高市総理による台湾有事を巡る国会での発言が、日中関係の急速な冷え込みを招き、極度の緊張状態を生み出している。この外交摩擦は、単なる言葉の応酬にとどまらず、国際社会の安全保障環境、特に「台湾有事の可能性」という喫緊のテーマを改めて浮き彫りにした。
“高市発言”と中国政府の反応
2025年11月7日に行われた衆議院予算委員会の中で、高市早苗総理は中国が台湾に対して武力行使を行った場合、それは日本にとって「存立危機事態」に該当し得るという認識を示した(第219回国会 予算委員会 第2号 会議録)。
「存立危機事態」とは、日本が直接攻撃を受けていなくとも、密接な関係にある他国への武力攻撃により、日本の存立が脅かされ、国民の生命・自由などに明白な危険が及ぶ事態を指す。この事態に至れば、限定的な集団的自衛権の行使、すなわち自衛隊による武力行使が憲法上可能となる。これまで日本の歴代政権は、中国を過度に刺激しないよう、台湾有事と存立危機事態の具体的な線引きを意図的にあいまいにしてきた経緯がある。高市総理の発言は、この“あいまい戦略”を大きく踏み越えるものとして、国内外に衝撃を与えた。
中国政府は、この発言を「一つの中国」原則に反する内政干渉であり、「台湾問題への軍事介入を示唆したもの」として激しく反発した。結果として、日本産水産物の輸入停止措置など経済的対抗手段を含む強硬な姿勢に転じ、日中関係は一気に冷え込むこととなった。この対立は、米国を巻き込む外交問題にも発展し、国際社会の緊張を高めている。
半導体大国における有事リスクの高まりが意味すること
高市総理の発言によって、再び焦点が当たった台湾有事の可能性は、現在、国際安全保障上の最大の懸念事項である。
中国は台湾統一を「歴史的任務」と位置づけており、武力行使の選択肢を排除していない。中国人民解放軍は、台湾侵攻を可能にするための強襲揚陸能力やミサイル戦力を著しく増強している。軍事力の差は台湾側に対し圧倒的になりつつある。米軍の介入がなければ、中国が台湾本島を占拠する可能性は否定できない水準に達しているとの見方もある。また、台湾海峡の地理的特性などが中国側にとっての障壁となるものの、中国は軍事演習を繰り返すことで、その能力を誇示し続けている。
一方、台湾では独立志向の強い民進党が政権を担っており、可能性としては高くはないが、台湾が仮に「独立」に向けた明確な動きを示した場合、中国が武力介入するリスクは決定的に高まる。また、習近平指導部が国内の経済的・社会的な不安を背景に、ナショナリズムを高揚させるために対外的な強硬姿勢を選択する可能性も指摘されている。
台湾は世界の半導体産業における心臓部であり、台湾有事が発生し、周辺海域が封鎖されれば、サプライチェーンは寸断され、日本を含む全世界の経済に甚大な打撃を与えることは確実である。この世界的経済への影響の大きさは、中国自身にとってもきわめて大きなリスクであり、かえって中国の行動を抑止する要因にもなり得るとの分析も存在する。
いずれにせよ、台湾有事のリスクは依然として色濃く残っており、台湾を半導体市場のハブとし続けることもひとつのリスクである。日本国内におけるTSMCの工場建設、ラピダスの創設はそのための代替策であり、日本のテック企業としては台湾有事が起こるという前提で対策を今後強化していく必要がある。