米民間企業インテュイティヴ・マシーンズは2025年2月27日、月着陸機「アシーナ」の打ち上げに成功したと発表した。早ければ3月6日にも月面に着陸し、月の永久影に存在する可能性がある水(氷)の探索や、小型月面車の運用など、多彩なミッションに挑む。
インテュイティヴ・マシーンズによる月ビジネスへの挑戦
インテュイティヴ・マシーンズ(Intuitive Machines)は2013年、NASAの元エンジニアや起業家が創設した宇宙企業で、米国テキサス州ヒューストンに拠点を構える。
同社がめざすのは、月面や月周回軌道への物資や機器の輸送、月周辺や地球と月間の通信をはじめとする、月ビジネスの確立である。
米国航空宇宙局(NASA)は、国際共同で進めている有人月探査計画「アルテミス」において、民間企業の参画を重視している。この計画の一環として、2018年に開始された「商業月ペイロード・サービシズ」(CLPS)プログラムでは、地球と月間の物資輸送や月の資源開拓、利用に関するミッションを民間企業に委託し、NASAはそのサービスを購入する形を採用している。
これにより、民間宇宙ビジネスの成長を促しつつ、NASAは有人火星探査などの次なる目標にリソースを集中できる利点がある。
この計画には複数の企業が手を挙げ、そのうちの一社がインテュイティヴ・マシーンズだった。
同社が開発した最初の月着陸機「ノヴァC級」(Nova-C class)は、高さ4.3m、直径1.5mで、ちょうどミニバンを縦にしたくらいの大きさである。底部には6本脚の着陸装置を装備している。打ち上げ時の質量は2.12tで、その3分の2ほどは推進剤で占められている。月面へは100〜130kgの貨物を輸送できる。
ノヴァCの最大の特徴は、軌道変更や月面着陸で使うロケットエンジンで、推進剤に液化メタンと液体酸素を使う。従来の月探査機はヒドラジンを使っていたが、確実に着火できる利点がある一方で毒性があり、性能もやや低いという欠点があった。一方、メタンは地上での取り扱いがしやすく、なにより性能が高いことから次世代ロケット燃料として注目されている。月着陸機への採用はノヴァCが史上初めてである。
電力は太陽電池でまかない、月の夜を越える「越夜」(えつや)機能はない。
ノヴァC級着陸機は、2024年2月15日に1号機「オディシアス」(Odysseus、オデュッセウス)が、最初のミッション「IM-1」(Intuitive Machines-1)のため打ち上げられた。同社にとって初めてとなる月面着陸の技術実証のほか、前述したNASAのCLPSプログラムに基づき、NASAなどが提供した科学装置も搭載されていた。
そして2月23日に、月の南極から約300km離れたところにある、「マラパートA」クレーターに着陸した。
だが降下時にレーザー測距システムが故障し、傾斜地に着陸。その結果、機体が横倒しとなり、脚が1本折れた。それでも発電や通信は機能し、搭載機器もほぼ稼働するなど、不完全ながらも民間初、かつ米国にとって約半世紀ぶりの月面着陸を果たした。