imecとMerckがライフサイエンス分野で協業
ベルギーimecと化学メーカー大手の独Merckは5月20日、高度な微小生理学的システム(MicroPhysiological Systems:MPS)プラットフォームの開発に向けた戦略的提携を発表した。
MPSは生体模倣システムとも呼ばれ、実際の人体の生理学的環境を模倣した、半導体微細加工技術を利用した微小な人工生体モデル。今回の協力は、次世代の前臨床試験(非臨床試験)モデルの予測妥当性を高め、動物実験への依存を段階的に低減することで、創薬・開発の効率向上を目的としたものとなる。
半導体製造技術のライフサイエンス/バイオ分野への応用を目指してきたimec
imecは、以前から半導体微細化技術の医学分野への応用に注力してきたが、今回の取り組みでは、最先端のオルガノイド(生体外で作られた臓器)生物学モデルと目的に適したバイオセンシングおよびマイクロ流体機能を組み込んだ先進的な半導体ハードウェアを統合することで、個々の臓器の健康状態から多臓器連携システムに至るまで、時間的に関連する知見を解明する能力を科学者に提供し、より正確で効率的な医薬品開発プロセスへの道を開くことを目指すとする。これらはすべて、Merckのヘルスケア研究室において使いやすさが検証されるほか、同社のライフサイエンス事業部門により世界規模でサポートされることとなる。
このパートナーシップの中核となるのは、共同で開発が進められる高度に適応性の高いモジュラーシステムであり、単一臓器構成から複数臓器構成へのシームレスな拡張を可能にするという。このシステムの標準化されたインタフェースは、Merckの幅広い人工多能性幹細胞および患者由来オルガノイドモデルのポートフォリオからカスタム構成を可能にしており、imecのセンサ技術集積に関するノウハウと組み合わせることで、最先端のバイオセンサにより、ラベルフリー(生体組織を染色することなくイメージングする非標識)測定による高品質なデータの取得を可能にするとともに、細胞培養の制御と再現性の向上を実現。その結果として、薬物および化学刺激に対するヒト臓器の反応をより確実に予測し、リアルタイムで特定することが可能になり、前臨床の安全性、毒性試験、DMPK(薬物代謝および薬物動態)試験への応用が可能になるとしている。
さらに、この技術を支える標準化されたビルディングブロックセットにより、異なる実験設定間での使いやすさとデータの一貫性が実現するため、この標準化により、製薬業界全体でより比較可能で再現性の高い結果が得られ、医薬品開発のタイムラインが短縮され、コストも削減されることが期待されるともする。
脱動物実験を可能にする新薬開発プロセスを目指す
Merckのバイスプレジデント兼テクノロジー・イネーブルメント責任者であるスティーブン・ジョンストン氏は、今回の提携について「Merckの人工多能性幹細胞と患者由来オルガノイドのポートフォリオを、前例のない数のバイオセンサを搭載した共同ハードウェアプラットフォームに統合することで、重要な高品質の生物学的トレーニングデータを生成することができるin vitroおよびin silicoの連携パイプラインを構築し、AI主導の創薬と組み合わせることで、ヒトへのデータ変換性を向上させ、新薬候補の発見を加速させ、研究者がこれまで以上に人体に近いシミュレーションを行うことを可能にする 」と述べている。
なお、Merckとimecの両社は今後、他のバイオテクノロジー企業や製薬企業にもこの取り組みへの参加を呼びかける形で、次世代のMPSモデルを開発していくとしている。