Appleは2月24日(米国時間)、今後4年間で米国に5000億ドル(約75兆円)以上を投資する計画を発表した。同社にとって史上最大の支出公約だという。計画には、テキサス州のAI向けサーバー製造工場の新設や、アリゾナ州のTSMCの半導体工場をはじめとする全米各地の製造業支援のための製造業基金の倍増、ミシガン州での製造アカデミーの新設、AIとシリコンエンジニアリングへの投資加速などが含まれる。

米トランプ大統領の就任式にも出席していたAppleのティム・クック最高経営責任者(CEO)は2月20日にトランプ大統領と会談したが、その後、トランプ大統領は「クック氏は輸入関税を払いたくないので、米国内に数千億ドルを投資するようだ」と話していた。

  • 「Apple の米国への投資拡大」と題されたインフォグラフィック

    「Apple の米国への投資拡大」と題されたインフォグラフィック。直訳すると、上から「今後4年間で5000億ドルを投じる」、「290万人の雇用を支援」、「今後4年間で2万人を新規雇用」、「Apple製品用シリコン生産向け米国工場24か所(を支援)」 (出所:Apple)

ヒューストンにAI向けサーバー製造工場を新設

この米国投資パッケージの一環として、Appleとパートナーは、テキサス州ヒューストンに新しい製造施設を開設し、Apple Intelligenceをサポートするサーバーを生産することを決めたとする。2026年にオープン予定の25万平方フィートのこのサーバー製造施設では、数千人の雇用が創出される見込みだという。

Appleが使用するサーバーは、これまで米国外で製造されていたが、新たにヒューストンで製造されるサーバーは、Apple Intelligenceの原動力として重要な役割を果たし、強力なAI処理とAIクラウドコンピューティング向けにこれまで大規模に導入された中で最も先進的なセキュリティアーキテクチャを組み合わせたプライベート クラウド コンピューティングの基盤になるという。

また、サーバーはAppleのエンジニアによる長年の研究開発の成果を結集し、業界をリードするAppleシリコンのセキュリティとパフォーマンスをデータセンターに提供するとしている。

Appleでは、エネルギー効率の高いサーバーを設計することで、すでに100%再生可能エネルギーで稼働している自社データセンターのエネルギー需要の削減に成功したとしており、環境に対応しつつノースカロライナ州、アイオワ州、オレゴン州、アリゾナ州、ネバダ州のデータセンターのデータ容量を引き続き拡大し、Apple Intelligenceを米国全土の顧客に提供していくとする。

米国での製造業基金を倍増し、TSMCのアリゾナ工場などを支援

今回の新たな投資の一環として、Appleは全米で世界クラスのイノベーションと高度なスキルを要する製造業の雇用を支援するために2017年に設立した米国先進製造業基金を倍増することを決めた。この投資拡大により、基金は50億ドルから100億ドルに増額され、金銭的な支援により、全米で先進的な製造業とスキル開発を促進することを促進するという。

この基金の拡大には、米国アリゾナ州にあるTSMCのFab 21施設で先進的なシリコンを生産するというAppleの数十億ドル規模のコミットメントも含まれる。Appleはこの最先端施設の最大の顧客で、同社向けチップの大量生産は2025年1月より開始されている。TSMCは、米国で半導体製造のために2000人以上の従業員を雇用しているという。

Appleが採用する半導体チップは、米国では、アリゾナ州、コロラド州、オレゴン州、ユタ州を含む12州の24の工場(Broadcom、Texas Instruments、Skyworks、Qorvoほか)で製造されている。

ちなみにAppleの米国先進製造基金は、ケンタッキー州、ペンシルベニア州、テキサス州、インディアナ州を含む13州における半導体以外のプロジェクトも支援している。

  • Texas Instrumentsのユタ州の新工場で製造されているApple向け半導体

    Texas Instrumentsのユタ州の新工場で製造されているApple向け半導体 (出所:Apple)

米国全土で研究開発投資を増額

Appleは、過去5年の間に米国での先進的な研究開発費をほぼ2倍に増やしており、今後も成長を加速させ続ける計画でもある。

同社は最近、iPhoneの最新モデルとして「iPhone 16e」を発表した。iPhone 16eは同社最新のA18チップと、自社による初設計のセルラーモデム「Apple C1」を搭載し、高速でスムーズなパフォーマンスと高いバッテリー寿命を実現したとしている。Apple C1は、Appleシリコンの歴史に新たな1ページを加えるものであり、何千人ものエンジニアの努力を結集した長年の研究開発投資の成果だとしている。今後4年間で同社は約2万人の雇用を計画しており、その大部分はR&D、シリコンエンジニアリング、ソフトウェア開発、AIおよび機械学習に従事することになるという。

デトロイトに新しい製造アカデミーを設立

このほか同社はデトロイトに「Apple Manufacturing Academy」を開設するとも発表している。Appleのエンジニアが、ミシガン州立大学などの一流大学の専門家とともに、中小企業にAIやスマート製造技術の導入についてコンサルティングを行うという。アカデミーでは、プロジェクト管理や製造プロセスの最適化など、従業員に不可欠なスキルを教えるスキル開発カリキュラムを含む、無料の対面およびオンラインコースも提供するとしている。

長年同社は、アメリカの労働者と学生の教育とスキル開発への投資に尽力してきたという。これには、4-H、Boys & Girls Clubs of America、FIRSTなどの組織への継続的かつ拡大中の助成金プログラムが含まれる。

また、次世代イノベーターへのサポートとして、ハードウェアエンジニアリングやシリコンチップ設計のキャリアに向けて学生を準備する同社のNew Silicon Initiativeなどの取り組みも含まれる。2024年、このプログラムはジョージア工科大学の学生にまで拡大され、現在は全米8校の学生に広がっている。Appleは、2035年から始まるUCLAのマイクロチップ設計者教育センター(CEMiD)との新たなコラボレーションを含め、この取り組みを拡大し続けていくとしている。

米国への投資を背景に関税免除を要請か?

なお、同社のクックCEOは、「私たちはアメリカのイノベーションの将来に期待しており、この5000億ドルの投資で長年にわたる米国への投資をさらに強化できることを誇りに思う。先進製造業基金の倍増からテキサスでの先進工場の構築まで、アメリカの製造業への支援を拡大できることを大変嬉しく思っている。そして、アメリカのイノベーションの歴史に新たな素晴らしい一章を書き加えるために、米国中の人々や企業と協力し続ける」と述べている。

Appleは、これまで中国を主な生産拠点としてきており、iPhoneの大半は中国で組み立てられてきた。そのためトランプ政権の対中追加関税がコスト上昇要因として懸念されているが、今回の発表では、iPhoneの生産には言及していない。第1次トランプ政権では、Appleの米国投資拡大と引き換えに関税の対象から外れた経緯があるので、今回も米国への5000億ドルの投資と引き換えに関税対象から除外要請しているではないかと見られている。