打ち上げ直前に荷物を積み込める「W型フェアリング」
7号機のもうひとつの注目点が、「W型」フェアリングを初めて装着して打ち上げる点だ。
H3には、S(Short)型、L(Long)型、そしてW(Wide)型の3種類のフェアリングを選んで装着できる。S型は標準的な大きさの衛星を1機、L型は大型衛星や複数の衛星を搭載する場合などに使う。そしてW型は、L型とほぼ同等の全長約16.5m(L型は約16.4m)ながら、Wideという名のとおり直径が少し太く、5.2mから5.4mになっている。
W型フェアリングは、主に「新型宇宙ステーション補給機」(HTV-X)の打ち上げに使うことを想定している。そのため、フェアリングの大きさをHTV-Xに合わせただけでなく、与圧部への「レイト・アクセス」に対応する工夫が取り入れられた。
HTV-Xは、ISSでの実験のために生物の試料などを搭載することを想定している。このため、打ち上げの直前(十数時間前)に、HTV-Xに作業者が入り、積み込み作業を行う必要がある。それを可能にするため、フェアリングには「レイト・アクセス・ドア」という、縦1.6m×横1.5mの出入り口が設けられている。
ちなみに、S型とL型は川崎重工製なのに対し、W型はスイスにある宇宙メーカー「ビヨンド・グラヴィティ」(Beyond Gravity)が開発、製造したものを輸入して使用する。その理由は、開発費と時間の節約にある。
実は、L型でもHTV-Xを搭載することはできるのだが、H3でHTV-Xを打ち上げることが決まった当時、すでに開発が進んでいたL型フェアリングに、前述したレイト・アクセス・ドアを加えるための開発を追加するのは、時間的にもマンパワー的にも、リソース的にも厳しい状況だった。また、HTV-XはISSに物資を補給する都合上、各国との国際約束があるため、打ち上げ時期を大きく遅らせることはできない。
そこに福音となったのがビヨンド・グラヴィティだった。同社は、欧州の「アリアン5」ロケットに始まり、世界中のロケットにフェアリングを供給しており、高い実績がある。さらに、米国のロケット向けに、直径5.4mかつレイト・アクセス・ドアをもつフェアリングも開発済みだった。
有田氏は、「同社から『開発済みのものがあるよ』という提案がありました。それが使えれば、開発費が節約できるし、時間もかからないので、採用を決めました」と語った。
もっとも、W型は開発費こそかからなかったものの、リカーリング・コスト(継続的に使用するために、繰り返し支払う費用)という点では、国産のL型の方が安いという。また、フェアリングの開発・製造技術を、国産で維持し続けることも重要だ。
そのため、W型はL型を置き換える上位互換ではなく、H3の標準フェアリングの地位はあくまでS型とL型が担うことになる。
H3ロケット24形態が拓く未来
24形態のパワフルさは、HTV-X以外の、高い打ち上げ能力を要求される重要なミッションにも、大いに役に立つ。
24形態による打ち上げが想定されるミッションのひとつに、JAXAが開発している「火星衛星探査計画」(MMX)がある。火星の衛星「フォボス」に着陸し、石や砂を採取して地球に持ち帰ること(サンプル・リターン)をめざすもので、2026年の打ち上げを予定している。
地球と火星圏の間を往復する必要があることから、その分大量の燃料が必要となり、打ち上げ時の質量は約4tに達する。このため、24形態による打ち上げが求められる。
また、2026年度には「月極域探査機」(LUPEX)の打ち上げも計画されている。JAXAとインド宇宙研究機関(ISRO)との共同ミッションで、月の極域に存在すると考えられている水(氷)を探し、その量と質に関するデータを取得することを目的としている。月面に着陸するための着陸機と、月面を走行する探査車からなり、打ち上げ時の質量は6.5t以上に達する。このため、やはり24形態の打ち上げ能力が必要となる。
さらに、24形態にとって最も需要が高いと期待されているのが、コンステレーション衛星の打ち上げである。コンステレーションとは、多数の衛星を打ち上げて軌道に配備し、それらを一体のシステムとして機能させる衛星群のことで、通信や地球観測などの分野で、従来にはなかったサービスを提供し、新時代の宇宙インフラとなっている。
その代表例が、米スペースXの「スターリンク」で、これまでに約1万機の衛星が打ち上げられており、将来的に軌道上への配備数は4万機以上になるともされる。
コンステレーション衛星を効率よく配備するには、一度に多くの衛星をロケットに搭載して打ち上げる必要がある。その点で、強大な打ち上げ能力をもつ24形態と、大容量のL型フェアリングはうってつけで、国内外のコンステレーション衛星の打ち上げで、大きく活躍できる可能性がある。
H3ロケット7号機の打ち上げは、10月26日9時00分15秒に予定されている。
ペンシル・ロケットから70年、積み重ねてきた技術の結晶が、ついに宇宙へ飛び立つ。日本最大、最強のロケットが放つ轟音は、未来へのさらなる挑戦を告げる号砲となるだろう。





