東北大学と八戸工業高等専門学校(八戸高専)は10月10日、植物由来で生分解性の「キレート剤」と二酸化炭素(CO2)を活用し、木質バイオマス(木材)灰の環境負荷低減、資源回収、CO2固定を同時に実現する新技術を開発したと共同で発表した。
同成果は、東北大大学院 環境科学研究科のJiajie Wang助教、同・勝見想大学院生、同・Vani Novita Alviani特任助教(研究当時)、同・渡邉則昭教授、東北発電工業の長沼宏室長、同・大堀裕輝氏、東北大大学院 農学研究科の牧野知之教授、同・Jian Chuanzhen大学院生、八戸高専の土屋範芳校長(東北大名誉教授)らの共同研究チームによるもの。詳細は、持続可能な資源管理と保全を扱う学術誌「Resources, Conservation & Recycling」に掲載された。
有害な重金属を除去し効率的なプロセスを実現
木質バイオマス発電の導入拡大に伴い、その灰の排出量が急増している。将来的には、日本国内でも年間数百万トン規模に達すると予測され、対策が急務だ。木質バイオマス灰は、カリウムやカルシウムなどの農工業に有用な元素が豊富なため、その有効利用が期待されている。
しかし木質バイオマス灰には、環境や人体に悪影響を及ぼすカドミウムなどの重金属も含まれており、安全かつ効率的に利用することは困難だ。そのため、現状では多くが高コストな産業廃棄物として処理され、バイオマス発電の経済性を損なうだけでなく、埋立処分場の逼迫や環境負荷の増大といった深刻な課題が生じている。
これまでの重金属の回収は、強酸による溶解処理や電気化学的手法が主流だった。しかしこれらは薬品やエネルギーを多量に消費するため、環境的・経済的な負荷が大きいことから、木質バイオマス灰を資源として活用する技術が強く求められていた。そこで研究チームは今回、繰り返し使用可能な植物由来の生分解性キレート剤(金属イオンと選択的に結合できる官能基を有する合成樹脂)とCO2を組み合わせ、木質バイオマス灰の環境負荷低減と資源化を同時に達成する新規プロセスを着想し、その実効性を実験により実証したという。
今回のプロセスは、100℃以下で常圧という温和な条件で実施可能だ。具体的には、生分解性キレート剤の「L-グルタミン酸二酢酸水溶液」を用いて灰を処理し、重金属の除去と同時に減量化を図る。処理後の残渣は、環境安全性を担保した上で、流動床ボイラーの珪砂代替材として再利用できる。
一方、抽出液中に取り込まれたカリウムとカルシウムは、排ガス中のCO2や廃熱を活用し、温度や水素イオン濃度指数(pH)の制御により、工業材料の炭酸カルシウムとカリ肥料の炭酸水素カリウムとして、それぞれ析出させることが可能だ。この過程で重金属も共存するが、キレート剤が重金属を吸着することで生成物は高純度を維持でき、炭酸水素カリウムでは99.5%の純度が達成された。実際に小松菜の栽培試験では、市販のカリ肥料と同等の生育効果を確認。さらに、プロセス全体では灰1トンあたり約300kgのCO2の固定化が示された。
また、異なる官能基を持つキレート樹脂を用いることで、抽出液中に過剰に蓄積した重金属を効率的に除去でき、抽出液がほぼ完全に再生可能なことも実証された。これにより、薬剤の消費や廃水の発生を最小限に抑えた持続可能なプロセスが実現するとした。
今回の技術をバイオマス発電に導入すれば、成長過程でCO2を吸収したバイオマスを燃料とし、発電時に排出されるCO2を肥料や炭酸塩として再利用する、「カーボンネガティブ・バイオマス発電」実現への道が期待されるとする。さらに、廃棄物とCO2を農林業や工業原料へと転換し、灰中の重金属を回収することで土壌環境改善にもつながるとしている。
今回の技術は、経済性と環境性能を兼備した新規発電モデルを提示し、脱炭素社会と資源循環型社会の実現に大きく寄与するという。加えて、日本が輸入に依存するカリ肥料を国内で循環させることで、食料安全保障にも貢献するとした。
また、この技術により、バイオマス発電は単なる電力供給手段にとどまらず、廃棄物リサイクル、資源循環、CO2削減を同時に実現する新しいエネルギーシステムへと進化する可能性を持つ。研究チームは今後、技術のスケールアップや産業界との連携を通じ、地域に存在するバイオマス資源を最大限に活用し、地域社会とエネルギー産業の双方に新たな価値を生み出す好循環の実現を目指すとする。
さらに、今回のプロセスは普遍的な環境技術として、世界中のバイオマス発電や農林業生産システムに適用できる可能性も持つ。国際展開も視野に入れ、グローバルな資源循環とカーボンニュートラルの実現に貢献し、持続可能な社会形成に向けた大きな一歩となることが期待されるとしている。
