自動車向けCSS「Zena CSS」

Armは6月4日、自動車向けのCSS(Compute Sub System)である「Zena CSS」を発表したが、これに先立ち都内にてこのZena CSSに関する説明会を開催した。この内容を基にZena CSSをご紹介したい(Photo01)。

  • 説明を行ったBruno Putman氏

    Photo01:説明を行ったBruno Putman氏(VP, Auto GTM and Alliances)。実は以前インタビューを行った後、氏は一度Armを離れ、AkeanaのVP, Sales and Business Developmentを務めていたが、2024年9月に現職に就いている。「Akeana有望そうなのに、なんで辞めたの?」「(有望になるのに)まだ相当時間が掛かりそうだったから」だそうだ

先日アナウンスがあったように、Armは今後プラットフォーム別に異なるブランドを利用する事になっている。自動車向けはZenaであり、そんなわけで今回の発表はそのZenaを使う最初のものとなっている。

Zena CSSの概要

さてそんなArmであるが、昨年Cortex-A720AEやMali C720AEなどを始めとする自動車向けのIPと、これを組み合わせたCSSを発表している

もっとも、この時のCSSはまだ「Example」という事になっており、まだ具体的に仕様が定まっていなかった(Photo02)。

  • 024年の時点では、個別のIPのみが提供されていた

    Photo02:2024年の時点では、個別のIPのみが提供されており、CSSに関しては「これを提供する事を約束する」というレベルであった

今回の発表は、これをZena CSSとして発表したという事になる(Photo03)。

  • CPU Clusterは合計で16coreのCortex-A720AE

    Photo03:CPU Clusterは合計で16coreのCortex-A720AE。Safety IslandはCortex-R82AEが配される。ちなみに昨年の時点ではInterconnectはCMN-700ベースだったが、これがCMN S3AEという名称に変わった模様だ

CSSを活用するメリット

ここで気になるのは、そのZena CSS(多分今後、Zena CSS Gen 1とかZena CSS 2025とかに名称が変わりそうな気がする)に搭載されるIPの名称は引き続きCortexなことだが、これに関しては少なくとも将来の製品に関しては「Zena XXXXX」になるらしい。

ただ、まだ具体的にどんな名称にするのかArm社内でも決まっていない模様(叩き台はあるらしいが、最終決定には至っていないとの事)で、また旧来の製品の名称を変更すると混乱を招きそうなので、なんとなく今回のZena CSSに関してのProcessor IPは引き続きCortexベースのままで終わり、名称が変わるのは次のバージョンからになりそうな感じだ。

CSSのメリットは、設計工数の削減と、これに伴う開発時間の短縮である(Photo04)。

  • この20%の工数短縮というのは、CSSに含まれるProcessor Clusterの設計工数の話

    Photo04:もっともこの20%の工数短縮というのは、CSSに含まれるProcessor Clusterの設計工数の話であって、全体としてどうか? と言われるとそれはProcessor Cluster以外の部分がどの程度かに関係してくるので簡単には判断しにくい

ちなみにCSSはRTLの形で提供されるので原則としてFoundry/Process Nodeに無関係ではあるのだが、もし希望すればGDS IIの形での提供も可能だとする。ただこの場合、CSS以外の部分との接続もGDS IIレベルで行う必要があるので、そのあたりのバランス次第という話であった。

CSSの構成は固定で提供

ではそのCSSを使う事でどんな風になるのか? というのがこちら(Photo05)。

  • 現状NPUに関しては提供が無い

    Photo05:現状NPUに関しては提供が無い(EthosのAE版が存在しないため)。これに関しては色々検討中(日本法人アームのオートモーティブ事業部門 シニアマーケティングマネージャーである石川誠司氏)との事であった

Mali GPU/ISPはCSSとは別の形で提供される。CSSは基本、そこでの差別化が難しい(ので工数を掛けたくない)が、手は抜けないブロックの開発を容易にするためのものなので、差別化要因はCSSの外側ということになる。特に自動運転向けとかになると、今はAIの処理をどうするかという話がメインになる訳で、ここで差別化は十分に図れるし、そこに今のところArmが手を出す予定はないという話であった。

ちなみにCSSそのものはもう構成は固定なようで、なので用途に応じて複数個のCSSを利用するという形になる模様だ(Photo06)。

  • Cortex-A720AE×16というのは結構なCompute Powerになる

    Photo06:とはいえCortex-A720AE×16というのは結構なCompute Powerになるので、ローエンド向けにはややOverkillな気もしなくはないが、そこに向けて派生型とか作ると話が面倒になるので、この16コアを最小単位にしたのだろう

CSSをまるごとVirtual Platform上で動作させられるZena CSS

そのCSSであるが、昨年との最大の違いはVirtual Platform上での扱いである(Photo07)。

  • CSSの外側は各ユーザーがモデルを構築しないといけない

    Photo07:といってもCSSの外側は各ユーザーがモデルを構築しないといけないが、CSSを一塊で扱える様になっただけでも大分楽になっているのは事実だ

昨年の段階ではあくまでも個々のCPU IPベースでのModelを動かす格好だったが、Zena CSSはCSSをまるごとVirtual Platform上で動作させられるようになる。これは開発の迅速化に繋がる、という訳だ。

すでにさまざまなエコシステムパートナーがZena CSSに対応したソリューションの提供を始めており(Photo08)、これを利用して開発を容易に行えるようになるとしており、何も利用していない場合と比較すると最大で3年の開発期間短縮が可能、としている(Photo09)。

  • Zephyrに関しては現状は未サポート

    Photo08:ちなみにZephyrに関しては現状は未サポートながら、SOAFEE経由でSoftware Stackの提供を予定しているとのことだった

  • CSSがまるごとVirtual Prototype上で動作

    Photo09:Last YearとThis Yearの違いは、CSSがまるごとVirtual Prototype上で動作する&Zena CSS対応のエコシステムの活用で、ソフトウェア開発期間を短縮し、結果としてSystem Integrationを早期に始められる&Integrationの期間短縮も可能になる、というあたりらしい

ところでちょっと気になったのは、例えば産業機器向けのソリューションである。ちょっと古い話だが、2020年にArmがCortex-A78AEを発表した時、そのターゲットには車載だけでなく産業機器も入っていた。

要するに機能安全が必要とされる用途向けで、他には医療とか公共交通機関なんかもこれに含まれるかもしれない。こうした用途では機能安全に必要な機構と、Certificationを取得するための膨大な書類が必要で、車載向けと例えば産業向けでは完全に同じという訳ではないものの、かなりの部分が共通化できるという話で従来は車載向けのビジネスユニットがこうした産業向けなど機能安全が必要な分野をカバーしていたが、今回新しいプラットフォーム別のブランドになるにあたり、この産業機器向けなどはどこに入るのか? という事を確認したが、これもまだ最終決定ではないが引き続き自動車向けのビジネスユニットが面倒を見る(つまりZenaブランドで提供される)のではないか、との事であった。

なんかこの辺が余計判りにくくなった気がするが、新しいブランド別の製品名がどういうラインナップになるのか、楽しみというか怖い感じがする。