千葉工業大学(千葉工大)は12月9日、惑星間ダストが小天体に衝突することで生じる「衝突破片雲(イジェクタ・クラウド)」の理論モデル構築の第一歩として、衝突破片の引張強度を理論的な数式で記述することに成功し、太陽系の小天体の強度を決定しているのは「分子の結合具合」であることを解明したと発表した。
同成果は、千葉工大 惑星探査研究センターの木村宏上席研究員らの研究チームによるもの。詳細は2本の論文として、どちらも米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された(論文1本目・論文2本目)。
小惑星特定の重要なパラメータが明らかに
宇宙は極めて高真空であるが故に、特に理由もなくクリーンなイメージを持ちやすいが、実際はその逆で、太陽系内は小天体同士の衝突や彗星によってまき散らされた固体微粒子、つまり惑星間ダストがあふれている。これは、極めて暗い夜空の土地へ行けば、地上からでも淡い「黄道光」として確認が可能だ。黄道とは天球上における見かけ上の太陽の通り道であり、黄道光は惑星間ダストが太陽光を散乱したものである。
惑星間ダストは、地球が太陽を周回する公転軌道上にも多量に存在し、地球の重力に捉えられ、毎日のように大気圏内に引き込まれている。地球大気に降り注ぐ惑星間ダストの年間総質量は、東京スカイツリーの鉄骨地上本体部重量と同程度といわれ、地球が宇宙から取り込んでいる物質の量は膨大である。
そのうち、ミリからセンチサイズのダストは重力に引かれて大気圏内に突入すると、流れ星として光り燃え尽きる。一方、黄道光を構成する0.1ミリ程度の小さなダストは、地球大気で減速され、流れ星のように光ることなく静かに落ちていき、大気中で消えていく。
対照的に、大気がほぼない小惑星では、惑星間ダストが「雨」となって表面に降り注いでいる。惑星間ダストは、秒速数十kmという超高速で表面に衝突し、衝突破片を発生させる。小惑星表面から飛び出たイジェクタ粒子は、小惑星の重力が小さいために滞空時間が長く、衝突破片からなる雲、つまりインジェクタ・クラウドを形成することが知られている。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)主導で、千葉工大も開発に大きく関わる深宇宙探査技術実証機「DESTINY+」(Demonstration and Experiment of Space Technology for INterplanetary voYage with Phaethon fLyby and dUst Science)では、メインのフライバイ観測のターゲットである小惑星「フェートン」や、リハーサル観測のターゲットである「アポフィス」などの小惑星のイジェクタ・クラウドを形成するダストの物理・化学特性を測定することで、小天体表面の物理・化学特性を推定する計画だ。
このような背景から、イジェクタ・クラウドのその場測定データから天体表層物質を理解するには、理論的な同クラウドのモデル構築が課題となっていた。そこで研究チームは今回、衝突破片の引張強度を理論的な数式で記述することを試みたという。
今回の研究では、弾性球同士の接触理論から導出した、弾性球の集合体(アグリゲイト)の引張強度を記述する数式が用いられた。この数式において、弾性球の直径をアグリゲイトを構成する分子の結合長に等しいと仮定したところ、アグリゲイトではない物体の引張強度を記述する数式になることが明らかにされた。
なお雪、氷、シリカ、無定形炭素などの引張強度を測定した実験結果や、シミュレーションした分子動力学計算結果の充填率依存性や体積依存性は、この数式で矛盾なく再現できることが判明。この数式では、分子数(充填率、体積)、分子の結合力(表面エネルギー)、分子間距離、分子間結合切断の亀裂長(ワイブル計数)がパラメータとなる。つまり、太陽系小天体の強度を決めるのは分子の結合具合であることが解明された。そのため、地球に衝突すると壊滅的な被害を及ぼす小天体を特定する上で、小天体の引張強度が重要なパラメータとなる可能性があるとした。
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雪の引張強度(縦軸)を充填率(横軸)の関数としてプロットしたもの(シンボル:実験値、実線:式1)(出所:千葉工大プレスリリースPDF)
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シリカガラスの引張強度(縦軸)を体積(横軸)の関数としてプロットしたもの(シンボル:実験値、実線:式1)(出所:千葉工大プレスリリースPDF)
引張強度はひずみとして蓄えられるエネルギーを知る上で重要なパラメータであり、このひずみエネルギーが衝突破片の放出速度を決定することが期待されるとした。DESTINY+プロジェクトで衝突破片ダストの速度を計測することで、小天体の機械特性に関する知見が得られることが期待されるとしている。
