増加するデータセンターの電力を削減する技術開発を推進するNEDO

経済産業省(経産省)は、5月26日に開催した「第32回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 産業構造転換分野ワーキンググループ」にて、日本ゼオンより新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より支援を受ける形で進めてきた抵抗変化型不揮発性メモリ(NRAM)の開発中止の申し出を受け入れ、同プロジェクトを中止する方針を決定した。

同プロジェクトは、NEDOのグリーンイノベーション(GI)基金事業として進められてきた「次世代デジタルインフラの構築プロジェクト」における「次世代グリーンデータセンター技術開発」として、データセンター省エネ化を実現する要素の1つとしてDRAMの省エネ化ニーズへの対応に向けて、次世代の高速・大容量・低コスト不揮発性メモリ技術として、単層カーボンナノチューブ(CNT)を用いたNRAMの研究開発を2021年度~2030年度の10年間にわたって進めることを目指してきたもの。

AIデータセンターは、GPUの高性能化に併せる形で、GPUサーバーあたりで1万W以上の電力が必要となり、それに伴い、ラック当たりの電力消費量も膨大になることから、各コンポーネントの低消費電力化が求められるようになっている。メモリはGPUの性能をフルに引き出すために重要な存在だが、HBMはDRAMを多層化して活用するため、高性能化を図りながらも低消費電力化も実現することが求められるようになっており、代替技術の登場も期待されている。

動作原理の解明に基づく性能限界から開発中止を決定

日本ゼオンは、そうした低消費電力化を果たせる次世代メモリ技術としてNRAMに着目。NRAMの基礎技術を有するNantero、富士通セミコンダクターメモリソリューション(現RAMXEED)、産業技術総合研究所や広島大学などと連携する形で研究開発を進めてきており、これまで単体素子レベルでの報告に留まっていたNRAMの性能を300mmウェハレベルでの実証を目指していた。

  • 日本ゼオンによるNRAM開発の概要

    日本ゼオンによるNRAM開発の概要 (出所:経産省)

その目標は、DRAM比で消費電力60%削減可能で、大容量化やコスト面でのDRAM代替が可能なメモリの開発であり、動作原理機構や最適構造の解明などの開発に取り組んできたが、研究を進める中、NRAMの動作原理および故障原因が、ほかの不揮発性メモリ候補である抵抗変化型メモリ(ReRAM)と同様であることが判明。すでに報告されているReRAMの動作回数の限界は一般的に100万回(10の6乗)ほどであり、プロジェクトの最終目標であるDRAMの1兆回(10の12乗)には届かないとの判断から、2024年12月に日本ゼオンおよび研究パートナー各者が2024年度末での開発中止を決定したという。

  • 動作原理機構の解明を前倒しで進めてきた結果

    NEDO委員の助言に基づき、動作原理機構の解明を前倒しで進めてきた結果、早い段階での開発中止の決断に至ったとする (出所:経産省)

なお、この中止については、2025年2月に開催されたNEDO委員会による審議でも妥当と評価されたが、動作原理を明らかにした点については評価できるとされたほか、学術上意義のある結果も多く含まれており、学術的出版物として公開されることが要望されている。加えて、DRAM代替以外の用途としての検討についても望むとの見解が示されたという。

  • 中止に至った経緯

    中止に至った経緯 (出所:経産省)