ベルギ―の独立系ナノテク研究機関imecは、スペクトラル波長領域を可視光から近赤外まで広げたリニアスキャン・ハイパースペクトラルCMOSイメージセンサ(図1)を開発し、2月中旬、米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された「SPIE Photonics West」での発表と実演を行った(図2)。1チップで分光可能な波長領域は470~900nmで、バンド数は140以上。
図1 リニアスキャン広波長帯域ハイパースペクトラルCMOSイメージセンサ (出所:imec。以下すべて同様) |
図2 SPIE photonics West 2016におけるimecのハイパースペクトラル・イメージング実演ブース |
「1チップでVNIR(Visible to Near Infrared)センサを開発できたのは、シリコンウェハ上に超微細構造の可視光用と近赤外用の2種類のスペクトラル・フィルターを堆積出来たため」とimecでVNIRセンサ開発を担当しているAndy Lambrechts氏は説明する(図3)。
ハイパースペクトラル・イメージングは、物質ごとに吸収(または放射)する光の波長が異なるという性質を利用して、波長ごとにイメージ分光して物質を認識し特徴づける技術である。元々は標的識別などの軍事目的に開発された技術である。近年は航空機から地表を遠隔探査して農作物、森林、水路、鉱床などの状態を観察・分析するために用いられているが、一般には装置が大掛かりで撮影速度が遅い。
imecは、今回開発したリニアスキャンVNIR(Visible to Near Infrared)スぺクトラルセンサの用途として、人工衛星や無人航空機(AUV)やドローンを用いた「精密農業(precision agriculture:農地・農作物の状態を精密に観察し、きめ細かく制御し、農作物の収量及び品質の向上を目指して今後の計画を立てる一連の農業管理手法)」(図4)をはじめ、マシン・ビジョン、遠隔監視を想定している。
スナップショットVNIRハイパースぺクトラル・カメラを実演
またimecは、このリニアスキャン・イメージセンサとは別に、可視光用と近赤外用の2枚のモザイク・センサを使ったスナップショットVNIRカメラ(図5)を独VRmagicおよび独Cubertの2社の協力を得て開発し、「SPIE Photonics West」で実演している。
共同開発パートナーのVRmagicは工業用の画像処理やVR向けカメラメーカ―、Cubertは独Ulm大学の研究者らが2011年に設立したハイテク技術研究のスタートアップ企業である。
このカメラでは、16バンド、4×4モザイクセンサが450-600nm波長領域をカバーし、25バンド5×5モザイクセンサが600-875nm領域をカバーしている。
用途としては、マシンビジョン、防犯用監視カメラや医学への応用を想定している。imec内部では、従来より、ハイパ―スペクトラル・イメージングの皮膚がん診断への応用研究を行っている。
imec集積イメージング・ビジネス開拓マネージャーであるJerome Baron,氏は、「可視光(450nm)から近赤外(875nm)にいたる波長帯域に渡り、ビデオレートのスピードで40バンド(種類)以上のスぺクトル画像を得られるので、いよいよ、次は"リアルタイム"スナップショット・ハイパースペクトラル・カメラ市場へ向けた目標を設定する」と抱負を語っている。
imecは、このカメラを2016年4月に戦略的協業企業に対してサンプル出荷し、その後、ハンディなサイズに小型化したカメラを市販する予定である。将来的には、1チップ化して更に小型化を狙っている模様である。
図6は、imecが2014年6月にブリュッセルで開催された同社年次事業発表会「imec Technology Forum 2014」で公表したハイパースペクトル・イメージングのロードマップであるが、計画がほぼ予定通りに進行していることがうかがえる。これによると、スペクトル帯域をさらに赤外領域まで広げると共に、顕微鏡に装着して医学分野への応用が計画されている。
なお、imecでは、重点研究領域として、持続可能な社会実現のためのエネルギー(太陽光発電、次世代電池など)、スマートリビングをめざしたライフサイエンス、来るべき本格的IoT時代を見据えた超低消費電力RFやイメージセンシングを掲げている。さまざまなタイプのイメージセンサを研究開発しているが、リニアスキャンおよびスナップショット・ハイパースペクトラル・イメージセンサは実用段階に達している。このほか、非可視光イメージャ、レンズレス・イメージャ、有機イメージャ、3Dステレオ・イメージャなどに取り組んでいる。