広島大学、理化学研究所(理研)、京都大学(京大)、千葉大学の4者は10月24日、理研主導のキューブサットX線衛星「NinjaSat(ニンジャサット)」を用いて、X線バーストを一定間隔で起こすX線連星系「クロックバースター」の1つ「GS 1826-238」を観測し、この天体の従来の最短である約3時間の半分ほどとなる約1.6時間のバースト再帰(繰り返し)時間を観測したと共同で発表した。

  • クロックバースター「GS 1826-238」のイメージ

    決まった時間間隔で爆発を起こすクロックバースター「GS 1826-238」のイメージ(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、広島大大学院 先進理工系科学研究科の武田朋志 日本学術振興会特別研究員(理研 開拓研究所(PRI) 玉川高エネルギー宇宙物理研究室 客員研究員)、同・高橋弘充准教授、PRI 玉川高エネルギー宇宙物理研究室の玉川徹主任研究員、理研 長瀧天体ビッグバン研究室の土肥明基礎科学特別研究員、京大大学院 理学研究科物理学・宇宙学専攻の榎戸輝揚准教授、千葉大 ハドロン宇宙国際研究センターの岩切渉助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する天体物理学を扱う学術誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

従来理論モデルで説明できない異様な短さを確認

宇宙には、突如明るく輝く「突発天体」が数多く存在する。2023年11月11日に打ち上げられたNinjaSatは、高い機動力を活かした観測スケジュール調整により、その追観測を行っている。

NinjaSatが観測するX線バーストは、中性子星と太陽よりも軽い恒星から成る連星系で起きる、銀河系内で最も頻度の高い核融合爆発現象だ。恒星からのガスが中性子星表面に降り積もり、温度と圧力が上昇。点火条件に達すると核融合反応が起き、大量のX線を放射する。このX線バーストの過程で、地球上には通常存在しない陽子過剰の不安定核が大量に生成されるため、宇宙における元素合成場所の1つとしても注目されている。

特に、規則正しくX線バーストを繰り返すクロックバースターは、観測結果と理論モデルの比較に最適であり、中性子星の物理を理解する鍵となる。これまでの研究から、バーストの再帰時間(点火条件に達するまでに要する時間)は、主にガスの降着速度や組成、中性子星の質量と半径に依存することが明らかになりつつある。

X線バースターは約120天体が確認されているが、クロックバースターはわずか7天体のみの発見である。中でも、今回観測された天体は、日本のX線衛星「ぎんが」が1998年に発見した最初のクロックバースターだ。それ以降、バーストの再帰時間と定常X線放射の関係が詳しく調べられてきた。

定常X線放射の明るさは、連星系を構成する恒星から中性子星へのガスの降着速度を反映している。X線で明るい場合、恒星から中性子星へ流れ込むガスが増え、X線バーストの燃料がより早く蓄積されることを意味する。つまり、バーストの再帰時間は定常X線放射に概ね反比例すると理解されてきた。

しかし、ガスの降着速度が過剰に速い場合、ガスは定常的に燃えてしまうため、中性子星表面に蓄積しにくくなる。その結果、X線バーストは不規則に発生するようになり、GS 1826-238は2015年以降、この不規則バーストの状態にあった。ところが、約10年ぶりに規則的なX線バーストを再開した兆候が、理研が国際宇宙ステーションで運用する全天X線監視装置「MAXI(マキシ)」によって捉えられた。これを受け、研究チームは2025年6月23日から、NinjaSatによる高感度・高頻度の追跡観測を実施したという。

そして観測の結果、GS 1826-238の観測史上最短となる約1.6時間(約1時間36分)のバースト再帰時間が確認された。しかも今回の観測結果は、従来観測で見られた反比例関係と比べて下方にずれており、ガスの降着速度から予想されるよりも短い再帰時間が示された。このずれの原因としては、以下の2点により点火が早まった可能性が考えられるとする。

  • GS 1826-238の定常X線放射の明るさとバースト再帰時間の関係

    NinjaSatと他の衛星が観測したGS 1826-238の定常X線放射の明るさとバースト再帰時間の関係。過去の観測(黒丸)では、X線で明るくなる(ガスの降着速度が速くなる)につれてバーストの再帰時間が短くなり、概ね反比例の関係(点線)に従う。しかし、今回の観測結果(赤丸)は、この関係から下方にずれていた(出所:広島大Webサイト)

  1. 従来説の中性子星表面全体への一様な降着ではなく、一時的に局所的な領域への降着が起き、単位面積あたりの降着速度が上昇したこと
  2. 長期的なガス降着によって中性子星内部の温度が上昇したこと

いずれの場合も、従来のX線バースト理論モデルでは十分に考慮されてこなかった新たな要因が働いていることを示唆しているとした。今回の研究で得られた観測結果は、理論モデルのさらなる精緻化を促すものであり、今後、X線バーストの点火条件の理解が進むことで、中性子星そのものの理解も一層深まることが期待されるという。

また、今回もキューブサット衛星ならではの機動力が成果に大きく貢献したことから、今後もNinjaSatのようなキューブサット衛星を効果的に活用することで、宇宙で起こる高エネルギー現象や天体の進化を探る「時間軸天文学」の発展に貢献できるとしている。

  • キューブサットX線衛星「NinjaSat」

    キューブサットX線衛星「NinjaSat」。10cm×20cm×30cm・重量約8kg。主検出器として、非撮像型のガスX線検出器を2台搭載している(出所:共同プレスリリースPDF)