岡山大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、高知大学、東京大学(東大)の4者は9月3日、米国航空宇宙局(NASA)の探査機による高解像度探査データを用いて、火星の中緯度に存在する750以上のクレーターを調査した結果、氷によって形成された地形やクレーター年代、さらに気候モデルを組み合わせ、過去約6億年にわたる氷の蓄積と分布の変化を明らかにしたと共同で発表した。

同成果は、岡山大 学術研究院 先鋭研究領域(惑星物質研究所)のTrishit Ruj准教授を中心に、JAMSTEC、イタリア・ダヌンツィオ大学、高知大、アメリカ・ブラウン大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東大の研究者らが参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国地質学会が刊行する地質学を扱う学術誌「Geology」に掲載された。

火星の氷は過去に比べて大きく減少していることが判明

火星の地表は寒冷で乾燥し、また大気圧も地球の100分の1にも満たない。しかしその中緯度地域の地下には、現在も水の氷が存在すると推測され、これは火星の気候史や長期的な水循環を解明する上での重要な手がかりとなる。また、2030年代以降に実施される予定の火星有人探査において、利用可能な水資源としても期待されている。

これまでの研究から、火星では過去にクレーター内部に氷が蓄積し、その痕跡が現在でも周囲の地形に残されていることが明らかにされていた。しかし、その氷がいつ・どこで・どのような条件で形成され、長い時間を経てどのように変化してきたのかについては不明だった。火星の気候進化を理解し、将来の有人探査で水資源の入手が容易な着陸地点を特定する情報を得るため、研究チームは今回、火星における氷の蓄積の歴史を調査したという。

今回の研究では、NASAが2005年に打ち上げ、現在も活動中の軌道周回型火星探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター」に搭載されている2つのカメラ、「HiRISE」と「コンテキストカメラ(CTX)」のデータが用いられた。HiRISEは、高度約200km~400kmから約6kmの範囲を約1m~2.4mという性能の高解像度カメラで、一方のCTXは、高度約300kmから約30kmの範囲を約6mの解像度で撮影できる広視野カメラだ。これら2つのカメラが撮影した画像データを用いて、中緯度に位置する750以上のクレーターが詳細に調べられた。そして氷に関連する地形の詳細なマッピングとクレーターの年代測定を実施し、それに加えて気候シミュレーションを組み合わせることで、過去約6億年にわたる氷の分布と変遷が復元された。

解析の結果、氷は地質学的年代を通じ、一貫してクレーター内部の南西側に多く蓄積していたとのこと。これは、日射量が低下し影ができやすい「コールドトラップ」によるものであることが判明したという。さらに重要な点として、氷の蓄積が一度きりではなく、複数回にわたって起こっていたことも確認された。時期ごとの氷の供給方向や厚さが異なることから、火星の自転軸の傾き(斜度)の変動に伴う大規模な気候変化があったことが示唆された。

  • 火星の中緯度で氷が蓄積する仕組み

    火星の自転軸の傾きの変化に伴い、氷は極域から中緯度のクレーターへ移動し、より厚く蓄積する(出所:共同プレスリリースPDF)

約6億4000万年前には、火星は厚く広範囲な氷に覆われていたが、その後数億年にわたって氷の量は減少を続け、最新の氷の蓄積時期である約9800万年前には、限られた小規模な場所にしか存在しなくなっていた。これは、火星が氷を蓄積しやすい湿潤な時代から、氷を保持しにくい寒冷で乾燥した時代へと移行したことを示すものとした。

今回明らかにされた火星中緯度における氷の蓄積の歴史は、火星の気候進化を理解する上で重要な手がかりとなる。それと同時に、将来の有人探査に向けた水資源の評価にも直結する。氷の分布や保存状態を詳細に把握することは、安全で水資源の豊富な着陸地点の選定や、現地での水供給や燃料生成などを計画する上で不可欠だ。さらに、今回の研究は惑星の気候の理解を深めると同時に、かつて生命が存在した可能性のある環境の特定にもつながり、火星での生命の痕跡探索を進める上でも重要な指針となるとしている。