7月1日付でヤマハ発動機の後工程製造装置事業を担うYRCが設立

ヤマハ発動機およびヤマハロボティクスホールディングス(YRH)は6月19日、2025年7月1日付で設立されるヤマハロボティクス(YRC)の中長期経営企画を策定したことを発表した。

YRCは、ヤマハロボティクスホールディングスおよび、その完全子会社である新川、アピックヤマダ、PFAを統合する形で設立される新会社で、各社が強みを持つ半導体後工程製造装置ならびに電子部品組み立て装置の開発、製造、販売を手掛ける。

ヤマハのロボティクス事業は、全社売上高の4%(2024年12月期では1133億円)を占めており、1974年に自社の手掛ける二輪車向け産業用ロボットの開発を開始したことに端を発し、現在、主な取り扱い製品としては、電子部品や受動部品などをプリント基板に実装する表面実装装置(SMT)、産業用ロボット(FA)、産業用無人航空機(UMS:Unmanned System)、そして半導体の後工程(組み立て/検査)で用いられる製造装置(SEMI)などとなっている。

  • ヤマハ発動機のロボティクス事業の概要

    ヤマハ発動機のロボティクス事業の概要

後工程製造装置と表面実装工程をトータルでサポート

半導体の後工程製造装置と表面実装装置を手掛けていることから、同社ではそれらをつなぎ、FA製品とともに新たな「1Stop Smart Solution」と呼び、ソリューションとして提供していくことを目指している。具体的には、旧新川はボンディング装置で強みを有しており、アピックヤマダはモールド、リードフレーム関連で強みを、そしてPFAはそれらを制御するFA装置に強みを持っており、そうした技術を組み合わせた一貫ソリューションの提供を目指すこととなる。

  • 「ヤマハロボティクス」が2025年7月1日付で誕生

    YRC、新川、アピックヤマダ、PFAのそれぞれの強みを合わせた新会社「ヤマハロボティクス」が2025年7月1日付で誕生する

YRHの中村亮介 代表取締役社長は、半導体製造における後工程が注目を集めるようになってきた近年の市場状況を踏まえ、幅広い後工程製造装置を手掛けてきたヤマハ発動機の優位性を強調する。

  • YRHの中村亮介 代表取締役社長

    YRHの中村亮介 代表取締役社長

現在、半導体市場はムーアの法則をけん引してきたプロセスの微細化が物理的な限界を迎えつつあり、微細化は進んでいるものの、かつてのような劇的な性能向上、低消費電力化をもたらせなくなっている。また、ロジックには先端プロセスが向くものの、I/O部にはそこまで微細なロジックを必要としないなど、機能に応じてプロセスを使い分けるニーズが生じており、それらを別々のプロセスで製造し、それを1パッケージに集積する2.5D/3Dパッケージ技術の活用が進んできている。

このパッケージ工程を担うのが後工程であり、YRCを構成する新川やアピックヤマダが得意としてきた領域でもある。そうした後工程は大きく分けて、ウェハからダイを切り離す「ダイシング」工程(切る)、切り離されたダイをパッケージの基板にピックアップして接着させる「ダイボンディング」(つなぐ)、基板とダイを実際に配線でつなぐ「ワイヤボンディング」(つなぐ)、樹脂やセラミックなどでダイを封止し、外的ストレスなどから保護する「モールディング」(固める)、そして基板から出されたピンやボールグリッドに通電し、実際にデバイスに不具合がないのかを確認する「検査」(診る)、そして最終的にほかの電子部品や受動部品などと一緒にシステムを構築する「組み立て」(組む)に大きく分けられる。このうち、つなぐと診るを新川、組むと診るをPFA、固めると診るをアピックヤマダが担ってきており、後工程ソリューションを1ストップで提供できる能力を有しているのがYRCであるとする。

  • 1ストップソリューション
  • 1ストップソリューション
  • 1ストップソリューション
  • ヤマハ発動機全体として後工程の幅広い工程に対応できるソリューションを提供してきたが、YRCとなることでこれを1ストップソリューションとして提供していくとする

先端半導体領域とパワー半導体領域に注力

ヤマハは、そんな後工程でのビジネスの方向性について、数が多く出る一般半導体分野をコア領域に据え、そこで得た資金を成長領域として据えた「先端半導体」および「パワー半導体」領域における成長と、シリコンフォトニクス(光電融合半導体)やハイブリッド接合、後工程の自動化などといった新領域への研究開発投資に回していくとする。

半導体市場そのものは多少の波はあるものの、今後も引き続き成長していくことが予想されているが、そのけん引役はAI半導体と目されている。AI半導体は2.5D/3Dパッケージを中心とする先端パッケージングが多様されており、必然的に当該の後工程分野も成長が期待されることとなる。すでにTSMCでは、自社の先端パッケージング技術であるCoWoSの供給能力が追い付かず、工場の生産能力拡充を図っているほか、IntelもSamsung Foundryも先端パッケージングの提供を推進しており、2nmプロセスの量産を目指すRapidusも先端パッケージングも併せて前工程、後工程を一貫して提供することを目指した研究開発を進めるなど、ファウンドリ各社も今後の顧客の囲い込み、および成長分野として認識した動きを見せている。

ヤマハでもそれぞれの領域に向けた研究開発を推進し、例えばHBMや先端プロセスを用いた半導体などで活用されているフリップチップボンダの高精度化や大型パネルパッケージへの対応などを進めていくとするほか、コア領域には高速・高精度ワイヤボンダやマルチプロセスモールディング装置を2025年より提供していくとする。次世代技術であるシリコンフォトニクスには高精度な位置合わせ技術が必要としており、研究用装置に加え、量産ソリューションの開発も進めていくとする。

  • コア領域と成長領域に向けた対応の一例
  • コア領域と成長領域に向けた対応の一例
  • コア領域と成長領域に向けた対応の一例

さらに後工程の研究開発の促進に向けて同社では「次世代半導体や新たな接合技術、検査技術、電子部品の組み立て技術などの探索を行っていく」(中村氏)としており、こうした探索は1社だけで進めるものではなく、レゾナックやヤマハが推進する次世代パッケージングの共同研究コンソーシアム「JOINT2(Jisso Open Innovation Network of Tops 2)」や、インテルやSEMIジャパンも参画し、後工程の自動化技術および標準仕様の確立を目指す「SATAS」などにも参画する形で研究開発を進めているほか、産業技術総合研究所(産総研)の推進するMEMS試作ラインをベースに、光チップレットや高周波デバイス、アナログ/デジタル混載など異種要素を集積化するハイブリッドパッケージングの研究開発にも参画している。

  • 一般半導体の基板

    ヤマハ発動機の後工程ソリューションで作られた一般半導体の基板

  • パワー半導体パッケージ
  • パワー半導体パッケージ
  • こちらはヤマハ発動機の後工程ソリューションを活用したパワー半導体パッケージ

  • 先端半導体パッケージ
  • 先端半導体パッケージ
  • こちらはヤマハ発動機の後工程ソリューションの1つモールディングを活用した先端半導体パッケージ

2027年に500億円、2030年代初頭に1000億円の売上高規模への成長を目指す

中村氏は7月1日付でのYRCの設立を、「次なるステージを切り開いていくための取り組み」と説明する。2019年の新川やアピックヤマダの買収発表当時、各社は赤字を計上する状態であったという。それを2019年~2021年の第1次中期経営計画にて各個社ごとに基盤を固める形での立て直し策としての工場の再編や海外拠点の統廃合などを推進し2021年に黒字化を達成。続く2022年~2024年の第2次中期経営計画で成長軌道に乗せたことを踏まえ、「そこからさらに次のステージにいくためには、1社になることが得策であると判断した」とヤマハ発動機 執行役員 ソリューション事業本部長の江頭綾子氏も、今回のYRCへの統合を判断した理由を説明する。

  • ヤマハ発動機 執行役員 ソリューション事業本部長の江頭綾子氏

    ヤマハ発動機 執行役員 ソリューション事業本部長の江頭綾子氏

そんなYRCが担う後工程事業はロボティクス事業全体の売上高1133億円(2024年度)のうち344億円(同)。今回の統合によるシナジーの最大化および新規プロセス技術の創出による事業成長により、第3次中期経営計画の最終年度となる2027年に500億円以上へと成長することを目指すとする。まら、さらに後工程のトータルソリューションの提供と、新領域の事業化とその成長を進めることで、2030年代初頭には売上高を1000億円を超す規模にまで成長させたいとする。後工程のトータルソリューションという観点では、従来のモールディングやボンディングといった領域にこだわらず、後工程での洗浄や表面処理、検査など、さまざまな研究開発を通じて水面下で進めている別の分野の装置やソリューションの提供も検討していくとしている。

  • 半導体後工程製造装置事業の成長に向けたロードマップ

    半導体後工程製造装置事業の成長に向けたロードマップ

また、こうした技術開発には人材が重要であるという点から、2027年までにロボティクス事業全体で技術人員を従来比1.2倍に増員することも計画しており(研究開発のみならずFAEなども含む)、ソフトウェアに関してはベトナムに開発会社があることを踏まえ、海外での採用も拡大していくとしており、グローバルでの研究開発体制の強化を進めていくとする。さらにグローバルの取り組みとしてはロボティクス事業として2025年第3四半期にインドに拠点を開設する計画としており、後工程半導体製造装置の拠点としても活用していきたいとしているほか、欧州も半導体の設計を中心に重要地域であるとの認識を示しており、2026年にサービス拠点の統廃合を含めた機能強化を図っていきたいとしている。

  • YRCへの統合目的とそれに伴う強化内容
  • YRCへの統合目的とそれに伴う強化内容
  • YRCへの統合目的とそれに伴う強化内容