスクール」(仮称)を2026年に設立するべく議論を進めるとしており、同機関を通じて半導体設計分野で世界最高レベルの人材を今後5年間に1400人養成する計画だという。さらに覚書には、技術交流強化やエコシスエムの強化、研究開発の相互協力も含まれており、こうした取り組みは韓国における非メモリ・システムLSI分野の強化に向けた韓国国家半導体産業強化策の一環だという。
なお、同日MOUの締結に併せる形で、韓国ソウルの大統領執務室で李在明 大統領とSBGの孫正義 会長 兼 社長、Armのレネ・ハース最高経営責任者(CEO)の会談が開催されている。この李大統領と孫氏との会談にて両氏は、AIへのアクセス権を基本権として保障する必要があるとの認識で一致したという。李大統領が提唱するAI技術の恩恵をすべての人が等しく享受できる「AI基本社会」構想についても孫会長と意見を交わしたとされ、半導体やデータなどに対する教育強化の必要性も議論されたと通商産業資源部は述べている。

