東京大学(東大)は6月12日、従来手法と比べて100万倍高速で、かつ精密にガラスなどの透明材料を加工できる手法を開発したことを発表した。
同成果は、同大 大学院工学系研究科の伊藤佑介講師、張艶明 特任助教、小池匠 博士課程、吉﨑れいな 助教、任国旗 特任研究員、桐明颯汰 修士課程、長谷川亮太 修士課程、長藤圭介 教授、杉田直彦 教授、AGCの柴田章広 研究員、長澤郁夫 研究員らによるもの。詳細は、米国科学振興協会(AAAS)のオープンアクセス雑誌「Science Advances」に掲載された。
先端パッケージへの活用が期待されるガラス基板の実用化における課題
先端パッケージ基板へのガラスの活用が期待されるようになってきており、ガラスに対する微細加工技術の開発競争が世界的に進められているが、ガラスは硬いという特性の一方で割れやすいといった脆弱性を有しており、その加工の難しさが課題となっている。
加工法としては、化学薬品を用いたエッチングやレーザー加工が検討されているが、エッチングでは工程の複雑さに伴う加工時間の長さや廃液などの環境負荷を解決する必要がある。一方のレーザー加工についても、半導体の基板用途としての穴加工として、深さ1mm以上、直径100μm以下の穴を1つ開けるのに約10秒ほどを要しており、量産時に求められる1秒間に1000個以上の穴の形成を実現するためにはスループットの向上など、新たな技術開発が求められているのが現状である。
空間波形と時間波形の制御で高速化と高精度化を実現
今回、研究グループは、2018年に開発したガラス内部に一時的に自由電子を生成し、光吸収性を増大させた領域のみを選択的に高速加工する「過渡選択的レーザー加工法(TSL加工法=Transient and Selective Laser加工法)」をベースに、時間波形の制御に加えて、空間波形の制御も行う「ベッセルTSL加工法」を開発することで、速さ、形状、精密性の向上を図ることを目指したとする。
ベッセルTSL加工法は、レーザーの空間波形を通常のレーザービーム(ガウシアンビーム)ではなく、自己修復性を持つベッセルビームに整形することで、光強度分布を高アスペクト比(穴の深さと直径の比率)なライン状に制御するほか、時間波形としてピコ秒オーダーの鋭いレーザーパルスと低強度のマイクロ秒オーダーのレーザーパルスを重畳させることで、ガラス基板の表面から裏面を貫く高アスペクト比な自由電子領域を生成し、その領域のみの選択的な超高速加熱・蒸発を実現する手法。
これにより、加工時間は従来手法比で100万倍高速となる20μsで、深さ1mm、直径3μmの高アスペクト比の穴あけ加工を実現したという。また、穴の直径は、マイクロ秒レーザーの照射時間で制御することができるほか、従来のレーザー加工で問題となっていた加工時のクラック(亀裂)や穴形状のゆがみのない精密な加工を実現できることも確認したとする。
ガラス以外の材料にも適用可能
研究グループによると、同加工法はガラスのほか、サファイア、SiC、ダイヤモンドなど、さまざまな材料に対して適用可能であるとのことで、半導体産業のみならず宇宙分野、医用工学、物理工学など、幅広い分野への応用が期待できるという。また、従来のフェムト秒レーザーと比べて4桁低い光強度で高速加工が実現できるため、装置の低価格化や、エネルギー消費量の削減も見込めることから、産業応用という点での科学的価値があるとするほか、材料特性を瞬間的に変化させるという概念自体が、製造業におけるさまざまな工程に応用できる可能性があることから、製造業界にパラダイムシフトをもたらすことも期待できるとしている。