Agilex 3の受注が開始

2月12日にInnovation Forumを開催したAlteraであるが、3月11日に正式に「Agilex 3」の受注開始を発表した。

この発表に先立ち、報道関係者向けに同社CEOであるSandra Rivera氏と、Altera Japan社長兼GM, APJ Salesを務めるSam Rogan氏によるオンライン説明会が開催されたので、その内容をベースにご紹介したい(Photo01)。

  • 上がSam Rogan氏、下がSandra Rivera氏

    Photo01:上がSam Rogan氏、下がSandra Rivera氏。Zoomを用いての説明会だった関係で、画面が小さいのはご容赦を

元々Xilinxと並ぶトップFPGAベンダーだったAlteraであるが、2015年にIntelに買収されて以来、そのシェアを次第に落とし始めていった。直接的な理由としては、「Stratix 10」の出荷が1年遅れ、その間にハイエンドFPGAのマーケットをXilinxに持っていかれてしまった事が1つ挙げられるとは思う。ちなみに出荷の遅れはIntel 10nmプロセスの遅延がその大きな理由であり、これは後継であるAgilexの出荷遅延にも繋がる事になった。

もう1つ理由を挙げれば、そもそもIntelがFPGAベンダーであるAlteraを買収したのは、データセンター向けソリューションがCPUからCPU+FPGAという方向に変わりそうになっていたが、IntelはFPGAのソリューションを持ち合わせていなかったから、というのが大きな理由になる。

ところが実際にはCPU+FPGAになるはずが、CPU+GPUになってしまい、CPU+FPGAというトレンドは実現する前に消えてしまった。悪い事にIntelはこのCPU+FPGAに向けて現Alteraの前身であるPSG(Programmable Solutions Group)にて投資をサーバー向けソリューションに集中させてしまっており、本来のFPGAのフィールドであったEmbedded向けがやや疎かになっていたことは否めない。まずはこうした問題を是正してゆきたい、という事がこのロードマップから見て取れる(Photo02)。

  • まずはFPGAの独立企業として立て直すところからのスタート

    Photo02:まずはFPGAの独立企業として立て直すところからのスタートである。XilinxがAMDに取り込まれたことで、結果として独立系FPGAベンダーの最大手になっている訳で、これを強みに変えてゆきたい、という訳だ

今回のAgilex 3の発表は、もちろんAgilex 3がアナウンスから実に1年以上も経過しているので「やっと」という面もあるのだが、ハイエンド向けではなくCyclone Vの後継となるEmbedded向け製品の投入、という象徴的な意味合いも含んだものになる(Photo03)。

  • 競合製品で言えば、Artix/Kintexに加え、Zynqのローエンドあたりと丁度ぶつかる格好

    Photo03:競合製品で言えば、Artix/Kintexに加え、Zynqのローエンドあたりと丁度ぶつかる格好だ。細かい話は後述

すでにSiliconの受注もスタートしており、加えてiWaveおよびTerasicからパートナーボードも提供される予定とされる。逆にAlteraが自身で開発ボードとか(AMDのKriaの様な)製品レベルに利用できるボードを提供する予定は今のところ無い、という話であった。

実はもうこのAgilex 3は細かいSKUが発表されている(Photo04)。

LE数は25K~135K、Fabricの速度は最大345MHzとなっている。高速I/Oについては最大12.5Gbpsのものを4本利用可能な他にPCIe 3.0×4、および10GbEを(一部SKU)で利用可能。またMIPI D-PHYを最大14本利用できる。さらにこれも一部のSKUだけだがDual Cortex-A55@800MHzを搭載し、外部Memory I/FとしてLPDDR4-2133をサポートする。Cyclone V(Cortex-A9 SP/MP@925MHz+DDR2/DDR3/LPDDR2)から大幅に機能と性能が上がった形だ。

ちなみにPhoto03で性能が最大1.9倍、消費電力が最大38%減とあるが、まず性能はFabric Performanceの比較で、単にLEだけでなくDSPやMultiplierの性能も加味されていると思われる。LEで言えばAgilex 3が最大でも135K LEなのに対しCyclone 5 E FPGA(CPU無し)は301K LE、DSP/MultiplierはAgilex 3が最大184個/368個なのに対しCyclone Vは342個/684個でむしろ負けているのだが、CPUを搭載したCyclone V SE/SX/STのSKUで言えばLEが最大110K、DSPが最大112個、Multipliersは最大224個となっており、Agilex 3の方が1.9倍くらいの性能になっても不思議ではない(ちなみにMultiplier、Cyclone Vでは18×18なのがAgilex 3では18×19になっている)。

一方、消費電力の方はLEを100%使い切った状態で150MHz駆動で動作させた場合の比較だそうだが、Cyclone Vが1.1Vなのに対しAgilex 3は0.75Vで動作しており、これが関係しているものと思われる。またAgilex 3はTensor BlockをFabricに搭載しており、これによりローエンドの「A3C025」でも0.47TOPS、ハイエンドのAC3135では2.54TOPS(いずれもINT8)のAI演算性能を持つとする。これだけの性能があれば、もちろんLLMのローカル推論なんていうのは論外にしても、ロボット制御(Photo05)とか自動運転(Photo06)などの利用が可能になるとしている。

  • ロボットというよりもむしろドローン的な用途向けという気もする

    Photo05:これロボットというよりもむしろドローン的な用途向けという気もする。まぁどちらもある意味一緒だが

  • カートとか農業機械などには確かにこれでもなんとかなるかもしれない

    Photo06:乗用車には論外だが、カートとか農業機械などには確かにこれでもなんとかなるかもしれない

単にCyclone Vの後継というだけでなく、これまではもっと上位のFPGA(ArriaやStratix)を持ち込まないと不可能だった処理も可能になる、としている。他にもサーバー用のPlatform ROT(Root of Trust)とか医療などにも適用できる、という説明である(Photo07)。

  • alt属性はこちら

    Photo07:ただPlatform ROTに関して言えば、それこそLatticeのMach-NXの様にSecure Enclaveを内蔵しないと厳しい気がするのだが、今のところそうした機能がAgilex 3に内蔵されているかどうかの資料がない

Agilex 5 Eシリーズの量産出荷が開始

なお今回はこれに加え、Agilex 5 Eシリーズが量産出荷を開始したこと、ならびにMax 10の10M40/10M50に新しくVPBGA-610パッケージが追加されたことも発表された(Photo08)。

  • Quartusは引き続き古いデバイス(Cyclone/Arria/Stratix)のサポートを行ってゆく

    Photo08:質疑応答の中で明らかにされたのは、Quartusは引き続き古いデバイス(Cyclone/Arria/Stratix)のサポートを行ってゆくということ。このあたりはISE→Vivadoへの移行の際に古いデバイスのサポートが切り捨てられたXilinxよりは良い対応と言える

現状10M40/10M50はE144、F256、F484、F672の4種類が用意されている(E144のみ0.5mm PitchのEQFP、他は1.0mm PitchのFBGA)。このVPBGA-610パッケージは現在サンプル出荷中で、量産出荷は今年第3四半期との事であった。

日本市場は通信・医療・民生・車載、そして防衛産業に期待

この後日本のマーケットに関してRogan氏より簡単に説明があった。といってもまだ明確な戦略を立て終わったという感じではないのだが、Xilinx時代とほぼ同じく通信・医療・民生・車載といった様々なマーケットに期待が持てるという話で、Xilinx時代に入れなかった顧客に積極的に入ってゆきたいということだった。1つだけ新しい分野としては防衛産業向けが期待できるとの事。ここはXilinx時代に入れなかった分野であるが、最近はこの防衛産業も大分風向きが変わってきており、色々期待をしているらしいとの事であった。このあたりの話はまたご紹介できれば、と思う。