自動化が進むにつれて、モーションコントロールの重要性が高まっています。モーターを効率的に駆動するには、速度と位置を検知する制御入力が必要です。しかし、このセンシングには多様な方法が存在し、それぞれに異なる属性と用途があります。
この記事では、さまざまな回転センシング技術を比較し、それらの選択理由について考察します。次に、市場で入手可能ないくつかの最新デバイスについて説明します。
位置センシングアプリケーション
位置センシングアプリケーションは、これまで手動で行われていたプロセスが自動化され、より高い精度、優れた生産性、および低い運用コストを実現することから、急速に拡大しています。実際、何らかの動きがあるところには、コントローラーに位置情報を提供するセンサーが存在します。
インダストリー4.0により、産業市場における自動化が急速に進んでいます。ロボット工学が普及し、疲労やミスを起こさない24時間365日の「無人」運転が可能になっています。このようなシステムでは、各運動軸にセンサーが必要です。また、従来の工場で人間と並んで作業する「コボット」にも同じことが言えます。
今日、多くの部品が、コンピューター数値制御(CNC)マシン、レーザーカッター、3Dプリンターなどの機械によって製造されています。これらの機械にはそれぞれに可動部品があり、品質目標を達成するには精密な位置制御が要求されます。成形された材料は、自動マテリアルハンドリングやコンベヤーベルトで運ばれることが多いため、やはり位置センシングが必要です。
工場環境の外では、患者またはスキャナーを移動させる大型医療機器に位置制御が必要です。また、ロボットが手術を行えるようになったため、ここでも非常に精密な制御が必要になります。
輸送部門では、どのアプリケーションにも動きが存在し、列車、農業機械、建設機器などの従来式の車両だけでなく、倉庫で使用される自律走行型モバイルロボット(AMR)などの新しいアプリケーションや現在使用中の何千機のドローンにも、位置センシングが採用されています。
乗用車の電動化が拡大するのに伴い、内燃機関(ICE)、電気自動車(EV)、ハイブリッド車など、あらゆる駆動方式で機械制御から「ドライブバイワイヤー」や「ステアバイワイヤー」などのシステムへの移行が加速しています。これらのシステムが動作するには、アクセルペダル(アクセル)の位置を電子制御ユニット(ECU)に、またはステアリングホイールの位置をステアリング制御システムに伝達する必要があります。
制御範囲が車両のほぼすべての操作にまで拡大しており、サスペンション構成部品(車高調整/乗り心地制御用)、パワートレイン、および電動ウィンドウ、サンルーフ、ドアロックなどの部分にも位置センシングが応用されています。
位置センシング技術の比較
回転位置センシングに利用できる主な技術は、光学式、磁気式、誘導式の3方式です。それぞれ動作モード、長所、短所、用途が異なります。
光学式エンコーダーは、一般的に最も高精度と考えられており(ただし、例外もあります)、ディスクに開いた穴を通過する光で位置を検出します。ディスクが回転すると、光パルスが発生して動きを検知できます。
これらのデバイスは通常、精密ロボットやCNC旋盤またはレーザーカッターのような工作機械など、極限の精度が要求されるアプリケーションで使用されます。高精度で磁場の影響を受けにくい反面、振動やディスクの汚れに弱く、動作不良の原因となることがあります。
磁気式エンコーダーは一般的に精度が低く、主に低コストが求められるアプリケーションで使用されます。これらは振動や汚れに強い反面、外部磁場の影響を受けやすく、使用できる環境が限られます。
誘導式エンコーダーは、磁気式エンコーダーよりも高精度です。振動や汚染に強く、磁場の影響も受けません。また、再現性が高く、温度変化に強く、部品点数が少なく、小型で磁石などのレアアース材料を必要としないという利点もあります。
オンセミのデュアル誘導型位置センサー
オンセミのデュアル誘導型位置センサー「NCS32100」は、2枚のシンプルなPCBディスクを使用し、+50 arcsec、つまり0.0138度の機械的回転を超える、高い非接触位置精度を実現します。1枚のPCBはモーターのステーター(固定側)に取り付けられ、もう1枚の単層PCBはローターまたはシャフトに固定されています。両方のPCBは互いに平行で、0.1mm~2.5mmのエアギャップで分離されています。NCS32100はステーターのPCB上に配置されています。
細線および粗線(デュアル)の導電トレース、つまりコイルは、両方のディスク表面にプリントされています。また、励起コイルと呼ばれる第3の導電トレースが、ステーターPCBにプリントされています。NCS32100は4MHzの正弦波を励起コイルに送信し、ステーター励起コイルの周囲に電磁場を作ります。ファラデーの相互誘導の法則により、ローターの細線コイルと粗線コイルが電磁場を横切ると、ローターコイルにエネルギーが結合され渦電流が発生します。
一方、ステーターの細線コイルと粗線コイルは、最大8つのNCS32100のレシーバー入力に接続されます。ローターが回転すると、ローターの渦電流がステーターのレシーバーコイルを妨害します。NCS32100は、内部のDSP(デジタルシグナルプロセッサ)内の独自アルゴリズムで、これらの外乱を処理することによって、ローターの位置を測定します。
40mmのPCBセンサーを備えたNCS32100は、最大6000回転/分(RPM)で±50 arcsecの位置精度を達成し、精度は若干低下するものの、最大4万5000RPMの速度で位置を提供することができます。より大型のPCBセンサーまたはローターとステーターの正確な位置合わせで、より高い精度(±10 arcsec未満)を達成できます。
このシンプルなソリューションには、実装する電子部品がほとんどないため、小型化と低コスト化を実現できます。また、温度変化、汚染、外部磁場の影響をまったく受けません。
デュアル誘導型技術向け統合ソリューション
NCS32100を使用して、産業用アプリケーションおよび産業環境で使用するための高精度回転位置センサーを設計できます。アブソリュートデバイスであり、位置を特定するのに動きは必要ありません。
最大6000 RPMまで±50 arcsecの最大精度を達成しており、多くの光学式エンコーダーの性能に匹敵します。このデバイスはArm Cortex M0+ MCUも搭載しており、高度な構成が可能で、さらに内部温度センサーも備えています。
また、内蔵キャリブレーションルーチンにより、1つのコマンドでセンサーの自己キャリブレーションが可能で、開始されたプロセスは2秒で実行されます。リファレンスエンコーダーは不要で、ローターが100~1000RPMの間で動作している限り、このルーチンはいつでも実行できます。キャリブレーション係数はすべて不揮発性メモリ(NVM)に保存されます。
一般的な光学式ソリューションには、光学ディスク、ステーターPCB、LEDドライバーPCBの合計3枚のPCBが必要であり、フル機能を実現するには約100個の部品が必要です。
これに対して、NC32100をベースとしたソリューションには、部品のない単層のローターPCBと12個の部品を搭載したステーターPCBの2枚のPCBで済みます。
車載アプリケーションでは、コストと信頼性も重要ですが、特にステアリングやブレーキなどの用途では、安全性が最優先されます。オンセミの車載用アブソリュート型位置センサー「NCV77320」は、特にこのような重要なユースケース向けにISO26262に準拠して設計されています。NCV77320の位置精度は、PCBの形状に応じて194.3 arcsec、つまり0.0539度の機械的回転です。これは主に、NCS32100の8つのレシーバー入力に対して、NCV77320には3つのレシーバー入力しかなく、そして細線および粗線コイルPCBの構成に対応していないためです。NCV77320とNCS32100は両方とも、ロータリーエンコーダーまたはリニアエンコーダーとして動作できます。
NCV77320のアプリケーションには、ブレーキペダルセンサー、アクセルペダルセンサー、モーター位置センサー、ブレーキシステムセンサー、車両レベルセンサー、トランスミッションレンジセンサー、スロットル位置センサー、排気ガス再循環センサーなどがあります。
NCV77320は、NCS32100と同様に、汚染、温度変化、磁気干渉の影響を受けにくく、周囲温度範囲が-40ºC~+150ºCの車載環境で使用できます。
NCV77320は最大1万800 RPMの回転速度で動作でき、コンパニオンMCUとSENT、SPI、またはアナログで通信します。
まとめ
自動化の拡大に伴い、回転モーターの位置検知能力の必要性が高まっています。この目的のために、光学式、磁気式、誘導式などの多様な技術が用いられています。光学式は高精度ですが、高価で汚染に弱いのが難点です。磁気式は低コストですが、磁場の影響を受けやすいという欠点があります。
誘導式が主流になりつつある中、デュアル誘導型センサーの登場によって、光学式に匹敵する精度をより低コストで実現できるセンサーの構築が可能になりました。
本記事はonsemiが「Embedded Computing Design」に寄稿した記事「Inductive Position Sensors for Industrial and Transportation Markets」を翻訳・改編したものとなります
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