次世代のEUV露光装置に向けた研究開発プログラムが始動
高エネルギー加速器研究機構(KEK)は5月23日、加速器を活用した半導体露光技術の研究開発プログラムが、内閣府主導のもと創設された「経済安全保障重要技術育成プログラム(通称“K Program”)で、科学技術振興機構(JST)が公募した「次世代半導体微細加工プロセス技術」の実施先の一部として採択されたことを発表した。
半導体の性能向上をけん引してきたプロセスの微細化を実現する露光技術は現在、最先端プロセスでは波長が13.5nmのEUV露光装置が用いられている。しかし、現状のEUV露光装置の光源はLPP(レーザー生成プラズマ法)と呼ばれる、赤外線レーザーをスズの液滴(スズドロップレット)に照射してプラズマ状態にして得る手法のものが採用されているものの、高出力化やデブリの問題があり、かつ1台あたりの消費電力が1MW以上という消費電力の大きさも課題とされている。
EUV光の発生に加速器を活用
そうしたすでに実用化済みのEUV露光装置のほか、新たな手法として加速器を活用してEUV露光装置を実現しようという検討が近年、中国などで進められるようになってきた。今回のKEKの手法も、こうした加速器を活用しようというもので、「エネルギー回収型線形加速器(ERL)」と呼ばれる、使用した電子ビームからエネルギーを回収して、次の新しい電子ビームを加速するのに使用することで高品質で高い平均電流の電子ビームを省エネルギーで供給することを可能とする次世代加速器を使い、「自由電子レーザー(FEL)」と呼ばれる技術(日本では理化学研究所のSACLAで実用化)を組み合わせて活用することが考えられており、エネルギー効率の改善や、「beyond EUV」と呼ばれる短波長化(目標は波長6.7nm)も比較的容易という利点があるとする。
KEKでは現在、小型のERL(cERL)を運転しているというが、そこで加速できている電子のエネルギーは数十MeVほど。半導体の露光に必要なEUV光を発生させるには800MeVほどまで加速する必要があるため、新たにエネルギー損失が少ない超伝導加速空洞を開発するほか、この加速空洞を極低温環境で使用するための大電流対応の低温容器(クライオモジュール)の設計も行うという。
また、より明るいEUV光を実現するために必要な大電流の電子ビームを得るために、加速器に打ち込む電子銃の性能向上が必要となるが、すでにKEKでは。「光電陰極」と呼ぶ、電子銃の心臓部の改良の成果が出ているとのことで、今後、その改良をさらに進めていくとする。
量産適用に向けた周辺技術の開発も並行して実施へ
さらに、ERL型加速器はまだ世界的に事例が少なく、産業利用として成立するレベルの安定性で、大強度FEL発振をしながら、大電流ビームをエネルギー回収運転する技術は確立していないことから、KEKではKEKが持つ高精度ビーム監視技術を活用することで、ビーム損失の制御と長期間の安定運転の実現を目指す取り組みも進めて行くという。